第二百二十一話 久世本家
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五時間前。
八月三十一日。午後一時すぎ。
舗装路の先で道は途切れる。
山奥。
古びた鳥居の向こうに建つ巨大な屋敷。
——久世家本家。
霧が立ち込める中庭の奥に、
次期当主、久世蒼嶺の部屋はあった。
床の間には古びた掛け軸。
部屋に立ち込める線香の匂い。
静かな和室に正座する蒼嶺の向かいで、
紫苑は足を投げ出して座っていた。
「お招きどうも⭐︎
てか半強制的に連れて来られたんだけど⭐︎」
「葵に伝言を頼んだんだけど。
君が一向に現れる様子がなかったからね」
「この世で一番嫌いな奴の顔見るために、
こんな山奥まで来たくないからね⭐︎」
「……紫苑」
「何〜⭐︎?」
紫苑はスマホをいじりながら答えた。
「俺が何を言いたいか、わかってるよね?」
「さっさと動けって話?」
紫苑は視線を上げずに話した。
「そんなこと言うためにわざわざ呼び出したの?」
「それだけじゃないよ」
エアコンの風に、
青と紫の髪が揃って揺れた。
「……紫苑。また少し雰囲気が変わったね」
「そう⭐︎?」
「また、禁式を使った?」
紫苑の指が、一瞬止まった。
蒼嶺は紫苑の反応を見て、静かに目を細めた。
「……そうか」
「だから何⭐︎?」
「君には、ずっと悪いと思っていた」
「は⭐︎?」
紫苑は初めて蒼嶺の顔を見た。
「今さら⭐︎?殺そうとしてたくせに⭐︎
後継者に決まって、謝罪の余裕もできちゃった⭐︎?」
蒼嶺は何も言わなかった。
「ま、
破門されたおかげで僕も自由になったから良いけど⭐︎」
紫苑が嘲笑う。
「んで⭐︎?
仲直りして、一緒に御影と霧島潰そうって⭐︎?」
「……君の力が必要なんだ」
「便利な駒として⭐︎?それとも兵器として〜⭐︎?」
——こいつらは、昔から。
僕の“力”しか見てない。
「叔父さんに“媚び売っとけ”って言われたんでしょ〜⭐︎
大体、何でそんな統合にこだわってんの⭐︎?」
「久世は昔から、変わってないよ」
「祓い師全部まとめて王様にでもなりたいって⭐︎?」
「それだけじゃないって知ってるだろ?」
「はいはい⭐︎」
——くだらない。
桃華の言う通りだ。
紫苑はゆっくりと腰を上げた。
「僕は三日後に動くよ」
……お前の思惑通りに動かされるのは癪だけど。
「叔父さんたちにも伝えとけば⭐︎?」
腕を組み、蒼嶺を見下した。
冷ややかな瞳だった。
「だけどお前を許したからでも、
この家の味方になったからでもないから」
蒼嶺が目線を上げて紫苑を見る。
「……つまり?」
「東雲家のこと、解放してやれって言ってんの⭐︎」
紫苑はわずかに目を伏せると、小さな声で呟いた。
「……あいつらは久世家の忠実な犬だもんね」
——僕だけに、じゃない。
「お前さ⭐︎
僕のことは嫌いでも、狛は気に入ってただろ?」
「……ああ。
彼は優しい。……だから、利用される」
「そうだね〜⭐︎」
紫苑は蒼嶺に背を向けると、片手を上げてひらひらと振った。
「……狛のこと、俺も守りたいんだ」
「……は?」
部屋を出ようとしていた紫苑の足が止まる。
「自分で嵌めといて何言ってんの」
「必要だったんだ。久世のためには。
だから——」
蒼嶺は、真っ直ぐに紫苑の背中を見つめていた。
「紫苑を、信じてるよ」
「嘘つけ⭐︎
“言うこと聞け”の間違いでしょ⭐︎」
紫苑はふすまに手をかけた。
「……てかさ⭐︎
久世家ってほんと、その髪型好きだよね⭐︎」
蒼嶺は肩につく髪を指で払った。
「君も昔はそうだっただろう」
「クソダサいからやめたんだっつの⭐︎」
それだけ言って、
紫苑は蒼嶺の部屋を後にした。
——久世家に利用されるのはもうたくさんだ。
僕のことも、狛のことも。
好きにやらせるわけがない。
「全部ひっくり返してあげる⭐︎」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:6月28日12時
第二百二十二話 別に




