第二百五十八話 御影家当主
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ドオォォォン!!
狭霧の掌から、青白い水流が一直線に放たれた。
——その数分前。
御影狭霧の自室。縁側。
狭霧は蒼嶺と向き合っていた。
「紺士様も紫乃様もいらっしゃらないようだけれど」
狭霧はちらりと蒼嶺の後方へ目をやった。
「君たちの独断、というわけでもなそうだね」
視線先には——庭石の上に腰かける紫苑。
その肩には鉄槌が担がれていた。
「……何⭐︎?」
紫苑は膝の上で頬杖をついたたまま目線を上げた。
「僕がいるのがそんなに変⭐︎?」
「君は久世家を嫌っていたはずでは?」
「嫌いだよ⭐︎」
紫苑が立ち上がる。
「ちょっと訳アリでね⭐︎」
「……そうか」
蒼嶺が一歩前へ出る。
「あなたが“御影家は久世家に従う”と言って下されば、こちらも手荒な真似はしません」
「もう十分乱暴しているのでは?」
狭霧は背後を振り返った。
母屋の方から、祓い師たちの霊力がぶつかり合う音が響く。
「これ以上、という意味です」
狭霧は視線を蒼嶺へ戻した。
「やはり、三流派を一つにするつもりか」
「ええ。
御影家や霧島家の思想は、この先の祓い師には不要です」
蒼嶺の背後で、紫苑は退屈そうに指先で髪をいじっていた。
「聞こえは立派だけれど。
私は、霊を祓い師の兵器のように使う考えには賛同できないよ」
「そもそも共霊を使う時点で、あなた方も私たちと同じではないですか」
「久世家と御影家の共霊は違う」
狭霧の声が低くなる。
「私たちは、支え合う関係だ」
蒼嶺は腕を組んだ。
「議論をしに来たわけではありません。
その違いを承知した上で、今日ここへ来ました」
「力で解決しようというのは、いかにも久世家らしいね」
狭霧が小さく笑う。
「紫苑くんも同じ考え?」
「……何で僕〜⭐︎?」
紫苑は目線を指先へ落としたまま答えた。
「僕はそこの後継者様に従いまーす⭐︎」
毛先から紫苑の指が離れる。
「ま。無駄に争うより、今諦めた方が良いんじゃない⭐︎?
被害も最小限で済むだろうし⭐︎」
「……損得だけで考えるなら、そうかもしれないね」
狭霧の言葉に、紫苑はにっこりと笑った。
「じゃあ降参する⭐︎?」
狭霧は静かに首を横へ振った。
「私は引けない。
御影家の当主だからね」
「つまんない話⭐︎」
紫苑は鉄槌を片手でくるりと回した。
「サラブレッドに賭けてみたら⭐︎?
少しは期待値あるんじゃない⭐︎?」
「……そこまで把握しているんだね」
「僕とあいつ、どっちが強いかな〜⭐︎?」
蒼嶺が振り返って紫苑を見る。
「それは誰の話?」
「ん〜⭐︎?お前の嫌いな“天才”の話⭐︎
ね、当主様⭐︎?」
紫苑は鉄槌を肩で弾ませた。
「秘蔵っ子、殺しちゃったらごめんね⭐︎?」
「……させないよ」
ザアァ。
ぬるい夜風が吹き抜ける。
「十哉」
狭霧の背後で、
黒い影が揺らめいた。
「——狭霧様」
現れたのは、藍鼠色の浴衣に身を包んだ男の霊。
濡れたような黒い長髪。
切れ長の目から、藍色の瞳が覗いた。
「当主様の守護霊ね⭐︎」
「十哉」
狭霧が優しい声で囁く。
「私に力を貸してくれるかい?」
「御意」
ブワァァァッ!!
男の霊は藍色の光に変わり、
一直線に狭霧の胸元へ吸い込まれた。
瞬く間に、狭霧の風貌が変わっていく。
腰上まで伸びた黒髪。
藍色とヘーゼルのオッドアイ。
そして、増幅した霊力。
「好きだね、共霊⭐︎」
姿を変えた狭霧を見つめ、紫苑は鉄槌を構え直した。
狭霧が右手をかざす。
その掌へ青白い光が集まっていく。
「で、僕がやっちゃって良いわけ⭐︎?」
「もちろん」
「ていうか、お前は当主様に勝てないもんな⭐︎」
「……」
蒼嶺がわずかに目を細めた。
じわりと空気が湿り気を帯びる。
狭霧の掌で、青白い水が渦巻いた。
「——紫苑。来るよ」
「水穿」
ドオォォォン!!
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※次回更新:8月2日15時
第二百五十九話 水穿・泉柱




