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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百二十四話 飛び入り参加


 九月四日金曜日。

 瑞峰祭一日目。


 僕は白い三角巾をつけて、

 お化け屋敷の出口に立っていた。


「お!終わりだ〜!」


 出口の暗幕を潜り、男女四人組が出てきた。

 

「……おかえりなさい。

 懐中電灯をお預かりします」


 これが、僕の仕事だ。


「いや、まじ怖かった!」


「クオリティ高すぎ〜!」


 笑っている男子に、青白い顔をした女子。

 同じ体験をしても、反応は一人一人違う。


「面白かったよ〜!」


「ありがとうございます」


 それでも、評判は上々らしい。

 

 その時。


 トンッ。


 男子の肩が軽く揺れた。


「おい!脅かすなって」


「え?何もしてないけど」


「は?」


 四人組が顔を見合わせる。


 わずかな、沈黙。


「……この先も、お気をつけて」


 僕はにこりと微笑み返した。


「いや、まじ笑えねー!!」


「中でもこういうのあったよ〜!?

 まじで霊いるんじゃない!?」


 四人組は苦笑いしながら去って行った。


「……颯」


 見えないけど、わかる。


「良い仕事するね」


 ——『見たか!あの顔!!』


 なんて言いながら、

 颯が笑っている気がした。


「“中で脅かしてる”のは、奏さんだろうね」


 僕は小さく呟いた。


「白瀬くーん!」


 暗幕を潜って、白い布に身を包んだ女子が顔を出した。

 

「お疲れ!そろそろ交代しよっか!

 文化祭回ってきて良いよ〜!」


「了解です」


「ついでに宣伝して来て!」


 黒い背景に赤字で、

 

 【二年A組・E組合同企画⭐︎呪われた教室】

 

 と書かれた手持ち看板を渡された。


「三角巾もらうわ!んじゃ、よろしく〜!」


「はい」


 僕は三角巾を外して、彼女へ渡した。


 ……“回ってきて”と言われても、

 一人でどこへ行ったら良いんだろう。


 奏さんとは休憩時間も違うし。


 ……颯とも、会話できないし。


「適当に見て来ようかな」

 

 僕は長い廊下を歩き出した。


 去年も、当てもなく校内を歩いていただけだった。


 あの時は文化祭なんて、正直よくわからなかった。

 

 だけど——。


「野外ステージでミスターコンやってるよ!」


「光流出るってー!見に行こ!!」


 廊下を女子グループが駆け抜けて行った。


「光流くん、出るんだ」


 去年は、誰が出るのかも知らなかった。


「見に行こうか、颯」


 今は、友達がいる。


 *


 野外ステージのある中庭には出店が並び、

 甘い匂いや香ばしい匂いが充満していた。


 ステージ前には人だかりが出来ている。


 去年は気にしていなかったけれど、

 ミスターコンってこんなに盛り上がるんだ。


「一年H組、現役地下アイドル田宮侑久(たみやゆきひさ)くんでした!」

 

 校舎の間から覗く青空に、

 司会の声が明るく響く。


「続いてエントリーNo.4!

 サッカー部エース!!

 三年B組、稲垣祥太(いながきしょうた)先輩でーす!!」


「光流くん、もう終わっちゃったかな……」


 少し背伸びしてステージ上を見ると、

 先輩がリフティングを披露していた。


「ありがとうございました〜!

 ここまでエントリーNo.1から4まで終わりました!

 いよいよ次がラストです!!」


 観客の期待が高まる。

 

「ラストを飾るのは、今年の大本命!

 インフルエンサー!二年F組、朝倉光流〜!!」


「うぇーい!!」


 光流くんが駆け足でステージに上がった。


「あ……」


 間に合った。


「去年は惜しくも二位でしたが、

 前回の覇者、齋藤先輩は卒業してもういません!!

 今年こそ優勝狙えるんじゃない!?」


「もちろん狙ってる〜!!

 みんな俺のこと好きだよね〜!?」


「うるせぇぞー!!」


「まあまあ好きー!!」


 観客からヤジが飛ぶ。


「まあまあって何ー!?」


 僕も少しだけ、笑ってしまった。


「それではちゃっちゃと行きましょう!

 アピールターイム!どうせ踊るんでしょ!?」


「なんか雑じゃね!?

 他の人、もっと色々喋ってたじゃん!!」


「音楽どうぞー!」


「はえーよ!!」


 中庭に笑い声が沸く。


 ……楽しいなぁ。


 ステージに曲が流れると、

 光流くんの雰囲気が変わった。


 ブレイクダンス。


 片手で身体を支え、光流くんの身体が宙を回る。


 歓声が爆発した。


「……すご」


 ——眩しい。


 夏の終わりの陽射しよりも、

 ステージの上で笑う光流くんの方がずっと眩しかった。


 光流くんには、

 人を惹きつける力がある。


 最後の回転を終えた光流くんが立ち上がる。


 ヘアバンドを軽く引っ張りながら、

 観客席へ向かってピースした。


「——俺に勝てるやつ、いる?」


 自信満々の笑み。


 ……僕まで、ドキッとしてしまった。


 一瞬の静寂の後——


「きゃあああああ!!」


 悲鳴にも似た歓声が中庭を揺らした。

 それに混じって、見知った声が耳に届く。


「あれうちの息子な!かっこいいっしょ!?」


「光流ー!良いぞー!!」


 振り返ると、光流くんのお母さんと光知瑠さんが見えた。


 ……多分。

 麗子さんもそこでドヤ顔している。


「光流くん、ありがとうございました〜!」


「うえーい!!」


 光流くんが手を振りながらステージを降りて行く。


「以上!五名のアピールタイム、全て終了しました!!」


 この時、きっと誰もが、

 優勝は光流くんだと思っていただろう。


 ステージ上では、司会の男子が実行委員と思われる女子たちと何やら打ち合わせをしていた。

 

 そして、


「皆さん!!事前エントリーにはなかったのですが、超絶イケメンが見つかったとのことです!!」


 司会が興奮気味に叫んだ。


「ぜひ参加して貰いたいのですが、皆さんどうでしょう!?」


「良いよー!!」


「イケメン見たーい!!」


「マジで芸能人レベルです!!」


「誰だよー!!」


「名前知らねーのかよ!!」


 飛び入り参加の予告に、

 会場がまた盛り上がり始める。


「……誰だろう」


「それではステージに上がって貰いましょう!!」


 ステージに続く階段を、実行委員の女子たちに引っ張られるようにして登る人物が見えた。


「通信制コース二年!

 えーっと……お名前は!?」


 ——白銀の髪。


 僕たちと同じ制服。

 

 だけど、見間違えるはずもなかった。


「……御影篝」


 一。


 二。


「ぎゃあああああ!!」


 悲鳴のような歓声。


「やばい!!」


「芸能人!?」


「顔ちっさ!!」


 会場が湧き上がる。


 ステージ上で、篝くんが微笑んだ。


「ふふ……一体これは、何なのかな?」

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月30日21時

第二百二十五話 見つけた

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