第二百五十一話 秘密
***
籠屋市内。
とある高層マンション。
紫苑はスマホを耳に当てながら、
ベランダの手すりに寄りかかっていた。
『紫苑』
通話相手が紫苑の名を呼ぶ。
『葵から報告を受けたよ』
「へぇ⭐︎何って⭐︎?」
『君は、“久世側についた”と』
紫苑が口の端を上げる。
「じゃあ狛は返してくれんの⭐︎?」
『それはまだできない』
「……は⭐︎?」
紫苑は眉をひそめた。
「僕、ちゃんと言うこと聞いてあげてんだけど⭐︎」
『全員無事だったらしいね』
風が吹き抜け、
紫苑の髪が揺れた。
『御影篝も、燦宮桃華も。
祓い師の高校生たちも』
紫苑は人差し指に髪を絡ませると、
指先をくるくると回した。
「警察が来ちゃったからね〜⭐︎」
『君なら、時間はかからなかったはずだ』
「思いのほか、あいつら強くなっててさ〜⭐︎?」
『信じられないね』
「……チッ」
紫苑は小さく舌打ちした。
「信用されてもキモいけど⭐︎」
『紫苑』
紫苑の人差し指から髪が離れる。
「何」
『狛のことを助けたいんだろ?』
「……」
——こいつ、マジでウザいな。
『きちんと結果を出してくれるなら、
レプリカ拳銃のことは何とかするよ』
「“結果”、ねぇ⭐︎?」
『今夜だ』
紫苑の眉がぴくりと動いた。
「いいよ⭐︎見せてあげる」
——お前が一番見たかったものをね。
『期待してる』
***
一方。
紫苑の通話相手——
久世蒼嶺は自室の縁側にいた。
蒼嶺がスマホを耳から離して懐へ仕舞う。
「蒼嶺お兄様」
背後で、葵は正座をしていた。
「紫苑お兄様は、何と?」
「……今夜、結果を出すって」
蒼嶺は振り返らずに言った。
「葵」
「はい。お兄様」
「紫苑は“天才が増えた”と言っていたんだよね?」
「ええ」
蒼嶺が空を見上げる。
空は厚い雲に覆われ、月も見えない。
「……誰のことを言ってるのだろう」
「御影篝では?」
「違うね。
御影篝なら、今さら紫苑が“天才が増えた”なんて言い方をする理由がない」
鈴虫の鳴く声が聞こえる。
「葵。御影篝は君が思うほど脅威じゃない」
「……お兄様はあの焔を見ていないから、そう言えるのです」
「違う」
きっぱり言い放たれ、葵の肩が跳ねた。
「彼は強いが、脆い」
蒼嶺は立ち上がると、振り返って葵を見た。
「俺はいつでも彼を壊せるよ」
「……え?」
「本人は忘れてるみたいだけどね」
雲が流れ、月が顔を出す。
月光が縁側へ降り注いだ。
「……紫苑くんが言う、“天才”が誰であっても」
蒼嶺は葵の方へ歩き出した。
「邪魔をするなら消すまでだ」
葵は蒼嶺を見上げた。
「……お兄様?」
月光が蒼嶺の顔を照らす。
蒼嶺は、笑っていた。
「俺は昔から、“天才”が嫌いだからね」
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※次回更新:7月22日21時
第二百五十二話 嫌いだから




