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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百二十三話 あと三日


 夕方。

 文化祭の準備を終えて、

 僕たちは河川敷に集まっていた。


「わっ!光流くん応援団だったの!?」


 僕たちが河川敷に着いた時には、

 もう伊吹さんと黒狼がいた。


「学ランかっこいー!!」


「でしょー!?」


 なぜか学ラン姿のままの光流くんに、伊吹さんが目を輝かせる。

 

 あの花火大会の後。

 伊吹さんが特訓に遅刻することはなくなっていた。

 

 以前理由を聞いてみたら、

 “用事がなくなったから!”とだけ言われた。


 伊吹さんは、狛さんや紫苑さんについて何か知ってるような気がする。

 ……勘だけど。


「三日後から文化祭なんだよね?

 ボクたちの高校も午前授業だし、見に行くね〜!」


「ぜひぜひ。

 そう言えば、紫苑さんも来るみたいですね」


「え!?」


 奏さんの言葉に、伊吹さんの肩が跳ねた。


「紫苑くんが!?瑞峰の文化祭に!?」


 この反応。

 本当に知らないみたいだ。


 僕は伊吹さんを見た。


「伊吹さんも知らなかったんですか?」


「紫苑くんはボクにそういうの言わないよ……。

 ボク信用されてないから……」


 伊吹さんの口元が引き攣っていた。


「まあ……ボクは一回裏切ってるしね……」


「伊吹さん!ネガティブ入ってますよ!」


 奏さんが伊吹さんの肩を掴んで揺する。


「颯くんも、“あいつは誰も信用してねぇから気にすんな!”って言ってます!」


 颯。

 それはフォローになっていないのでは……。


 伊吹さんの眉尻が下がる。


「それは違うよ、颯くん」


「え?」

 

 奏さんが伊吹さんの肩から手を離した。


「紫苑くんはさ、

 狛くんのことだけは信用してるもん」


「……」


 僕は奏さんと目線を合わせた。


「二人って、何か特別な関係ですよね?」


 奏さんが尋ねる。


「伊吹さんは、どこまで知ってるんですか?」


「……」


 少し沈黙した後、伊吹さんは声を潜めて話し始めた。


「狛くんから聞いた話だけどさ……。

 紫苑くんが久世家を破門されたのは、狛くんを守るためだったんだって」


 ——狛さんを、守るため?


「狛さんのために、禁忌を犯したということですか?」


「うん。そのこと、狛くんはずっと責任感じてるみたい」


「そう言えば……前も……」


 光流くんは一人呟いた後、奏さんを見た。


「ねぇ奏ちゃん。

 久世家の禁忌って何か知ってる?」


「……いえ。久世の人間でも知らないくらいですから。

 ただ、凄まじく霊力の強い人間しか扱えない術だとは聞きました」


「なるほどね〜」


「光流くん、何か気付いたの?」


 伊吹さんが首を傾げる。


「俺ね、前に聞いたの。……喝采から」


 “喝采“。

 その名を呼ぶ時だけ、光流くんの声は弱々しく聞こえた。


「紫苑さんの禁忌は“霊を貰って、一時的に霊力を上げる術だ”って」


 奏さんが空中を見上げる。


「麗子さんが、“何で喝采がそんなこと知ってんよォ?”って言ってます」


「見たんだって。

 紫苑さん、研究所でも禁忌を使ってる」


「「え!?」」


 僕と奏さんの声が重なった。


「しかも、狛さんを守るためにね。

 で、俺の仮説だけどさ……」


 僕は固唾を飲んだ。

 

「喝采は“霊”って言ってたけど、実際は守護霊なんじゃね?

 それで五年前に、狛さんの前の守護霊が消えたとか?

 今の黒狼は消えてないし、研究所で使った時は別の何かだったのかもね」


 ——守護霊が、消える?


 背筋がすっと冷えた。


「つまり紫苑さんは五年前と研究所の二回、守護霊の力を借りる禁忌を使った可能性がある、ということですか?」


「そう。研究所では、狛さんが致命傷で時間なかったからだと思うけど。五年前は、何だろう?」


「紫苑くんも狛くんも最強だし、特級霊害くらいじゃピンチにならないよね……?」


 伊吹さんが首を傾げる横で、

 光流くんが斜め上を見る。


「颯が、“だから霊害じゃねぇんだろ”って」


「あ……!」


 伊吹さんが口に手を当てた。


「“人間相手だったんじゃねぇの?”って。確かにね」


「ヴォン!!」


 光流くんの言葉に、黒狼が強く吠えた。

 

「狛さんが前に“守れなかった”って言ってたのは、紫苑さんのことだったのかもね……」


 奏さんが、麗子さんがいるらしい空間を指差した。


「麗子さんが、“そんなほいほい使えるもんじゃないから、禁忌って言うんでしょォ?紫苑にも何か代償があるんじゃなァい?”と」


「……代償」


 ——『特に、狛には絶対言うな⭐︎

 ……こんなの見たら、面倒になる』


 古我壮で聞いた、あの言葉。

 

 それから。


 火傷跡。


 もし。

 あれが、そうだとしたら?


 心臓の鼓動が早くなる。


「柊くん?」


 奏さんが僕の顔を覗き込んだ。


 ——『誰にも言うなよ。天才が傷負ってるなんてバレたら、踏みに来るやつがいるでしょ?』


 ——『力があるのは良いこととは限らない』


 紫苑さんと、篝くんの言葉が蘇る。


 ……狛さんのためだけじゃない。

 

 禁忌の代償がバレたら、

 紫苑さんが狙われるんだ。


 ——言えない。


 僕は唇を噛み締めた。


「颯が、“本人たちに聞かなきゃわかんねぇよ”って。

 まあその通りだね〜」


 光流くんが肩をすくめる。


「だけど、紫苑さんが狛さんを守るためには何でもするってのはわかった」


「確かに……狛くんが危ないなら……。

 紫苑くん絶対止まらないよ……」


 紫苑さんは、“狛さんを守るためには何でもする”。


 そんな輪郭だけが、少しずつ見え始めていた。


 誰もが、

 誰かを守るために動いている。


 ——文化祭まで、あと三日。


 全てが動き出そうとしていた。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月29日21時

二百二十四話 飛び入り参加

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