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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第二百六十四話 守るために


 ***


 Side:柊


 身体はもう、

 僕の意思なんて聞いてくれなかった。


 許せなかった。


 互いに弾かれ、距離を取る。


 紫苑さんは体勢を立て直し、

 ふわりと庭石の上に着地した。

 

「僕の話まだ終わってないんだけど⭐︎」


「聞く必要がないので」


「二回も顔面狙いとか酷くない⭐︎?

 僕の綺麗な顔に傷がついたらどうすんの⭐︎?」


 紫苑さんが頬に片手を添える。


「本当のこと言われてムカついちゃった⭐︎?」


「黙れって言ってるのが、わからないですか?」


 次の瞬間、

 紫苑さんが消えた。


「お前何様だよ⭐︎」


 目の前。

 拳が迫る。


 ドガッ!!


「……ぐっ……」


 頬に拳がめり込む。


 崩れそうになる膝を、なんとか踏みとどまった。


 しかし、


「おかえし⭐︎」


 ドゴォッ!!


 二発目。


 今度は反対側の頬へ捩じ込まれた。


 堪えきれず、横へ吹き飛ぶ。


 水浸しの庭を何度も跳ねた。


「……っ」

 

 素早く身体を起こす。


「結局お前が出てきてんじゃん⭐︎」


 紫苑さんが鉄槌を拾い上げる。


「やっぱ雑魚には任せられないもんね⭐︎」


「……颯は、雑魚じゃない……!」


「雑魚だよ⭐︎」


 紫苑さんが地面を蹴った。

 

 一瞬で、姿が消える。


 それだけじゃない。

 気配も感じられない。


 ——どこから来る!?


 ガタンッ!


 屋根瓦が踏まれる音がした。


 ——上!?


「……ちがう!」


 あの人なら、


 音に気を取られて、

 相手が見上げた瞬間に——


 下から来る!!


 身体を横へ滑らせた。


 ブォンッ!


 鉄槌が空を切る。


「……へぇ⭐︎」 

 

 低姿勢で紫苑さんが滑り込んできていた。


 僕は霊力を左脚に纏わせ、

 紫苑さん目掛けて振り抜いた。


 ドガッ!!


 鉄槌に受け止められる。


「……っ⭐︎」


 ——押し切らない。


 脚の力を抜いた。


「おっと⭐︎」


 紫苑さんの体勢が崩れる。


「祓撃!!」


 バゴォン!!


 旋回する霊力を纏った拳が、鉄槌を穿った。


 バキバキ……バキンッ!!


 鉄槌が砕け散る。


「もう盾はないですよ……!」


 そのまま拳を叩き込もうとした。


 しかし、


「ばん⭐︎」


 紫苑さんの指鉄砲が、僕を捉えていた。


 圧縮された霊力が、弾丸みたいに飛ぶ。


「……くっ……!」


 防御——!

 

 ガキィンッ!!


 なんとか間に合った。


 それでも全身が痺れる。

 

 なんて威力だ……!


 後方へ滑り、湿った庭に靴跡が線を引いた。

 

 数メートル先で紫苑さんが笑う。


「ほら見ろ⭐︎やっぱ雑魚よりお前の方が強いじゃん⭐︎」


「……また、雑魚って言ったな」


「お前だって、本当は雑魚が足手まといなんじゃないの⭐︎?」


「二度と呼ぶなって言っただろ……!」


 ブワッ!


 全身から、霊力が勝手に噴き出していた。

 肌が粟立つ。


「だから僕が消してあげるって言ってんの⭐︎」


 紫苑さんが両手の指を絡めた。


 ドクン!


 その指の動きで、

 反射的に思い出してしまった。


 ——『久世禁式——⭐︎』


 信じてる。


 颯は消えない。


 それなのに。


 ——『君がまた消えそうで怖いからじゃないの?』


 怖い。


 あの日、


 僕は颯が消える瞬間を見ている。


 信じたいのに、身体が動いてくれない。


「……っ颯に手を出すな!!」


『柊!?』


 気づいた時には、


 僕はもう、


 身体を止められなかった。


 ドガァンッ!!


 胸ぐらを掴み寄せる。


 バキィッ!!


 さらに拳を叩き込む。


 紫苑さんの身体が後方へ飛ぶ。


 紫苑さんが身体を起こすより早く、

 僕は上から押さえつけていた。


 ドガァッ!!


 何度も拳を叩き込む。


『おい柊!俺大丈夫だから!!』


 颯の声すら、もう届かなかった。


「……はぁ」


 紫苑さんは血を吐いた。


 それでも、

 

「……あは⭐︎」


 笑った。


「それがお前の本来の姿⭐︎」


「……っ」


「凶暴で、支配的⭐︎

 力でねじ伏せ自分の思い通りにする⭐︎」


 紫苑さんの口元から血が流れる。


「力を持つと、みんなそうなる⭐︎」


「……違う……!」


 僕は……!


「違わなーい⭐︎あははははは⭐︎!!」


『柊!落ち着け!!』


「笑うな!!」


 ドゴッ!!


『お前まで壊れんなよ!!』


「ほら、やっぱり天才じゃーん⭐︎!」


「天才って言うな……!」


 拳を振り上げる。

 青白い霊力が勢いよく渦を巻く。


「結局さ⭐︎守る奴が一番暴力的なんだよ⭐︎」


「お前と一緒にするな!!」


「ようこそ、天才の世界へ⭐︎」


 さっきから何度も、

 

 “天才、天才”って……!


「お前も、やっと一人になれたね⭐︎」


「黙れよ……!」


「天才って、そういうもんだから⭐︎」


「違うッ!!」


 もう、

 聞きたくなかった。


『兄貴!!俺は消えねぇ!!』


 振り上げた拳を、勢いよく振り下ろした。


 その瞬間——


 黒い大きな影が滑り込んできた。


 バキィッ!!


 拳が叩きつけたのは、

 紫苑さんじゃなかった。


「……あ……」


「……柊」


 低い声だった。


「やめろ」


 鋭い眼差しに、

 やっと手が止まってくれた。


「——狛さん」


 ようやく、

 呼吸の仕方を思い出した。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:8月8日12時

第二百六十五話 僕たちの答え

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