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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百二十話 はじめての誕生日


 僕はケーキの箱を両手で持ったまま、

 篝くんと玄関へ向かった。

 

「篝くーん!」


 暖色のライトの下。

 光流くんが手を振っている。


 その隣で、奏さんが頭を下げた。


「篝くん。お久しぶりです」


「ふふ……。奏さん、元気だった?」


「あ……」


 僕は奏さんと篝くんを交互に見た。

 そう言えば、この二人が顔を合わせて話しているところを、これまで見たことがない。


「五年前の、御影家での特訓の日以来ですね」


 奏さんの言葉に、

 僕は無意識にポケットの中の紙を握りしめた。


 ——五年前。


「特訓って何ー?」


 光流くんが首を傾げる。


「三流派の子どもは、年に数回集められて腕試しをするんです」


「え、それ大会みたいな感じ?」


「……品定めですよ」


 奏さんの顔は、少しだけ苦しそうに見えた。


 篝くんが一歩前に出る。


「……あの時は、ごめんね。

 僕はとても不安定だったみたいで、

 正直あまり覚えていないんだけれど」


「いえ。御影家にも事情があったことはわかりますから」


 玄関に、しんみりとした雰囲気が流れる。


「……?」


 僕は篝くんの表情を伺った。


 彼が憂いを帯びているのはいつものことで、

 当然心のうちは読めない。


「お身体は大丈夫なのですか?」


「うん。最近涼しくなってきたからね」


 奏さんに、篝くんが微笑む。


「それに、ここ数年は安定してるんだ」


 静かに二人の話を聞く僕の向かい側で、

 光流くんの視線が何もない空間を左右になぞっている。


 少しだけ沈黙が流れた。


「ところで」


 篝くんが目を伏せる。


「先日、僕の屋敷が襲撃に遭った時、助けに来てくれてありがとう」


「……お互い様ですよ。

 本家が襲撃された日、篝くんが来てくれたと聞いています」


「ふふ……。

 三流派は、支え合うことになってるから」


「今は潰し合ってるみたいだけどね!」


 次の瞬間。

 

「いってぇ!!」


 麗子さんの怒鳴り声が聞こえた気がした。

 光流くんが両手で頭を抱える。


 まあ、しょうがないよな。


「……“御影と霧島は仲良くやってんだろ?”」


 光流くんは涙目になりながらも、僕に颯の通訳をしてくれる。


「それだけど。

 二つの家が近くなりすぎることは、良いことばかりではないんだ」


「え?」


「パワーバランスですよ」


 奏さんが補足した。


「三流派は一定の距離を保つことで、力の偏りを防いでいたんです。

 力は、争いを生みますから」


「だから本家に近い人間は、他流派と結婚もできないんだよ」


 篝くんのその言葉が、

 妙に胸の奥にひっかかった。


「それで、今日はどうしたの?

 光流くんも、麗子さんまで来てくれて」


「そうだった!!」


 光流くんが僕と奏さんに目配せする。


「せーの!……篝くん!!」


「お誕生日おめでとう」

「おめでとうございます」

「ハッピーバースデー!」


 ……祝いの言葉は、揃わなかった。


「光流くん、合わせてくださいよ」


「奏ちゃんこそ!そこはハッピーバースデーでしょ!?」


 言い合う二人の前で、

 篝くんはきょとんとしている。

 

 僕はケーキを篝くんへ向けて突き出した。


「十七歳。おめでとう」


「……ふふ」


 篝くんの表情が緩んだ。


「ありがとう。

 友達に祝って貰うのは、初めてだな」


「じゃあ……来年も祝うよ」

 

 僕も笑顔を見せた。


「ケーキ、後で一緒に食べよ!」


「うん」


 篝くんが笑う。


 その笑顔を見ても。


 ケーキの甘い匂いとは裏腹に、

 ポケットの中の新聞記事だけが重かった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月27日15時

第二百二十一話 久世本家

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