第二百四十四話 俺は?
***
Side:颯
母さんは御影家の人間だった。
柊と篝は血が繋がってる。
……気持ち悪ぃ。
それだけじゃねぇ。
柊が霧島詠慈の息子ってことは、
奏や響、メガネとも繋がりがある。
三流派の——祓い師の世界の中心に、
生まれた時から柊はいた。
——俺は?
俺と柊は兄弟。
それは事実。
それでも、
血の繋がりは何もない。
『……だから何だよ』
血が繋がらないことなんて、
お前と家族になった日からわかってた。
顔も、性格も。
俺とお前が全然似てないことも。
なのに。
焦り?
いや、違う。
どうしようもなくイラつく。
俺たちを乗せた車が、
高速道路へ向かってスロープを登っていく。
この先で、
きっと俺たちは真実を知ることになる。
柊がずっと知りたがってたことだ。
俺だって、そうだろ。
——本当に?
知りたくないなんて、
どうして思ってしまうんだ。
「颯?」
『……』
返事できなかった。
ただ。
——『だから僕も君を守るよ』
『……チッ』
篝の言葉に、
柊の心が熱くなったのはわかった。
友達は、助け合う。
そう言ったのは、俺だったのに。
俺だけが、素直に喜べていなかった。
……俺の方が、
守りてぇって思ってんだよ。
「……どうしたの?」
俺を心配する柊の声に、今は苛立ちが募る。
お前の中にいると、こんな感情まで伝わっちまう。
『何でもねぇよ!』
お前の中にいることが、
こんなに居心地わりぃのは初めてだ。
抜けたいのに、抜けられない。
——そんなこと、思いたくもないのに。
***
同時刻、瑞峰学園。
薄暗くなった校庭を、
夜間照明が照らし始めていた。
学園祭ライブはクライマックスに向かい、
生徒たちの歓声がグラウンドを揺らす。
光流と奏、麗子は、
最後列のさらに後ろにいた。
「……で、篝くん家に帰っちゃったんだ?」
「はい」
奏は体育館での出来事を全て話していた。
「共霊したままの姿では柊くんの実家に帰れないから、と」
「まぁ、それだけ理由じゃないでしょうねェ」
麗子が腕を組む。
「いえーい!」
その前方。
光知瑠だけは観客に混じってライブを楽しんでいた。
「姉ちゃん、テンションがJKじゃん……」
光流が肩をすくめる。
胸元の十字架が夜間照明を反射して輝いた。
「光流くんたちのおかげで、生徒は誰一人巻き込まれていませんし、見た人もいないようです」
奏は頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いやいや。
むしろそんなことくらいしかできてなくてごめん」
光流の言葉に、奏は顔を上げて小さく首を振った。
「で、奏はどう思うのよ?」
「……紫苑さんが久世側についたとは……言い切れないような気がしています」
「そうねェ」
「だけど、私たちを襲ったのは事実です」
「うーん」
光流は眉を寄せた。
「柊のことは?どう思う?」
「……驚きましたよ」
奏の視線が地面へ落ちる。
「正直、怖かったです」
——『颯を傷つけるなら、僕はお前を潰す』
あの時の、柊くんは。
「……違う人みたいに見えました」
「そっか」
「だけど」
奏は空を見上げた。
「柊くんは、柊くんですよね」
暗くなったばかりの空に、
一番星が瞬いている。
「私は、そう思いたいです」
「柊は変わんないでしょ」
光流が笑う。
「俺らの友達だよ」
その声は、ライブの爆音よりも奏の中へ強く響いた。
「……そうですよね」
奏は光流と麗子の方へ向き直る。
「だったら私たちはこれまで通り、やるべきことをしましょう!」
——私がずっと、大事にしてきたことを。
「祓い師として、霊も人も救います!」
光流が指を鳴らす。
「んで、颯を元に戻す方法を見つける!」
「はい!」
「アンタたち、強くなったわねェ」
一番星の後を追うみたいに、
夜空に二番目の星が現れる。
「でも颯の方も心配だな〜」
「颯くんですか?」
「そ。あいつさ」
光流はヘアバンドの位置を正しながら話した。
「たぶん今、一番しんどいんじゃね?」
「……え?」
「混乱するわよねェ」
「まあ混乱もあるだろうけどさ〜」
光流も空を見上げた。
都会の空は、明るすぎて。
今夜の星は、二つしか見えない。
「面白くないよね」
二つの星の間に、月だけがいた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月16日21時
第二百四十五話 おかえりなさい




