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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第二百五十七話 三日月


 緋と蒼の光が瞬いた。


 次の瞬間。


「行こう」


 篝くんの纏う空気が変わった。


 緋と蒼の霊力が、静かに溶け合う。


「こっちだ」


「……うん」


 僕は篝くんの後について走り、

 母屋を抜けて渡り廊下に出た。


 バチバチッ!!


 夜の闇に青白い光が火花を散らす。


「……!」


 中庭では御影家の祓い師たちも、それぞれ久世家の術士と斬り結んでいた。


「気をつけて」


「……篝くんも!」


 飛び交う霊力に触れないよう、視界の端で確認しながら離れへ続く廊下を走った。


『紫苑いねぇよな!?』


「うん」


 紫苑さんの気配は感じない。

 

 だけど代わりに。


「……冷たい!?」


 凍てつくような霊力。


 ——葵さん!?


 咄嗟に顔を上げた。


 ブワッ!!


「……っ!?」


 見えたのは、細い三日月。

 

 そして、

 降り注ぐ何十もの氷の刃。


『危ねぇ!!』

 

 颯の声に、僕が身を屈めたその時、

 

 人影が滑り込んできた。


 ガキィンッ!!


 夜空の三日月をなぞるように、白い刃が弧を描く。


 白銀の長い髪が、月明かりを受けて揺れた。


「——深雪さん!?」


「危なかったわね」


 黒い袴姿。


 僕に背を向けたまま、深雪さんは薙刀を構えていた。


 ヒュン!ヒュンッ!!

 

 再び、氷の刃が牙を剥く。

 篝くんが振り返った。


「母さん!!」


 キィンッ!ガキィン!!


 青白い光が尾を引き、

 薙刀が一つ残らず氷を弾き飛ばしていた。


「一瞬で……」


「かがちゃん!」


 深雪さんが叫ぶ。


「早く狭霧さんのところへ!あの人を一人にしないで!」


「……腕も立つようね」


 松の木の影から——葵さんが姿を現した。


 氷色の瞳。

 昼間、体育館で会った時と同じだ。


 共霊している……!


「母さん、下がって!!」


 篝くんが声を上げる。

 

「あの子は危険だ!!」


「大丈夫よ」


 深雪さんは目を細くした。


「息子に心配されるほど、私の腕はなまってないわ」


 深雪さんは、一歩も引かなかった。


「早く行って!!」


「……お願いします!!」


 だから、

 僕は信じることにした。


「……母さん……!」


『行くぞ篝!!』


 篝くんは動かなかった。


 僕はその手を取った。


「行こう!」


「母さん!後で戻ります!」


 篝くんの手を引いて走り出す。


 だけど——。


「行かせないわ」


 ビキビキビキッ!!


 葵さんが地面へ手をついた。


「!?」


 氷が一直線に地面を走り、

 僕たちの方へ向かってくる。


 ——まずい!


「焔葬(えんさい)」


 ジュウウゥ……!


 篝くんの掌から放たれた焔が、氷柱を溶かした。


「御影篝」


 低い声。


 葵さんは篝くんを見ていた。


「その焔で、今度は私たちを焼き殺すつもり?」


 不気味な笑顔だった。


「……そんなことしないさ」


 その時、

 わずかに篝くんの手に力がこもった。


 ——【深夜の小児病棟で火災】


 あの新聞記事の見出しが脳裏をよぎる。


「篝くん」


 僕は力強く、篝くんの手を握り返した。


「助けに行こう」


 大丈夫。

 彼の力は、守るための力だ。


 ガキンッ!!


 薙刀と氷がぶつかる。


 深雪さんが葵さんへ距離を詰めた。


「かがちゃん!今のうちに!!」


「行くよ、篝くん!!」


 氷と薙刀が激しくぶつかる音を背に、僕たちは振り返らず走った。


 ドオォォォン!!


 離れが大きく揺れた。


「……狭霧さん!!」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:8月2日12時

第二百五十八話 御影家当主

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