第二百六十四話 守るために
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Side:柊
身体はもう、
僕の意思なんて聞いてくれなかった。
許せなかった。
互いに弾かれ、距離を取る。
紫苑さんは体勢を立て直し、
ふわりと庭石の上に着地した。
「僕の話まだ終わってないんだけど⭐︎」
「聞く必要がないので」
「二回も顔面狙いとか酷くない⭐︎?
僕の綺麗な顔に傷がついたらどうすんの⭐︎?」
紫苑さんが頬に片手を添える。
「本当のこと言われてムカついちゃった⭐︎?」
「黙れって言ってるのが、わからないですか?」
次の瞬間、
紫苑さんが消えた。
「お前何様だよ⭐︎」
目の前。
拳が迫る。
ドガッ!!
「……ぐっ……」
頬に拳がめり込む。
崩れそうになる膝を、なんとか踏みとどまった。
しかし、
「おかえし⭐︎」
ドゴォッ!!
二発目。
今度は反対側の頬へ捩じ込まれた。
堪えきれず、横へ吹き飛ぶ。
水浸しの庭を何度も跳ねた。
「……っ」
素早く身体を起こす。
「結局お前が出てきてんじゃん⭐︎」
紫苑さんが鉄槌を拾い上げる。
「やっぱ雑魚には任せられないもんね⭐︎」
「……颯は、雑魚じゃない……!」
「雑魚だよ⭐︎」
紫苑さんが地面を蹴った。
一瞬で、姿が消える。
それだけじゃない。
気配も感じられない。
——どこから来る!?
ガタンッ!
屋根瓦が踏まれる音がした。
——上!?
「……ちがう!」
あの人なら、
音に気を取られて、
相手が見上げた瞬間に——
下から来る!!
身体を横へ滑らせた。
ブォンッ!
鉄槌が空を切る。
「……へぇ⭐︎」
低姿勢で紫苑さんが滑り込んできていた。
僕は霊力を左脚に纏わせ、
紫苑さん目掛けて振り抜いた。
ドガッ!!
鉄槌に受け止められる。
「……っ⭐︎」
——押し切らない。
脚の力を抜いた。
「おっと⭐︎」
紫苑さんの体勢が崩れる。
「祓撃!!」
バゴォン!!
旋回する霊力を纏った拳が、鉄槌を穿った。
バキバキ……バキンッ!!
鉄槌が砕け散る。
「もう盾はないですよ……!」
そのまま拳を叩き込もうとした。
しかし、
「ばん⭐︎」
紫苑さんの指鉄砲が、僕を捉えていた。
圧縮された霊力が、弾丸みたいに飛ぶ。
「……くっ……!」
防御——!
ガキィンッ!!
なんとか間に合った。
それでも全身が痺れる。
なんて威力だ……!
後方へ滑り、湿った庭に靴跡が線を引いた。
数メートル先で紫苑さんが笑う。
「ほら見ろ⭐︎やっぱ雑魚よりお前の方が強いじゃん⭐︎」
「……また、雑魚って言ったな」
「お前だって、本当は雑魚が足手まといなんじゃないの⭐︎?」
「二度と呼ぶなって言っただろ……!」
ブワッ!
全身から、霊力が勝手に噴き出していた。
肌が粟立つ。
「だから僕が消してあげるって言ってんの⭐︎」
紫苑さんが両手の指を絡めた。
ドクン!
その指の動きで、
反射的に思い出してしまった。
——『久世禁式——⭐︎』
信じてる。
颯は消えない。
それなのに。
——『君がまた消えそうで怖いからじゃないの?』
怖い。
あの日、
僕は颯が消える瞬間を見ている。
信じたいのに、身体が動いてくれない。
「……っ颯に手を出すな!!」
『柊!?』
気づいた時には、
僕はもう、
身体を止められなかった。
ドガァンッ!!
胸ぐらを掴み寄せる。
バキィッ!!
さらに拳を叩き込む。
紫苑さんの身体が後方へ飛ぶ。
紫苑さんが身体を起こすより早く、
僕は上から押さえつけていた。
ドガァッ!!
何度も拳を叩き込む。
『おい柊!俺大丈夫だから!!』
颯の声すら、もう届かなかった。
「……はぁ」
紫苑さんは血を吐いた。
それでも、
「……あは⭐︎」
笑った。
「それがお前の本来の姿⭐︎」
「……っ」
「凶暴で、支配的⭐︎
力でねじ伏せ自分の思い通りにする⭐︎」
紫苑さんの口元から血が流れる。
「力を持つと、みんなそうなる⭐︎」
「……違う……!」
僕は……!
「違わなーい⭐︎あははははは⭐︎!!」
『柊!落ち着け!!』
「笑うな!!」
ドゴッ!!
『お前まで壊れんなよ!!』
「ほら、やっぱり天才じゃーん⭐︎!」
「天才って言うな……!」
拳を振り上げる。
青白い霊力が勢いよく渦を巻く。
「結局さ⭐︎守る奴が一番暴力的なんだよ⭐︎」
「お前と一緒にするな!!」
「ようこそ、天才の世界へ⭐︎」
さっきから何度も、
“天才、天才”って……!
「お前も、やっと一人になれたね⭐︎」
「黙れよ……!」
「天才って、そういうもんだから⭐︎」
「違うッ!!」
もう、
聞きたくなかった。
『兄貴!!俺は消えねぇ!!』
振り上げた拳を、勢いよく振り下ろした。
その瞬間——
黒い大きな影が滑り込んできた。
バキィッ!!
拳が叩きつけたのは、
紫苑さんじゃなかった。
「……あ……」
「……柊」
低い声だった。
「やめろ」
鋭い眼差しに、
やっと手が止まってくれた。
「——狛さん」
ようやく、
呼吸の仕方を思い出した。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月8日12時
第二百六十五話 僕たちの答え




