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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百四十八話 五年前、あの山


「……綾ちゃんのこと、

 最後まで諦めなかった子たちがいたの」


 深雪さんがそう言った。


「柊くん、颯くん。

 芽衣ちゃんのことは知っているかしら?」


「……芽衣姉さんですよね?」


 母さんの従姉妹で、光流くんの師匠。


「そう。

 芽衣ちゃんはね、綾ちゃんのことを特別慕っていたの」


 ——『柊!颯!』


 ——『綾ちゃん!』


 幼い日に見た。

 芽衣姉さんが母さんを見る目。

 

 確かに、

 特別だったかもしれない。

 

「……芽衣ちゃんは、

 あの山にも綾ちゃんと一緒に行ってる」


 だとしたら、芽衣姉さんは。

 

 母さんの最後を。


「その芽衣ちゃんが、綾ちゃんの成仏を疑ってたの」


 深雪さんの目が潤んでいく。


「綾ちゃんの最後を見た人が、よ?」


「深雪!」


 狭霧さんが深雪さんの手を取った。


「そこまで話す必要があるのか?」


「……」


 深雪さんが目を伏せる。

 その長い睫毛に、水滴が光った。


 ……“成仏を疑う”なんて。


 だからこそ。


 きちんとお別れできないこともあるんだ。


「深雪さん」


 だったら。


「教えてください」


『教えろよ』


 僕と颯の、言葉が重なった。


 知りたい。

 

 知って、納得するしかない。


 狭霧さんも、深雪さんも。


 篝くんも。

 

 ——僕たちも。


 家族なんだから。


 場が静まり返った。


「……君たちは強いね。

 五年前は、あんなに泣いていたのに」


 狭霧さんが小さく息を吐いた。


「芽衣は、綾のことを調べてたんだよ」


「母さんのことを……」


「だけど二年前。

 芽衣の行方がわからなくなった」


「……!?」


 ——じゃあ。


 颯紫さんは?


 一ヶ月前。

 母さんの命日。


 ——『蓮太郎に会ったら、伝えてくれ』


 あの日、確かに。


『“芽衣は元気だ”、と』


 颯紫さんはそう言った。


 それに、斎賀先生も。


 あの時、妙な顔をしていた。


『颯紫ってやつが、芽衣姉さんは“元気だ”っつってたぞ!?』


 颯が声を荒げる。


『何であいつは知ってんだよ!』


「……それも、かがちゃんから聞いてるわ」


 深雪さんはちらりと篝くんを見た。


「綾ちゃんのお墓で会ったのよね?」


 篝くんが無言で頷く。


「五年前。

 あの山に行ったのは、綾と芽衣だけじゃない」


 黒い着物。

 薄紫色の髪。


 冷たすぎる霊力。

 

「颯紫くんも一緒だった」


 耳鳴りがする。

 

 わからない。


 だけど。


 僕たち家族にとって、

 知らなければならない何かがそこにある。


 ……聞くのが怖い。


『柊』


『聞こう』


 颯の声は震えていた。


 それでも、逃げなかった。


 狭霧さんが口を開く。

 

「颯紫くんの苗字は、久世」


 ——久世。


 紫苑さんの笑顔が過って。


 一瞬。

 

 呼吸の仕方を忘れた。


「彼は久世家の人間だ」


 それなら——。


『あいつが何かしたんじゃねぇのかよ!?』


「……違う」


 狭霧さんの声が、低く落ちた。


「少なくとも、私たちはそう考えていない」


「どうしてですか!?」


「颯紫くんは綾のことをとても慕っていたんだ」


 狭霧さんが両手で顔を覆った。

 

「……芽衣以上にね」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:7月19日12時

第二百四十九話 知らない時間

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