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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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281/396

第二百五十八話 御影家当主


 ***


 ドオォォォン!!


 狭霧の掌から、青白い水流が一直線に放たれた。


 ——その数分前。

 

 御影狭霧の自室。縁側。


 狭霧は蒼嶺と向き合っていた。


「紺士様も紫乃様もいらっしゃらないようだけれど」


 狭霧はちらりと蒼嶺の後方へ目をやった。


「君たちの独断、というわけでもなそうだね」

 

 視線先には——庭石の上に腰かける紫苑。

 その肩には鉄槌が担がれていた。


「……何⭐︎?」

 

 紫苑は膝の上で頬杖をついたたまま目線を上げた。


「僕がいるのがそんなに変⭐︎?」


「君は久世家を嫌っていたはずでは?」


「嫌いだよ⭐︎」


 紫苑が立ち上がる。

 

「ちょっと訳アリでね⭐︎」


「……そうか」


 蒼嶺が一歩前へ出る。


「あなたが“御影家は久世家に従う”と言って下されば、こちらも手荒な真似はしません」


「もう十分乱暴しているのでは?」


 狭霧は背後を振り返った。


 母屋の方から、祓い師たちの霊力がぶつかり合う音が響く。


「これ以上、という意味です」


 狭霧は視線を蒼嶺へ戻した。


「やはり、三流派を一つにするつもりか」


「ええ。

 御影家や霧島家の思想は、この先の祓い師には不要です」


 蒼嶺の背後で、紫苑は退屈そうに指先で髪をいじっていた。


「聞こえは立派だけれど。

 私は、霊を祓い師の兵器のように使う考えには賛同できないよ」


「そもそも共霊を使う時点で、あなた方も私たちと同じではないですか」


「久世家と御影家の共霊は違う」


 狭霧の声が低くなる。


「私たちは、支え合う関係だ」


 蒼嶺は腕を組んだ。


「議論をしに来たわけではありません。

 その違いを承知した上で、今日ここへ来ました」


「力で解決しようというのは、いかにも久世家らしいね」


 狭霧が小さく笑う。


「紫苑くんも同じ考え?」


「……何で僕〜⭐︎?」


 紫苑は目線を指先へ落としたまま答えた。


「僕はそこの後継者様に従いまーす⭐︎」


 毛先から紫苑の指が離れる。

 

「ま。無駄に争うより、今諦めた方が良いんじゃない⭐︎?

 被害も最小限で済むだろうし⭐︎」


「……損得だけで考えるなら、そうかもしれないね」


 狭霧の言葉に、紫苑はにっこりと笑った。


「じゃあ降参する⭐︎?」


 狭霧は静かに首を横へ振った。


「私は引けない。

 御影家の当主だからね」


「つまんない話⭐︎」


 紫苑は鉄槌を片手でくるりと回した。

 

「サラブレッドに賭けてみたら⭐︎?

 少しは期待値あるんじゃない⭐︎?」


「……そこまで把握しているんだね」


「僕とあいつ、どっちが強いかな〜⭐︎?」


 蒼嶺が振り返って紫苑を見る。


「それは誰の話?」


「ん〜⭐︎?お前の嫌いな“天才”の話⭐︎

 ね、当主様⭐︎?」


 紫苑は鉄槌を肩で弾ませた。


「秘蔵っ子、殺しちゃったらごめんね⭐︎?」


「……させないよ」


 ザアァ。


 ぬるい夜風が吹き抜ける。


「十哉(とおや)」


 狭霧の背後で、

 黒い影が揺らめいた。


「——狭霧様」


 現れたのは、藍鼠(あいねず)色の浴衣に身を包んだ男の霊。


 濡れたような黒い長髪。

 切れ長の目から、藍色の瞳が覗いた。


「当主様の守護霊ね⭐︎」


「十哉」


 狭霧が優しい声で囁く。


「私に力を貸してくれるかい?」


「御意」


 ブワァァァッ!!


 男の霊は藍色の光に変わり、

 一直線に狭霧の胸元へ吸い込まれた。


 瞬く間に、狭霧の風貌が変わっていく。


 腰上まで伸びた黒髪。

 藍色とヘーゼルのオッドアイ。


 そして、増幅した霊力。


「好きだね、共霊⭐︎」


 姿を変えた狭霧を見つめ、紫苑は鉄槌を構え直した。


 狭霧が右手をかざす。

 その掌へ青白い光が集まっていく。


「で、僕がやっちゃって良いわけ⭐︎?」


「もちろん」


「ていうか、お前は当主様に勝てないもんな⭐︎」


「……」


 蒼嶺がわずかに目を細めた。


 じわりと空気が湿り気を帯びる。

 

 狭霧の掌で、青白い水が渦巻いた。


「——紫苑。来るよ」


「水穿(すいせん)」


 ドオォォォン!!


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:8月2日15時

第二百五十九話 水穿・泉柱

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