第二百三十六話 二つの鼓動
「ちょっとむず痒かったかも〜⭐︎」
「紫苑さん……!」
もう立ち上がってきた。
確かに手応えはあったのに。
全然効いてない……!
「……逃げるなんて無理だ」
先生を支えながら、篝くんが呟いた。
「そんなに甘くない」
「わかってんじゃん⭐︎」
紫苑さんが僕の隣を指差す。
「雑魚霊、もう霊力切れてるよ⭐︎」
「え!?」
颯はもう、霊力がないのか。
伊吹さんのストックは切れた。
先生もぐったりしている。
どうすれば……!
「——颯くん!!」
奏さんの声が体育館に響いた。
「私が霊力送ります!!」
「奏さん!!」
振り返ると、
奏さんが両手を前方へ伸ばしていた。
「葵さんは!?」
「桃華さんが、暮羽さんだけで十分だと!」
体育館の外。
ガキィン!!
氷と霊刀がぶつかり合う音が響いた。
「次から次へと何なの一体⭐︎」
紫苑さんは肩をすくめた。
「僕もう雑魚霊の相手すんの嫌なんだけど〜⭐︎
倒しても消えないし〜⭐︎」
「……だから颯くんに託してるんですよ……!」
「持久戦狙い⭐︎?
悪いけど僕、全然疲れてないよ⭐︎」
「……それだけじゃないです」
「……ああ」
紫苑さんが目を伏せた。
「誰か呼んだんだ。
お前が考えそうなことだね」
冷たい声。
「時間がないなら、もう終わらせるね」
「……っ!?」
紫苑さんの指先が、ゆっくり動き始める。
まずい。
「久世家の禁忌って何か知ってる〜⭐︎?」
——『紫苑さんの禁忌は“霊を貰って、一時的に霊力を上げる術だ”って』
「あ……」
僕より先に、
「紫苑くん!何をする気だ!!」
篝くんが叫んでいた。
「守護契約の強制破棄⭐︎」
ドクン!
心臓が嫌な音を立てた。
僕の“願い”が結んだ契約。
颯をこの世に繋ぎとめている力。
それを、“破棄する”?
「ただ破るだけじゃないよ⭐︎?
守護霊は、僕の使い捨ての駒になる⭐︎」
紫苑さんの指が空間をなぞる。
「紫苑くん!……ゴホッ!……っやめるんだ!!」
篝くんの必死の叫びが、
この話は冗談じゃないんだと裏付けていた。
「ただの霊なら、それでさよなら〜⭐︎」
——『それで五年前に、狛さんの前の守護霊が消えたとか?』
そんなの——!
「半霊の場合はどうなるんだろうね⭐︎?」
「だめだ!!」
僕は叫んだ。
「颯は、まだ生きてるんだ!!」
——『颯くんの魂が、元の肉体に戻る保証はありません。最悪、そのまま魂が消え、肉体は死に至る可能性も』
あの先生の言葉を、忘れるはずがない。
「だから⭐︎?」
紫苑さんの考えなんて、
もうどうでも良い。
「……させない」
颯は、
誰にも奪わせない。
ヘソの上が焼けるように痛んだ。
熱い。
苦しい。
「久世禁式——⭐︎」
その瞬間。
——カチャリ。
僕の中で、
何かが開く音がした。
ブワァァァッ!!
霊力が吹き上がる。
「うおっ!?」
颯の声が、聞こえた。
颯が白銀の光に変わり、
僕の身体へ一直線に突き刺さる。
血液が燃えるように全身を巡る。
心臓が——
二つ、脈動した。
「……久世紫苑」
視界から、
紫苑さん以外が消えた。
景色が流れる。
瞬間、間合いを詰める。
「……っ⭐︎!?」
紫苑さんが初めて後ろへ下がった。
「颯を傷つけるなら、僕はお前を潰す」
ドゴォォォンッ!!
僕は、
紫苑さんを殴った。
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※次回更新:7月10日21時
第二百三十七話 箱が開いた




