第二百三十九話 守るためだった
「久世は、王様になりたい家だからね〜⭐︎?」
紫苑さんは肩の上で鉄槌を弾ませた。
「お前の存在がバレたら、“霧島と御影が手を組んだ!”“許さなーい!”ってなってたんじゃない⭐︎?」
「……あ……」
「邪魔な子供は始末⭐︎久世ってそういう家⭐︎」
ゾクッと、全身の肌が粟立った。
「だから、お前の親が封印をかけた」
——詠慈さん。
「そして、お前を遠ざけた」
「……っ!」
目頭が熱くなる。
白い半面。
一度も振り返ってくれなかった背中。
僕との繋がりを、
ずっと隠していたのか。
「じゃなかったらさ。
お前、とっくに消されてたかもね」
——『……君を守るためなんだ』
「……お父さん……」
視界が滲んでいく。
……ごめんなさい。
一瞬でも。
“捨てられた“なんて思ってしまって。
『……そういうことかよ』
僕の内側で、
颯が小さく呟いていた。
「お前さ」
紫苑さんは息を吸って吐いた。
「ずっと守られてたんじゃない?」
僕はヘソの上に手を当てた。
産まれた時からかけられていた封印。
——全て、
僕を守るためだった。
涙が一筋。
堪えきれず、溢れた。
「……僕と違ってね」
紫苑さんの声に、体育館が静まり返る。
誰も何も言えなかった。
ただ、
紫苑さんだけが笑っていた。
「……紫苑くん」
「なーに篝様〜⭐︎?」
「柊くんのこと、久世家にバラすつもり?」
「もう隠す意味ないでしょ⭐︎?」
「柊くんを巻き込む気?」
「篝。
お前、何を見てたの?」
紫苑さんが目を細めた。
「こいつ、ちゃんと強いじゃん」
「……え?」
思わず声が漏れた。
「柊」
紫苑さんが僕の名前を呼ぶ。
いつになく真剣な声。
「もう、守ってもらう側じゃないでしょ」
「……」
「その力で全部壊せるんだから」
紫苑さんが口の端を吊り上げる。
「どう⭐︎?天才になった気分は⭐︎?」
初めて聞いた。
紫苑さんが、
自分以外を“天才”と呼ぶなんて。
ウーウーウーウー!!
体育館の外から、
サイレンの音が響いた。
「はいタイムリミット〜⭐︎
めんどいの嫌だから僕は消えまーす⭐︎」
次の瞬間。
紫苑さんはもう、
体育館の二階のキャットウォークにいた。
「僕はさ〜⭐︎
柊より守らなきゃいけない奴がいるから⭐︎」
“守らなきゃいけない奴”。
その言葉に、
狠くんが一瞬だけ顔を上げた。
「あいつはお前と違って、凡才だからね⭐︎」
紫苑さんが体育館の窓へ足をかける。
「天才は勝手に自衛して⭐︎じゃ⭐︎」
ふわっと、
紫苑さんは窓から飛び降りて消えた。
「頑張ってね⭐︎」
そう言い残して。
***
Side:颯
——繋がった。
霧島詠慈は、ずっと。
柊を守ってた。
柊は、
霧島と御影の子どもだった。
生まれた時から、特別だったんだ。
……俺にとって、だけじゃなくて。
霧島家にとっても。
御影家にとっても。
久世家にとっても。
じゃあ、
俺は?
—— 『つまり、ほとんどが柊の力だったってわけ⭐︎』
紫苑の言葉が反芻される。
俺はこれまで、
俺の力で柊を守ってきたと思ってた。
いや。
お互いに守り合ってきたと思ってた。
だけど、
俺が前に出なくても、柊は紫苑を殴った。
やっと共霊できたのに。
——『俺がずっと、守ってやる!』
幼い日の、あの約束が蘇る。
柊。
急に、お前が遠い。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月12日12時
第二百四十話 唯一無二




