第二百二十七話 本当のこと
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化学準備室。
斎賀先生は、既に疲弊していた。
「あの、篝くん……」
「?はい」
パイプ椅子に腰掛けた篝が微笑む。
「何をしてるんですか?」
「文化祭を見に来ました」
「……そうですよね」
先生は力無く頷いた。
「いやね、良いんですよ。
君がうちの生徒であることは知っていましたし、
通信制の生徒にも文化祭に参加する権利はありますから」
「ふふ……」
「——だけど」
先生は、ビシッと化学準備室の入り口を指差した。
扉の向こうで——
「イケメンどこ行った!?」
「絶対捕まえろ!!」
女子生徒の声と、廊下を走る足音。
「ほら!!聞こえた!?
君は目立つんだから!!自覚して下さい!!」
「僕は地味な方なんだけどなあ」
「顔が派手なんですよ!顔が!!」
次の瞬間。
ジュッ。
先生の髪が、小さく燃えた。
「あちー!!」
先生が焔を手で叩き、慌てて消火する。
「ちょっと、何するんですか!?」
「僕は何もしてませんよ」
ふわりと降り立つ——宵と灯。
「無礼者に罰を与えただけだ」
「篝様を侮辱するなんて許せませんわ!」
「こらこら。宵、灯」
篝は眉を寄せて微笑んだ。
「燃やしちゃ駄目だよ。学校なんだから」
「……申し訳ありません」
「失礼しましたわ」
「もっとちゃんと怒ってね!?
僕、髪燃えてるからね!?」
「そんなことより、先生」
「そんなこと!?」
「久世颯紫は、一体何者なんですか?」
篝の低い声に、
空気が張り詰める。
「……っ」
先生の顔つきが変わった。
「……僕の古い友人ですよ」
「それだけですか?」
「ええ」
「ふふ……。
先生、何か知っていますよね」
「……何のことでしょう?」
篝は、先生を真っ直ぐに見た。
「綾さんの死について」
部屋に重い沈黙が落ちた。
「……」
先生の視線が逃げる。
篝の瞳が細められた。
……何かを確信したように。
また、
廊下を走る足音が聞こえる。
「来ますね」
「え?」
「ふふ……」
篝が微笑んだ瞬間——
ガチャガチャッ!!
「先生ー!!」
化学準備室の扉が開き、
あの明るすぎる声が響いた。
「ちょっと光流くーん!」
光流の背後から伊吹が顔を出す。
「返してよー!」
光流の手には、伊吹のニット帽とサングラス。
「篝くん、これ貸すー!変装用!
んで、伊吹さんと狠くんが一緒に文化祭回ってくれるってー!」
「ボク一言も良いって言ってないんだけど〜!!」
騒ぎながら化学準備室へ入ってくる二人。
その後ろから来た狠が、扉の鍵を閉めた。
「狠くん!?」
斎賀先生が声を上げる。
「狛くんは!?どうなったんですか!?」
「あ、そうだ。俺も聞こうと思ってた」
光流は篝へニット帽とサングラスを手渡すと、パイプ椅子に腰掛けた。
伊吹が狠を見上げる。
「……狠ちゃん」
狠は一度だけ伊吹を見た。
「兄さんは——」
狠の視線が床へ落ちる。
「まだ、謹慎中です。
兄さんがやったという決定的な証拠が見つかっていないので、調査は難航しています」
「そうなんだ〜」
「そうですか……」
「君のお兄さんが、本当にそんなことをするのかな」
尋ねたのは、篝だった。
「拳銃を作ったり、人を傷つけたり」
「それは——」
「君に秘密を負わせるとも思えないし」
「篝くん……!」
伊吹が思わず狠の前へ出た。
「お兄さんにも何か事情があるんだろうけど」
篝は構わず続けた。
「真実を明らかにすることと、約束に従うこと。
どちらが大切なんだろうね?」
「……」
狠は拳を握りしめた。
篝が椅子から立ち上がる。
「何て、僕が言えたことじゃないけど」
小さく呟いた。
光流が篝に指ピストルを向ける。
「なんか知ってる風の口ぶりだよね?」
「ふふ……。本当のことは何も知らないよ」
篝はニット帽を被った。
「文化祭、案内してくれるんだよね?」
オレンジ色のニット帽の下、
サングラスの奥で灰色の瞳が細められる。
伊吹は唇を尖らせた。
「一緒に回るのは良いけど、
ボクたちも校内よくわかってないよ〜?」
「ふふ……。
柊くんたちのお化け屋敷に行ければ良いから」
「ダメダメ!」
光流が腕を交差させてバツを作る。
「お化け屋敷はサングラス禁止だから行っちゃダメー!」
「……がーん」
「その顔でがーんって言うのやめて!」
光流の笑い声につられ、伊吹も苦笑する。
場の空気が柔らかくなる中で、
狠だけが唇を噛み締めていた。
まるで、何かに耐えるみたいに。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月3日21時
第二百二十八話 本物




