第二百六十二話 突破
バキンッ!!
「ぐっ……!」
俺の拳が届く前に、
紫苑の鉄槌が横腹へ叩き込まれた。
全身に衝撃が走る。
だけど——
「痛くねぇよ……!」
飛ばされねぇ。
身体の表面を、
青白い霊力が薄く覆っていた。
——柊が守ってくれてる。
もう一発!
「オラァ!!」
踏ん張った足に力を込め、紫苑へ拳を振り抜く。
「すごいじゃん⭐︎」
紫苑が腰を落とす。
拳が空を切る。
鉄槌が下から翻った。
『大丈夫!守る!!』
二撃目。
鉄槌が肩口を打ち抜いた。
身体を覆う青白い光が大きく揺らぐ。
「……っつ……!」
右脚が後ろへ下がった。
まだ耐えられる……!
「もっかい!!」
拳を引く。
「祓撃——!」
「遅い⭐︎」
『颯!下だ!!』
バキッ!!
紫苑の蹴りが、俺の膝を横から捉えた。
「っ!?」
踏ん張っていた軸足が崩れる。
身体が傾いた、その瞬間。
パリンッ。
全身を覆っていた柊の霊力が解けた。
『あっ——!』
「残念でした⭐︎」
横から、鉄槌が振り抜かれる。
ドガァァンッ!!
「ぐああっ!!」
鉄槌が胴へめり込み、身体が宙を舞った。
水浸しの庭を跳ねるように転がる。
「……っ、かは……!」
『ごめん、颯!失敗した!!』
「……大丈夫だ、謝んな……!」
軋む身体を起こす。
「二発も止めただろ……!」
俺は紫苑を睨みつけた。
「これ、僕くらいしかできないのに⭐︎さすが天才〜⭐︎」
紫苑は片手で軽々しく鉄槌を担ぐと、
立てた人差し指を頬へ添えた。
「あ⭐︎でも、あの騒音凡才も教えたらできそう⭐︎
あいつ、凡才にしては器用だし⭐︎」
紫苑の視線が蒼嶺へ向く。
「天才って意外とたくさんいるのかもね⭐︎」
その先では——
ドガァッ!!
篝が、蒼嶺の拳を両腕で受け止めていた。
『蒼嶺も共霊してる……!?』
「……⭐︎」
蒼嶺は篝だけを見据えていた。
「こっち見えてないね〜⭐︎凡才って視野せま⭐︎」
紫苑がまた俺の方を向く。
「で⭐︎」
俺を上から下まで眺める。
「続きやる⭐︎?」
「てめぇ、調子乗ってられんのも今のうちだぞ」
「調子乗ってんのはお前じゃーん⭐︎?」
紫苑は鉄槌を片手で回した。
「だって、すごいのは柊だし⭐︎」
紫苑が鉄槌で俺を指す。
「お前はただ力借りてるだけ〜⭐︎」
「……っ……」
クソ。
図星だから、余計ムカつく。
『僕だけの力じゃないです』
俺の中から、柊の声が響いた。
『僕たちは二人で戦ってるんです』
——柊。
「きしょ⭐︎」
次の瞬間、
紫苑が消えた。
『颯、後ろだ!!』
振り返りざまに、
バキッ!!
回し蹴りで鉄槌を弾いた。
「しぶと⭐︎」
紫苑が後方へ下がる。
「おい柊!防御しながら霊力回せるか!?」
拳を構えた。
『わからない!でもやってみる!!』
紫苑が動く。
ブォン!!
横薙ぎの鉄槌を、両足で飛んで避けた。
地に足がついた瞬間、
頭上に影が見えた。
次、上から来る!
身体を横へずらした、その時。
「視野せま⭐︎」
「……は?」
いつの間に。
すぐ隣に、紫苑。
鉄槌持ってねぇ……!?
鉄槌を手放したまま、紫苑が笑っていた。
コツン。
少し遅れて、
背後で鉄槌が地面へ落ちた。
「フェイク⭐︎」
俺のこめかみに、紫苑の人差し指が触れる。
視界の端で、霊力が圧縮されていく。
『颯!!』
柊……!
俺は、
反射的に身体を捻っていた。
拳に力を込める。
青白い霊力が回転を帯びる。
お前がいるから逃げねぇ。
「……守ってくれんだろ」
信じてる。
「どん⭐︎」
紫苑の指先で、光が弾けた。
ガキィン!!
「……っ!」
青白い弾丸みてぇな光が、こめかみへ直撃した。
脳が揺れる。
視界が霞む。
だけど、ちゃんと守られてた。
だから——
『任せて!!』
柊の声が聞こえる。
意識はある。
倒れちゃいねぇ。
拳も止まってねぇ!
「オラァァァ!!」
旋回する霊力を纏った拳を、紫苑の頬へ叩き込んだ。
バキィッ!!
——硬ぇ!
霊力の回転数が増す。
『颯、今だ!』
青白い霊力へ、俺の風が重なる。
二つの力は一つの螺旋となり、一気に加速した。
「旋霊拳——疾風!!」
ドガァァァンッ!!
霊力の壁を破る。
捉えた。
「……っ」
紫苑の目が見開かれた。
笑顔が、消える。
紫苑の身体は縁側を越え、
一直線に家屋の中へ吹き飛んだ。
そのまま襖へ激突する。
木枠は音を立てて崩れ、木片が舞い上がった。
「入った……!!」
『やった……!』
「っしゃあ!」
初めて、俺たちの攻撃が紫苑に効いた。
『颯!次だ!』
柊が叫ぶ。
『紫苑さんは簡単にやられない!』
舞い上がった粉塵の向こう。
紫苑が、ゆっくりと身体を起こすのが見えた。
紫苑の唇から、一筋の血が流れた。
紫苑はゆっくり息を吐くと、
口元を親指で拭った。
「……うざ」
真っ暗な瞳が、俺を捉えていた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月6日21時
二百六十三話 守る理由




