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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百四十二話 手放せない


「東雲狠くん。後で同行願えますか?」


「はい」


 狠くんの顔つきは、

 さっきとは明らかに違っていた。


 三岳警部補が小さく息を吐いた。


「体育館は立ち入り禁止にしています。

 ですが、学園祭は中止にならないようにするつもりです」


「ありがとうございます」


 立ち上がった斎賀先生の元へ、三岳警部補が駆け寄る。


「斎賀先生」


 三岳警部補がよろける先生を支えた。

 

「あなたには学園から何かしら処分があるかもしれませんが、できるだけ上手く伝えておきますので」


「……お願いします」


 三岳警部補に肩を借りながら、

 先生は指でメガネの位置を正した。


「皆さんは校庭へ戻って下さい。

 ここにいる方が、かえって怪しまれます」


「でも……!」


「柊くん。気にしないで」


 先生が眉を寄せる。


「頼りない先生でごめんね」


「そんなこと——」


「柊くん」


 背後から、奏さんが僕の手を引いた。


「行きましょう。篝くんも、歩けますか?」


 篝くんが立ち上がって頷く。


「伊吹さんは?」


「先に行ってて」


 伊吹さんはそう言って微笑むと、


「ボクは狠ちゃんと一緒にいるよ」


 狠くんの肩を抱いた。


「……わかりました。

 柊くん、颯くん。共霊を解いてください」


 僕は奏さんの言葉に頷いた。


 だけど——。


「……あれ」


 おかしい。


 共霊が、

 解けない。


「……何で……?」


『おい、柊。早くしろよ』


 颯が急かす。


「……っ待って」


 颯を手放す感覚が——わからない。


 指先が震える。


 奏さんが僕の顔を覗き込んだ。


「柊くん?」


「あ……」


「解けないんだね」


「……っ篝くん」


「しばらく颯くんと触れていなかった反動かもしれない」


『はあ?』


 僕の中で、颯が苛立つ。


『今度は出られねぇってなんだよ!』


「君がまた消えそうで怖いからじゃないの?」


 ——ドクン。


 心臓が跳ねた。


 ……言い返せなかった。


「柊くん。帰ろう」


「でも!このままじゃ家にも帰れない!」


 銀髪まじりの髪。

 琥珀色のオッドアイ。


 父さんに今の姿を見られたら……!


「帰るのは君の家じゃない」


 篝くんが出口に向かって歩き始める。


 すれ違い様、

 僕の肩へ手を置かれた。


 ——冷たい。


「僕の実家だ」


 ***


 同時刻。武道場前。

 

 葵は去った。


「桃華様。追わなくても良かったのですか?」


「ええ。そこまでする必要はないわ」

 

 葵の残した氷は全て溶け出し、

 地面は雨上がりのように湿っていた。


「敵うかどうかもわからないでしょ?」


「……」


 暮羽は下唇を噛み締めた。


「予想以上でした」


 ——あと少し遅ければ。

 

 また、

 桃華様を危険に晒すところだった。


「ええ」


 桃華が湿った地面を踏み締めた。


「厄介な駒だわ」


「……氷の元素など、聞いたことがありません」


「常夜の仕業かしらね?」


 桃華は肩をすくめた。


「赤い霊力のあの薬と言い。

 おかしな研究者がいるようね」


「霊力を増幅する、薬……」


 暮羽は水たまりを見つめた。


「……桃華様を守れる」


 校庭から、

 軽音部のライブの音が響く。


 暮羽の呟きは、爆音にかき消された。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:7月14日21時

第二百四十三話 だから僕も君を守るよ

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