第二百三十三話 サラブレッド
「……っ……」
奏さんの息が漏れる。
「……何の真似ですか!葵さん!!」
——葵、さん?
「あら、動くと危ないですよ」
葵さんが奏さんの首元へ掌を当てる。
ピキピキ……ッ。
奏さんの首に薄い氷が張り付いた。
「葵様……いつの間に共霊できるように……!?」
狠くんが目を見張った。
「何!?狠ちゃんも知り合い!?」
「久世葵!紫苑さんの従妹ですよ!!」
葵さんの腕の中で、奏さんが叫んだ。
「氷は守護霊の力です!!」
久世家の人間……!
それに、共霊……!?
ドガァンッ!!
背後で何かがぶつかる音がした後、
「……別に手こずってないけど〜⭐︎」
紫苑さんの声が落ちた。
「見てわかんない⭐︎?篝もう瀕死⭐︎」
——瀕死!?
振り返ると、
「……うっ……」
体育館の壁に打ち付けられ、
篝くんが力無く横たわっていた。
いつの間に吹き飛ばされたんだ……!?
「見えてなかったんだ⭐︎」
「……相変わらず、口の悪いこと」
「僕の監視に来たの⭐︎?心配性〜⭐︎」
「蒼嶺お兄様のご指示ですから」
「篝くん!!」
二人が会話する中、
僕は篝くんへ向かって走った。
「……まずい」
斎賀先生の顔つきが変わる。
「篝くん!!大丈夫!?」
「……柊くん……ごめん……ゴホッ、ゴホッ」
——瞳が、灰色に戻ってる。
「ううん……喋らなくて良いから……!」
僕は奥歯を噛み締めた。
僕は、何もできてない。
拳に力が入る。
爪が掌へ食い込んだ。
また、ヘソの上が熱くなる。
「さて、お兄様?
しっかり見ていて差し上げますから、
早く処分なさったらいかがです?」
葵さんが微笑んだ。
「こちらはこちらで、始末いたしますので」
「あ……!」
奏さんの首元から顔へ。
氷が広がっていく。
白い霜が頬を覆った。
その瞬間——
光が瞬いた。
「彗星」
ドゴッ!!
「……っ!?」
奏さんを拘束していた腕に、
光が突き刺さった。
同時に。
葵さんの背後に黒い影が現れる。
「え——」
葵さんが振り返るより早く。
誰かの腕が首元へ回った。
グイッ。
身体が引かれる。
葵さんのバランスが崩れ、腕の中から奏さんが逃げた。
「きゃっ!?」
ドォンッ!!
葵さんの身体が床へ叩きつけられる。
紫苑さんが目を細めた。
「……ださ〜⭐︎」
何が、起きたんだ……?
「あのね」
厚底ヒールの音。
甘い香りが体育館へ入ってくる。
「桃華は何も、聞いてないのだけれど?」
「全くですね」
「桃華ちゃん!暮羽さん!!」
伊吹さんが叫んだ。
「三流派って本当に暇なのね」
葵さんの身体を押さえつける暮羽さんの横で、
桃華さんは腕を組み仁王立ちしていた。
「くっ……!」
葵さんが暮羽さんを睨みつける。
ピキ……ッ。
暮羽さんが押さえつけている箇所から霜が張り、
暮羽さんは葵さんから素早く離れた。
「……冷たくはない……霊力に干渉する力か……」
「私に……恥をかかせましたね」
葵さんがゆっくりと立ち上がる。
「白瀬柊!!」
桃華さんが僕を睨んだ。
「Tu es un pur-sang, non ⁉︎
——あんた、サラブレッドなんでしょ!?」
「あ……」
“pur-sang”。
前にも聞いた、フランス語。
「こっちは良いから、早く久世紫苑を片付けなさい!!」
「……っ!!」
僕は、何もできていなかった。
篝くんにも。
斎賀先生にも。
そして——颯にも。
誰かに守られてばかりだった。
それなのに。
桃華さんは、僕を下がらせなかった。
戦えと言った。
——僕を、信じて。
「……やらなきゃ」
共霊する。
「颯!やろう!!」
「柊くん!ボクが颯くんに霊力送る!!」
伊吹さんは足元を氷で固められたまま、
空中に右手をかざしていた。
「今紫苑くんと戦えるのは——
君たちしかいないよ!!」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月7日21時
第二百三十四話 信用されてねぇみてぇだろ




