第二百二十五話 見つけた
「あーー!?何で篝くん!?!?」
ステージの下から、光流くんが叫んでいるのが見えた。
僕も同意だ。
篝くん、うちの通信制だったの?
ていうか、
文化祭に来るなんて聞いてない。
僕の気持ちとは裏腹に、
司会は意気揚々と喋り始めた。
「それでは、篝くん!アピールタイムです!」
「ふふ……何するの?」
篝くんが首を傾げる。
「かっこいいー!」
「スタイルよすぎー!!」
それだけで、また会場に歓声が湧いた。
「ん〜。特技とか趣味とか、何でも良いよ!」
「特技……」
篝くんは少し考え込んだ後。
ゆっくり、
口を開いた。
「……布団が、ふっとんだ」
——シン。
全員の声が止んだ。
……あぁ。
やらかしてる。
しかし。
「……ふふっ」
篝くんが自分で笑った。
「え、可愛い」
「今の笑顔やばくない?」
「ぎゃあああああ!!」
歓声。
「待って!?あいつダジャレ言っただけだよな!?」
光流くんのツッコミには、誰も反応しなかった。
「これ俺負けるとかないよね!?」
光流くん。
御愁傷様……。
次の瞬間。
「あ」
ぱちり、と。
ステージ上の篝くんと目が合った。
「……ふふ、見つけた」
篝くんが嬉しそうに手を振る。
……嫌な予感。
「柊くーん」
まずい。
「ご、ごめんなさい!!」
僕は逃げた。
「誰!?柊って!!」
「知り合い!?」
篝くんが捨てられた子犬みたいな顔をしている気がしたけど、目を瞑った。
*
人混みを抜け出し、校舎の中へ戻ると、
甘い香りが鼻をくすぐった。
廊下の向こうから——。
「——あら、白瀬柊」
「桃華さん!!」
「こんにちは」
桃華さんの背後から、暮羽さんが現れる。
二人に会うのは、花火大会の日以来だ。
「暮羽さん、退院されたんですね!」
「はい。つい先日」
「もう動いても大丈夫なんですか?」
「痛みは少しありますが、問題ありません」
桃華さんが、ふんっと鼻を鳴らした。
「それより白瀬柊。
あなた、霧島詠慈に封印をかけられたそうじゃない」
「あ……どうしてそれを……」
「奏から聞いたわ」
奏さん、桃華さんと連絡をとっていたのか。
「……庶民の連絡先も、知らないと困ることがあるから」
桃華さんは独り言みたいに呟いた後、
ぴしっと僕を指差した。
「っていうか、元々封印がかけられてたのね。
これであの時の謎が解けたわ」
「あの時?」
「研究所の檻よ」
——あ。
「あの檻には霧島の封印がかけられていたの。
だから、あんただけ異様に消耗が激しかったのよ」
確かに。
あの時もヘソの上のアザが熱くなっていた。
……気づかなかった。
僕は目線を落とした。
「まあ良いわ。桃華は興味ないもの」
僕たちの横を、笑いながら生徒たちが通り過ぎて行く。
「だけど気をつけなさい」
「……え?」
目線を上げると、
桃華さんは腕を組んで僕を見ていた。
僕より頭一つ小さいのに、すごい威圧感だ。
「血筋や遺伝にやたらこだわる連中もいるのよ。
霊力の質や使える術だって遺伝するのだから。
せいぜいバレないようにすることね」
「……はい」
「常夜にも、久世家にも」
久世……。
紫苑さんにも?
そういえばあの人。
まだ姿を見てない。
「……今、久世紫苑のことを考えたわね」
「え」
「顔に出てるわよ」
桃華さんがぴしゃりと言った。
「あんまり信じすぎるんじゃないわよ。
久世紫苑は、今でも久世紫乃と繋がっているのだから」
「……っ!」
「二人が会ってるとこを見たの。
話してる内容まではわからなかったけれど」
桃華さんが髪をかき上げる。
「久世紫乃は化け物よ。
さすがの久世紫苑も、逆らえないんじゃないかしら?」
——だとしたら。
あの人は、やっぱり……。
いや。
ヴヴヴー!
「……あっ」
ブレザーのポケットでスマホが震えた。
取り出して見ると、
「奏さんから電話が……」
「良いわよ。出なさい」
僕は通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てた。
『柊くん?もう休憩入ってますよね?』
「うん」
『私もこれから休憩です。お昼、一緒に食べませんか?』
「あ……ちょっと待ってね」
僕は一旦スマホを離して、桃華さんを見た。
「何?」
「桃華さんたちもお昼一緒にどう?」
桃華さんがハッと嘲笑った。
「これから、体育館で桃華のクラスの劇があるのよ」
「え?桃華さん出るんですか?」
「庶民の劇に出るわけないでしょ。
もっと大役を預かってるのよ」
「……大役?」
桃華さんの口の端が上がる。
「観客係よ」
……何だそれ?
「一番良い席で観劇して感想を言う係よ。
桃華のように洗練された人間にしか務まらない役目だそうなの」
それって。
やんわりと、
弾かれているのでは。
僕は言葉を飲み込んだ。
「……頑張ってください」
「言われなくてもよ。暮羽、行きましょ」
「はっ」
二人が僕の横を通り過ぎて行く。
「それにしてもさっきからすごい声ね。何かしら」
「あ……」
僕が言葉を発する前に。
「文化祭、無事に終われば良いけれど」
篝くんが文化祭に来ていることも、
紫苑さんも来るかもしれないことも。
僕は、桃華さんに言いそびれてしまった。
中庭ステージから、
まだ歓声が聞こえていた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:7月1日21時
第二百二十六話 昼休み




