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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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244/253

第二百二十一話 久世本家


 ***


 五時間前。

 八月三十一日。午後一時すぎ。


 舗装路の先で道は途切れる。


 山奥。

 古びた鳥居の向こうに建つ巨大な屋敷。


 ——久世家本家。


 霧が立ち込める中庭の奥に、

 次期当主、久世蒼嶺の部屋はあった。


 床の間には古びた掛け軸。

 部屋に立ち込める線香の匂い。


 静かな和室に正座する蒼嶺の向かいで、

 紫苑は足を投げ出して座っていた。


「お招きどうも⭐︎

 てか半強制的に連れて来られたんだけど⭐︎」


「葵に伝言を頼んだんだけど。

 君が一向に現れる様子がなかったからね」


「この世で一番嫌いな奴の顔見るために、

 こんな山奥まで来たくないからね⭐︎」


「……紫苑」


「何〜⭐︎?」


 紫苑はスマホをいじりながら答えた。


「俺が何を言いたいか、わかってるよね?」


「さっさと動けって話?」


 紫苑は視線を上げずに話した。


「そんなこと言うためにわざわざ呼び出したの?」


「それだけじゃないよ」


 エアコンの風に、

 青と紫の髪が揃って揺れた。


「……紫苑。また少し雰囲気が変わったね」


「そう⭐︎?」


「また、禁式を使った?」


 紫苑の指が、一瞬止まった。


 蒼嶺は紫苑の反応を見て、静かに目を細めた。


「……そうか」


「だから何⭐︎?」


「君には、ずっと悪いと思っていた」


「は⭐︎?」


 紫苑は初めて蒼嶺の顔を見た。


「今さら⭐︎?殺そうとしてたくせに⭐︎

 後継者に決まって、謝罪の余裕もできちゃった⭐︎?」


 蒼嶺は何も言わなかった。


「ま、

 破門されたおかげで僕も自由になったから良いけど⭐︎」


 紫苑が嘲笑う。


「んで⭐︎?

 仲直りして、一緒に御影と霧島潰そうって⭐︎?」


「……君の力が必要なんだ」


「便利な駒として⭐︎?それとも兵器として〜⭐︎?」


 ——こいつらは、昔から。

 僕の“力”しか見てない。

 

「叔父さんに“媚び売っとけ”って言われたんでしょ〜⭐︎

 大体、何でそんな統合にこだわってんの⭐︎?」


「久世は昔から、変わってないよ」


「祓い師全部まとめて王様にでもなりたいって⭐︎?」


「それだけじゃないって知ってるだろ?」


「はいはい⭐︎」


 ——くだらない。

 桃華の言う通りだ。


 紫苑はゆっくりと腰を上げた。


「僕は三日後に動くよ」


 ……お前の思惑通りに動かされるのは癪だけど。


「叔父さんたちにも伝えとけば⭐︎?」


 腕を組み、蒼嶺を見下した。

 冷ややかな瞳だった。

 

「だけどお前を許したからでも、

 この家の味方になったからでもないから」


 蒼嶺が目線を上げて紫苑を見る。


「……つまり?」


「東雲家のこと、解放してやれって言ってんの⭐︎」


 紫苑はわずかに目を伏せると、小さな声で呟いた。


「……あいつらは久世家の忠実な犬だもんね」


 ——僕だけに、じゃない。


「お前さ⭐︎

 僕のことは嫌いでも、狛は気に入ってただろ?」


「……ああ。

 彼は優しい。……だから、利用される」


「そうだね〜⭐︎」


 紫苑は蒼嶺に背を向けると、片手を上げてひらひらと振った。


「……狛のこと、俺も守りたいんだ」


「……は?」


 部屋を出ようとしていた紫苑の足が止まる。


「自分で嵌めといて何言ってんの」


「必要だったんだ。久世のためには。

 だから——」


 蒼嶺は、真っ直ぐに紫苑の背中を見つめていた。


「紫苑を、信じてるよ」


「嘘つけ⭐︎

 “言うこと聞け”の間違いでしょ⭐︎」


 紫苑はふすまに手をかけた。


「……てかさ⭐︎

 久世家ってほんと、その髪型好きだよね⭐︎」


 蒼嶺は肩につく髪を指で払った。


「君も昔はそうだっただろう」

 

「クソダサいからやめたんだっつの⭐︎」


 それだけ言って、

 紫苑は蒼嶺の部屋を後にした。


 ——久世家に利用されるのはもうたくさんだ。

 僕のことも、狛のことも。


 好きにやらせるわけがない。


「全部ひっくり返してあげる⭐︎」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月28日12時

第二百二十二話 別に

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