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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百五十話 あの日の事故


『芽衣姉さんはともかく、

 颯紫ってやつとは何で連絡つかねぇんだよ』


 颯が尋ねた。


『久世の人間なんだろ?

 あんたら何か繋がりあるんじゃねぇの?』


「颯紫くんは分家の人間なんだ」


 狭霧さんは座卓に両肘をつき、

 顔の前で指を組んだ。


「久世本家にはいないし、

 実家である分家からも出たと聞いているよ」


「本家の人たちとは、関わりが薄いってことですか?」

 

「ああ。そもそも颯紫くんの家は本家を嫌っている」


「嫌っている……?」


 僕は眉を寄せた。

 

「颯紫くんの家は、

 先代当主である紫乃様の兄の家系だからね」


『それが何なんだよ?』


「追い出された家だってことだよ」


 颯の問いに、篝くんが答えた。

 

「久世家は、強いものが正義。

 前に、久世紫乃は“ただの婆ちゃんじゃない”って言ったでしょ?」


「久世紫乃が本家を継いだから、追い出されたってこと……?」


「そういうことだよ。

 だから颯紫くんは、本家の指示で動いたりしない」


 狭霧さんの言葉に、

 深雪さんと篝くんが同時に頷いた。


『じゃあ、母さんや芽衣姉さんのことについて、

 久世本家は絡んでねぇってことか』


「おそらくね」


『おそらくって何だよ?』


 狭霧さんは組んだ手に額を押し当てた。


「……久世家は昔から内部がごたついてる家だからね。

 私たちも、誰がどこまで繋がってるかははっきりとわからない」


 久世家は、内側が見えない。

 紫苑さんや狛さんのことだってそうだ。


「今だって、久世家がいつ何をしようと企んでいるのかわからない」


 狭霧さんが顔を上げた。


「柊くん。

 君の生い立ちや綾について、私たちが今話せることはここまでだよ」


「……はい」


「伝えるのが随分遅くなってしまって、すまなかったね」


 僕は小さく首を振った。


「私たちも綾ちゃんと同じで、

 あなたたち家族を巻き込みたくなかったの」


 深雪さんが目を伏せる。


「だからね。

 かがちゃんが今まで黙っていたこと、どうか怒らないであげて」


 ——そんなの。


「怒りません」


「……っ」


 僕の言葉に、篝くんが息を呑んだ。


「篝くんはずっと、

 僕たちを守ってくれてましたから」


「まあ」


 深雪さんの口元が緩む。


「そんなこと言われたら、離れられなくなっちゃうわね」


「……ふふ」


 篝くんの笑い声は、

 ほんの少しだけ震えていた。


 狭霧さんが立ち上がる。


「いつか話すことになると、覚悟はしていたんだ」


 僕は顔を上げて狭霧さんを見た。


「……君たちが事故に遭った日からね」


「あ……」


 あの事故の後。

 颯は僕の守護霊になった。


 そして、

 僕たちは祓いの世界へ足を踏み入れた。


 ——斎賀先生に導かれて。


「あの事故は——本当に偶然だったんだろうか」


「……っ……!」


 思い返せば。

 常夜が動き始めたのも——同じ時期だ。


『常夜が動き始めてたから、

 俺らも霊害事故に巻き込まれたんだろ?』


「常夜が霊害をばら撒いていたから、偶然君たちが事故に遭ったのか。

 それとも初めから仕組まれていたのか。

 私にはわからない」


 あの事故の日の翌日。


 赤い車の霊害に遭遇して、

 

 僕たちは初めて共霊した。


 ——『白瀬くん、さようなら』


 夕暮れの昇降口。


 ——『帰り、気をつけてね』


 なぜ今、その言葉を思い出したんだろう。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:7月20日21時

第二百五十一話 秘密

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