第二百三十一話 大丈夫?
「……っ!」
上だ。
反射的に後ろへ飛ぶ。
ドゴォォン!!
床板が抉れた。
木片が頬をかすめる。
「危な……!」
脅しじゃない。
——本気だ。
「よく避けれたね⭐︎」
声だけが聞こえる。
姿は見えない。
霊力もわからない……!
照明は落ちたまま、
暗幕で閉ざされた体育館。
文化祭用の装飾が揺れる。
「どこですか!?」
「ここ〜⭐︎」
ブワァッ!!
ステージ側に並べられたパイプ椅子が吹き飛んだ。
銀色の椅子が何脚も宙を舞い、僕へ向かってくる。
「うわっ!」
床を転がった。
背後で椅子同士がぶつかる音が響く。
——見えない。
速すぎる。
いや。
見えても多分避けられない。
この人は、
圧倒的だ。
「お前も、わかってるだろ⭐︎?」
真横……!
振り向くと、
もう鉄槌が迫っていた。
「っ!」
間一髪、横へ転がる。
ドゴォッ!!
床板が爆ぜる。
天井から吊られた紙花が、風圧で舞い落ちた。
「僕には勝てない⭐︎」
紫苑さんは真っ暗な瞳で僕を見ていた。
「……くっ!」
立ち上がる。
——考えろ。
どうすれば良い?
考える時間が必要だ。
僕はステージ方向へ駆け出した。
「好きだね〜⭐︎鬼ごっこ⭐︎」
紫苑さんは走らない。
ゆっくり、歩いてくる。
——このままじゃ、やられる。
力がなくては戦えない。
封印を解かなきゃ。
でも、どうやって?
走りながら考える。
二重の封印。
一度は薄くなったアザ。
颯。
全部が頭の中を回る。
僕はステージの袖に隠れた。
「あ、隠れんぼか⭐︎」
ステージ袖の中、
演台の後ろにしゃがみ込んで身を潜めた。
「はぁ……はぁ……」
霊力が見えない。
颯も見えない。
……だけど。
——『見えなくても、ワンチャンできるんじゃねーの?』
光流くんの言葉。
「……やっぱり……」
見えないなら。
見えなくても。
颯と——
「……共霊する……!」
今の僕にできること。
これしかない。
「……っ!颯!!」
どこにいる?
どうやって、共霊する?
君の音が、聞こえないのに?
「みっけ⭐︎」
ゾワッ!!
背筋が凍った。
声が近い。
振り返ると——
演台の上から、鉄槌が落ちた。
「しまっ——!」
ドゴォォンッ!!
轟音。
なのに、
衝撃がこない。
「——大丈夫?」
聞き慣れた声。
「……え?」
目を開けると、体育館の床が見えた。
身体が浮いている。
肩に担がれているんだ。
——冷たい。
まるで人じゃないみたいな体温。
この温度を、僕はよく知ってる。
「……篝くん……!」
「ごめんね、遅くなって」
「ミスターコンは……!?」
「そんなものどうでもいいよ」
暗闇の向こう。
閉ざされていたはずの体育館の扉が開き、
夕陽が差し込んできた。
逆光の中、人影が三つ。
「柊くん!!」
伊吹さん、その隣に狠くん。
そして、
「大丈夫ですか!?」
「斎賀先生!!」
「霧島の人間って、封印解くの早くてうざーい⭐︎」
ステージ上から、紫苑さんの声が響いた。
——先生が、解いたんだ。
扉に浮かんでいた結界の模様は、もう消えていた。
「先生、柊くんを」
篝くんが僕を床に降ろす。
先生が僕の方へ走ってくる。
「ありがとう。篝くん」
篝くんを見上げた。
「下がって」
緋と蒼のオッドアイ。
——共霊している。
「柊くん!無事ですか!?」
先生に腕を引っ張られ、僕は後方へ下がった。
「はい……でも……」
篝くんを見る。
篝くんは紫苑さんと向き合っていた。
「僕とやる気⭐︎?」
紫苑さんがステージから飛び降りる。
「……ふふ……」
「でもさ〜⭐︎?
学校、燃えちゃうね⭐︎?」
そうだ。
生徒だけじゃない。来客もたくさんいる。
僕は斎賀先生を見た。
「誰もこちらへ近づかないよう光流くんと麗子さんたちが見てくれています。ですが……」
先生が眉を寄せる。
「火の手が上がれば、巻き込まれる可能性があります」
「じゃあ……」
篝くんの力は使えない。
「お前、焔に頼りすぎだよ⭐︎」
「……ふふ」
篝くんの口元がわずかに上がった。
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※次回更新:7月5日15時
第二百三十二話 信じてる




