第二百三十五話 二人で
「早く箱、開けたら?」
紫苑の声が冷たく落ちる。
「箱を、開ける……?」
俺は眉をひそめた。
さっきも、紫苑と篝は箱がどうとか言ってた。
「サラブレッドなんでしょ⭐︎?」
柊を挑発してるのか……?
篝が柊に向かって何か呟いてる。
だけど俺には聞こえねぇ。
「颯くん……」
伊吹が弱々しい声で俺を呼んだ。
「今日、あんまりストック持ってなくて……」
伊吹の足元には、
空になったゼリー飲料が二つ転がっていた。
「次が、最後かも……!」
「……マジか」
考えろ。
がむしゃらにやっても、勝てねぇ。
「颯さん!!」
初めて、狠が声を上げた。
「何回やったって無駄ですよ!
紫苑さんには敵いません!!」
「うるせぇ!!」
「やられるってわかってるのに、
どうして戦うんですか!?」
——そんなの。
決まってる。
「兄弟だからだよ!!」
そうだ。
兄貴……!
「おい、伊吹!帽子貸せ!」
「えっ!?帽子!?」
「いいから早く!!」
伊吹が投げたニット帽を受け取る。
「おい柊!!
俺は見えなくても、帽子は見えんだろ!?」
ニット帽を深く被った。
一瞬。
柊が目を見開く。
——伝わった。
たとえ、
共霊できなくても。
「行くぞ!!」
「それで何とかなるとは思えないんだけど〜⭐︎」
床を蹴る。
伊吹の霊力が俺へ流れる。
紫苑へ向かって走った。
問題は、隙を作れるかどうかだ。
——『白瀬颯』
耳元に宵の声が落ちた。
『隙はあの教師が作る。思い切りやれ』
「は!?」
ちらりとメガネに目をやると、
その隣に灯の姿が見えた。
何する気かしんねぇけどよ……!
「信じるぞ!!」
視界の端。
柊が動くのが見えた。
柊。
お前なら合わせられる。
「行くぞぉぉ!」
「遅い⭐︎」
紫苑の影が揺れた。
鉄槌が落ちる。
バチィッ!!
「は⭐︎?」
紫苑の鉄槌が弾かれた。
俺と紫苑の間に、一瞬。
あの霧島家の紋様が見えた。
「ナイスメガネ……!」
「颯!!」
飛び出してきた柊が、
俺と同時に拳を構える。
——今の兄貴には霊力がない。
お前の中には入れない。
だけど、
同じ位置に立てる。
重なれる……!
「「旋霊拳——」」
見えなくても。
聞こえなくても。
撃てる。
二人で。
「「疾風!!」」
ドガァァァンッ!!
風と旋回した霊力が、
紫苑を殴った。
***
Side:柊
紫苑さんの身体が宙を舞った。
当たった。
共霊しなくても。
全身に颯の風を感じる。
「颯……!」
胸の奥が熱くなった。
「さすがだね」
篝くんは壁に背中を預けたまま、僕を見上げていた。
「完璧なタイミングだった」
篝くんが力無く微笑む。
「篝くんのおかげだよ……」
——『霊力を回す感覚は覚えてる?』
さっき。
篝くんが教えてくれた。
『僕が合図するから、颯くんに合わせて』
『共霊しなくても、力は合わせられるかもしれない』
篝くんの言葉がなければ、
僕は前へ出られなかった。
篝くんだけじゃない。
斎賀先生も。
伊吹さんも。
みんなが繋いでくれた。
「柊くん!今のうちに逃げて下さい!」
斎賀先生が駆け寄ってくる。
「あの一撃で、紫苑くんが倒れるとは思えません!」
先生はしゃがみ込んで、篝くんの腕を肩に回した。
「篝くんも、逃げましょ——」
ズバッ!!
青白い光が、
先生の腹部を穿った。
「……がっ……」
先生の膝が崩れ落ちる。
「先生!?」
「……おめでと〜⭐︎」
紫苑さんは、変わらない笑顔だった。
「やっと一発当てられたね⭐︎」
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※次回更新:7月9日21時
第二百三十六話 二つの鼓動




