第二百五十九話 水穿・泉柱
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水流は楓の幹を穿った。
幹が軋み、木が崩れ落ちていく。
屋根瓦の上。
紫苑と蒼嶺は、その様子を静かに見下ろしていた。
無論、二人とも無傷だ。
「水ってさ〜⭐︎
もしもの時に息子を止めるためだったりして⭐︎」
「……あながち間違いではないのかもしれない」
「ま、あの程度の力じゃ止められないと思うけど⭐︎
“青は藍より青し”ってね⭐︎」
縁側で、狭霧が顔を上げる。
二人の姿は屋根に遮られて見えない。
ヒュッ!!
狭霧の頭上から影が落ちた。
屋根の上で、蒼嶺は動いていない。
「……っ!」
狭霧は咄嗟に後方へ飛ぶ。
ドガァン!!
縁側を巨大な鉄槌が粉砕した。
木片が舞う。
「惜しい⭐︎」
紫苑は口角を吊り上げ、鉄槌を肩へ担ぐ。
次の瞬間には、
狭霧の懐へ滑り込んでいた。
ブォンッ!!
鉄槌が横薙ぎに振り抜かれる。
狭霧は紙一重で体を反らせた。
鉄槌が狭霧の鼻先をかすめる。
ザアァ……ッ!
風圧だけで、庭木が大きく揺れた。
狭霧は右手を前へ突き出した。
「十哉、力を」
『御意』
狭霧の指先に水が集束していく。
ビー玉ほどの水滴が、幾つも浮かび上がった。
「——水弾」
パンッ!
パンッパンッ!!
乾いた破裂音。
水の粒が、弾丸のような速度で紫苑へ向かう。
紫苑は鉄槌を担いだまま、軽やかに身を翻した。
「よっと⭐︎」
一発。
身を捻る。
二発。
首を傾ける。
三発。
頬を掠めた。
一発たりとも当たらない。
ドドドドドッ!!
かわされた水弾が折れた楓へ突き刺さり、
残った幹に無数の穴が穿たれた。
「こわーい⭐︎」
水弾の隙間を縫い、紫苑は距離を詰めた。
狭霧は右手を突き出した。
掌の前で渦巻く水が、一瞬にして超高圧の水流へ変わる。
「水穿」
——ドオォォォン!!
青白い高圧水流が、一直線に紫苑へ迫る。
「またそれ⭐︎?」
迫る激流を前に、紫苑は鉄槌を大きく振り上げた。
鉄槌が青白い光を纏う。
「効かないよ⭐︎」
バァァァンッ!!
鉄槌が水流を叩き割った。
弾けた水飛沫が庭へ降り注ぐ。
狭霧は静かに片膝をつき、
右手を濡れた地面へ触れさせた。
「……⭐︎?」
紫苑は肩で鉄槌を弾ませる。
五月雨のような水飛沫に遮られ、
紫苑は見落としていた。
狭霧の霊力が——地面へ流れる瞬間を。
「水穿・泉柱」
紫苑の足元。
「あ⭐︎」
ドゴォォォン!!
地面が爆ぜた。
超高圧の水柱が噴き上がる。
その激流を受け、
紫苑の身体は宙に飛ばされた。
狭霧は目を細めた。
——確かに当たった。
はずだった。
だが。
水煙を突き破り、
黒い影が動いた。
ドガッ!!
「……かっ……!?」
狭霧の身体が右へ吹き飛ぶ。
間髪入れず——
ドガァンッ!!
今度は上から。
鉛のような一撃に、
狭霧は地面に叩きつけられた。
「……ぐっ……」
「そういうシナリオね⭐︎」
狭霧の視界に細い足が見えた。
「……紫苑くん」
狭霧が目線を上げる。
紫苑は真っ暗な瞳で狭霧を見下ろしていた。
——幼い頃と同じ瞳だった。
「じゃーね、当主様」
鉄槌の影が落ちる。
狭霧が目を瞑った、次の瞬間。
ドゴォッ!!
衝撃音が庭へ響く。
鉄槌は、狭霧へ届かなかった。
「——紫苑さん」
青白い光を纏った左腕が、鉄槌を受け止めていた。
「遅かったね⭐︎」
バキッ!!
柊の腕が鉄槌を弾いた。
柊は紫苑を真っ直ぐ見据えた。
「僕が相手だ」
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※次回更新:8月3日21時
第二百六十話 戦う理由




