第二百四十一話 向き合う
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Side:柊
『頑張ってね⭐︎』
最後にそう言って、
紫苑さんは体育館を去った。
身体の熱は、少しも冷めない。
砕けた床板。
散らばった装飾。
傷だらけの体育館の中。
しばらく誰も言葉を発しなかった。
「柊くん」
口を開いたのは、篝くんだった。
「……何?」
振り返る。
「ずっと、言えなくてごめん」
僕は目を伏せた。
「……ううん」
君も、
僕を守ろうとしていたんだろ?
「君の力は、これから多くの人間に狙われると思う」
「うん」
怖くなかった。
それよりも——
この力で誰かを守ろうと思った。
「向き合うよ」
三流派とも。
常夜ノ会とも。
「僕はもう、守られる側じゃないから」
この力で誰かを守れるなら、
狙われることも受け入れる。
この時。
覚悟をしたのは、
僕だけじゃなかった。
「——っ、あの!!」
必死に絞り出したみたいな声。
みんなの視線が、
体育館の後方へ集まった。
「……狠くん?」
「俺も……向き合います」
狠くんは拳を握りしめた。
「俺も、守られるだけじゃなくて」
ゆっくりと顔を上げる。
「兄さんのこと、守りたいから」
その言葉と眼差しで、
十分だった。
僕は狠くんを見据えた。
「うん」
「俺……」
狠くんの声が震える。
「俺は——」
その瞬間。
体育館の入り口から——
「皆さん!無事ですか!!」
知らない男性の声が届いた。
制服を着た警察官がこちらへ走ってくる。
「三岳です!!」
「あ……」
あの人が。
「救急車、呼びますか!?」
「いや」
三岳警部補の言葉を、篝くんが遮った。
「僕も斎賀先生も、大きな怪我はしていません」
篝くんが僕を見る。
「……紫苑くん、上手く加減してたみたい」
やっぱり。
あの人は、ただ。
「……何か変えようとしてた」
僕だけじゃなくて。
「三岳警部補!」
奏さんが声を上げる。
「紫苑さんを追って下さい!まだ近くにいるはずです!」
「それはできません」
「え!?」
「三流派の揉め事に、警察は手を出さないことになっているんです」
『は!?ただのお家騒動じゃねぇだろ!?』
颯が叫ぶ。
『あいつ、俺のこと消す気だったぞ!?』
「だけど怪我人は誰もいないんですよね?」
『この体育館はどう説明すんだよ!』
「斎賀先生」
三岳警部補は眉尻を下げた。
「実験事故ということで処理してよろしかったでしょうか?」
「……問題ありません」
『あいつら放っておくのかよ!』
「颯くん」
壁に背中を預けたまま、先生が目線を上げる。
「前にも言ったように、祓い師の力は普通の人には見えません」
先生の言葉に三岳警部補が続いた。
「せめて常夜がいれば立件できるんですが……」
『んでも久世家は常夜と繋がってんだろ!?』
「警察は久世家の関与について認めていませんから」
伊吹さんが口を開く。
「東雲家は疑うのに、久世家は疑わないってこと?」
「そうです」
三岳警部補は苦々しく頷いた。
狠くんが俯く。
悔しそうに唇を噛んだ。
「——それなら」
「……狠ちゃん?」
「俺が話します」
狠くんが顔を上げる。
「レプリカ拳銃を作ったの、俺です」
「君が……?」
三岳警部補が目を見張った。
「はい」
その声は、
もう震えていなかった。
狠くんが息を吸って吐く。
「蒼嶺様の指示です」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月13日21時
第二百四十二話 手放せない




