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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百四十一話 向き合う


 ***


 Side:柊


『頑張ってね⭐︎』


 最後にそう言って、

 紫苑さんは体育館を去った。


 身体の熱は、少しも冷めない。


 砕けた床板。


 散らばった装飾。


 傷だらけの体育館の中。

 しばらく誰も言葉を発しなかった。


「柊くん」


 口を開いたのは、篝くんだった。


「……何?」


 振り返る。


「ずっと、言えなくてごめん」


 僕は目を伏せた。


「……ううん」


 君も、

 僕を守ろうとしていたんだろ?


「君の力は、これから多くの人間に狙われると思う」


「うん」


 怖くなかった。


 それよりも——

 この力で誰かを守ろうと思った。


「向き合うよ」


 三流派とも。

 常夜ノ会とも。


「僕はもう、守られる側じゃないから」


 この力で誰かを守れるなら、

 狙われることも受け入れる。


 この時。


 覚悟をしたのは、

 僕だけじゃなかった。


「——っ、あの!!」


 必死に絞り出したみたいな声。

 

 みんなの視線が、

 体育館の後方へ集まった。


「……狠くん?」


「俺も……向き合います」


 狠くんは拳を握りしめた。


「俺も、守られるだけじゃなくて」


 ゆっくりと顔を上げる。


「兄さんのこと、守りたいから」


 その言葉と眼差しで、

 十分だった。


 僕は狠くんを見据えた。


「うん」


「俺……」


 狠くんの声が震える。


「俺は——」


 その瞬間。

 体育館の入り口から——


「皆さん!無事ですか!!」


 知らない男性の声が届いた。

 制服を着た警察官がこちらへ走ってくる。


「三岳です!!」


「あ……」


 あの人が。


「救急車、呼びますか!?」


「いや」


 三岳警部補の言葉を、篝くんが遮った。


「僕も斎賀先生も、大きな怪我はしていません」


 篝くんが僕を見る。


「……紫苑くん、上手く加減してたみたい」


 やっぱり。


 あの人は、ただ。


「……何か変えようとしてた」


 僕だけじゃなくて。


「三岳警部補!」


 奏さんが声を上げる。


「紫苑さんを追って下さい!まだ近くにいるはずです!」


「それはできません」


「え!?」


「三流派の揉め事に、警察は手を出さないことになっているんです」


『は!?ただのお家騒動じゃねぇだろ!?』


 颯が叫ぶ。


『あいつ、俺のこと消す気だったぞ!?』


「だけど怪我人は誰もいないんですよね?」


『この体育館はどう説明すんだよ!』


「斎賀先生」


 三岳警部補は眉尻を下げた。


「実験事故ということで処理してよろしかったでしょうか?」


「……問題ありません」


『あいつら放っておくのかよ!』


「颯くん」


 壁に背中を預けたまま、先生が目線を上げる。


「前にも言ったように、祓い師の力は普通の人には見えません」


 先生の言葉に三岳警部補が続いた。


「せめて常夜がいれば立件できるんですが……」


『んでも久世家は常夜と繋がってんだろ!?』


「警察は久世家の関与について認めていませんから」


 伊吹さんが口を開く。


「東雲家は疑うのに、久世家は疑わないってこと?」


「そうです」


 三岳警部補は苦々しく頷いた。


 狠くんが俯く。


 悔しそうに唇を噛んだ。


「——それなら」


「……狠ちゃん?」


「俺が話します」


 狠くんが顔を上げる。


「レプリカ拳銃を作ったの、俺です」


「君が……?」


 三岳警部補が目を見張った。


「はい」


 その声は、

 もう震えていなかった。


 狠くんが息を吸って吐く。


「蒼嶺様の指示です」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:7月13日21時

第二百四十二話 手放せない

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