第二百二十八話 本物
***
Side:柊
その頃。
お昼休憩を終えて、
僕は再びお化け屋敷の出口へ戻った。
さっき、奏さんに狠くんの話をした。
——『狠くんは中学生ですよ?東雲家の息子だとしても、拳銃のレプリカまで作れるとは思えません。
体験授業のミニロボとは訳が違いますから』
奏さんは、半信半疑だった。
——『それに、例え久世家と繋がっていたとしても、協力して貰っておいて、東雲家を嵌める意味もわかりません』
僕は何も言い返せなかった。
「それはそうだけど……」
一人、呟いた。
目線を落とすと、
机の上の籠の中で、回収済みの懐中電灯が点滅していた。
「颯」
自然と頬が緩む。
「遊びすぎるとバレるよ」
——『大丈夫だっつの』
そう言ってる気がした。
その時、
出入り口の暗幕が動いた。
声も。
足音もなかった。
背筋を伸ばす。
「お帰りなさい」
静かに暗幕を潜り抜け、
現れたのは。
「お化けが出ると聞いていましたが、ずっと普通でしたね」
セーラー服に、
肩口で切り揃えられた青髪の少女。
……どこか見覚えのある雰囲気だった。
一人なのに、
全く怖がっていない。
「シフトの関係でしょうか?」
「あ……」
今、奏さんはメイク中。
奏さんがいない時は、
中で“超常現象”は見られない。
……そういうこと?
少女がにこりと微笑む。
その笑顔に、
思わず心臓が跳ねた。
「最後に、本物が出ましたね」
「え?」
——その瞬間だった。
カシャン!
籠の中の懐中電灯が勢いよく跳ねた。
颯!?
僕は慌てて籠の中へ手を入れた。
「ふふっ。はい。これ返します」
少女が懐中電灯を差し出す。
——颯が見えてる?
顔を上げると、
彼女は僕のことをじっと見つめていた。
何か、見透かしたような瞳。
……あ。
青紫色。
「こ、この先も、お気をつけて……!」
僕は目を逸らした。
「ええ。あなたも」
「……僕?」
「気をつけてくださいね」
……どういう意味……?
彼女はもう、廊下を歩き出していた。
「……誰かに似てる」
でも、
それが誰だったのかわからない。
「……綺麗な子だったな」
「柊くん」
名前を呼ばれて振り返った。
「か、奏さん……!」
「何ですか」
……女子高生ゾンビだ。
何回見ても慣れない。
「もう!だからゾンビは嫌なんですよ!
今日の午後だけですからね!!」
奏さんは怒っていた。
僕まだ何も言ってないのに……。
「それより、柊くん。
さっき、紫苑さんのような気配を感じたのですが」
「え?僕は見てないけど……」
「ですよね。
紫苑さんに似てはいるけれど、本人とはちょっと違う感じもするんです」
……あ。
——『気をつけてくださいね』
さっきの、青髪の少女。
確かに、似てた。
——紫苑さんに。
でも、
あの子はもっと穏やかだった。
***
一方。中庭。
篝と伊吹、狠。
化学準備室を後にして、文化祭を回っていた。
変装の効果は抜群だった。
誰もそれが篝だとは気付かない。
オレンジ色のニット帽にサングラス。
……どう見ても変質者ではあるが。
「ふふ……」
だが本人は……
いや、三人とも気にしていなかった。
「光流くんのクラス、執事喫茶だって〜!」
パンフレットを開きながら、伊吹が楽しそうに言った。
篝がにこりと微笑む。
「柊くんのクラスは、二年A組だよね?」
「篝くん!?お化け屋敷行かないよ!?
サングラスとったら、また女子がキャー!ってなって、どわー!ってなって、柊くんに迷惑かけるよ!?」
「……そっか」
「何でそんなにお化け屋敷行きたいんですか」
狠が眉を寄せる。
「だって柊くんがいるでしょ?」
「よくわかりません」
三人がそんなやりとりをしている様子を、
廊下の窓から眺めている人物がいた。
「……御影篝」
青髪の少女——葵。
「相変わらず——腹が立つ男です」
葵は小さく舌打ちした。
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※次回更新:7月4日12時
第二百二十九話 フィナーレ




