第二百三十二話 信じてる
「っていうかさ〜⭐︎?」
一歩ずつ。
紫苑さんが篝くんの方へ歩み寄る。
「言ったじゃん⭐︎
僕を止めたいなら、先に箱を開けろって」
——箱を、開ける?
あの新聞記事が脳裏をよぎった。
「……」
篝くんがわずかに目を伏せる。
「紫苑くん」
「何ー⭐︎?」
「僕はね、
箱は無理やり開けるものじゃないって思ったんだ」
「は⭐︎?」
「だから君には壊させないよ」
篝くんが振り返る。
「柊くん」
目線が、合う。
「僕は、君を信じてる」
次の瞬間——
ドゴォンッ!!
鉄槌が床を叩いた。
篝くんの姿は——もうない。
速い。
「へぇ⭐︎?共霊ってマジ厄介⭐︎」
ガァンッ!!
金属がぶつかるような音。
「っ!?」
何が起きた?
目を見張る。
——わからない。
ブワッ!!
風圧で、文化祭の装飾が宙を舞う。
ガシャン!!
ステージの舞台看板が落ちた。
二人はステージ上?
いや、違う。
今、
音は体育館の中心から聞こえる。
だけどそこには、誰も見えない。
「お前の動きじゃないね⭐︎」
「篝様をお守りするのが、僕の役目だ」
「双子の男の方か⭐︎」
ただ、声だけが聞こえる。
「どこ……!?」
僕が視線を巡らせた、その時。
バンッ!!
パイプ椅子が飛んできた。
「えっ!?」
——当たる!
「危ない!!」
僕の前に、斎賀先生が飛び出す。
先生が手をかざすと、
パイプ椅子が軌道を逸らした。
「柊くん、下がって!」
激突音の中、
先生の声が響いた。
「でも——!」
「今の君には見えないでしょ!?」
「……っ!!」
——今の、僕じゃだめだ。
ぎゅっと目を瞑った。
ドンッ!!
今度は天井付近。
体育館に吊るされた横断幕が引き裂かれる。
「うわっ!!」
悲鳴を上げたのは、伊吹さんだった。
猛烈な風圧。
周囲が、壊れていく。
「先生、今、どうなってるんですか!?」
「篝くんが押されてます……!」
「そんな……!」
篝くんは、本気を出せない。
僕らの背後。
狠くんを庇っていた伊吹さんが顔を上げる。
「篝くん!!」
伊吹さんは取り出したゼリー飲料を咥え、
篝くんへ向かって手をかざした。
「使って!!」
「おい⭐︎」
シュッ!
伊吹さんの目の前に——
「邪魔すんな⭐︎」
紫苑さん。
「あ……!」
紫苑さんが伊吹さんへ鉄槌を振るう。
その横から——
ドガァンッ!!
篝くんの蹴りが突き刺さった。
紫苑さんの身体が大きく弾け飛ぶ。
次の瞬間には、
もう二人とも見えなくなっていた。
「みんな、外へ逃げて!」
篝くんの声だけが届く。
「でも篝くんがやられちゃうよ!!」
ドクン。
……篝くんが、やられる。
伊吹さんはゼリー飲料を吸い込むと、再び手を伸ばした。
「食霊法——!!」
その時。
ピキッ……!
「え!?」
伊吹さんが目を見開く。
伊吹さんの足に——
氷……!?
出入り口が凍りついていく。
カツン……。
氷を踏み締める、
足音が響いた。
「あらあら」
女の子の声。
逆光で顔は見えない。
ただ、
肩口で切り揃えられた髪と、
セーラー服のシルエットが見えた。
「随分と手こずっていらっしゃいますね」
女の子が誰かの身体を腕で引き寄せている。
人質をとるみたいに。
「……っ奏ちゃん!?」
伊吹さんが叫んだ。
「……くっ……」
女の子の腕の中、身動きを封じられた——
奏さんが声を漏らした。
「ねえ?紫苑お兄様?」
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※次回更新:7月6日21時
第二百三十三話 サラブレッド




