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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百十三話 君が選ぶなら


 ***


 Side:柊


 午後九時四十分。

 斎賀先生の車で、自宅へ帰った。


 先生の帰りの運転は、行きよりも少しだけ早かった。

 道が空いていたから……だけではない気がした。


「ただいま」


 靴を脱ぎ、リビングへ向かう。

 

 迎えてくれたのは父さんではなく、


「柊くん。おかえり」


 篝くんだった。

 ダイニングチェアに腰掛けた彼が微笑む。


「……父さんは?」


「今、お風呂に入ってるよ」


 良かった。

 “遅い”って、怒られると思ったから。


 それだけじゃない。


 僕が、本当の父親かもしれない人に会ったこと。

 父さんが知ったら、どんな気持ちになるのか。


 想像すると、

 顔を合わせるのが怖くなった。


「こんな時間までどこへ行ってたの?」


 篝くんは、自分のことは話さない。

 なのに僕のことは知りたがる。

 

 全部把握しておきたいみたいに。


「えっと……」


 だけど、

 僕が嘘をつく理由もない。


「……霧島本家に」


「そう」


 篝くんは驚かなかった。


「答えは、見つかった?」


「……っ」


 何で、そんな質問。


 僕は下唇を噛んだ。


「わからなかったよ」


 僕の答えに、

 篝くんが、ほっと息を吐いたように見えた。


 篝くんが空中に手をかざし、

 颯に霊力を付与してくれる。


 本当は何か知っているくせに。


 だけど篝くんは何も言わない。


 代わりに颯へ霊力を流すその姿が、

 何かを誤魔化しているように見えて、僕はお礼を言えなかった。


「……柊くん」


 篝くんが椅子から立ち上がった。


「昨日、僕に聞いたよね。

 “どうして封印がかけられているのか”って」


 一歩ずつ、

 僕の方へと近づいてくる。


「君は、どうしてだと思う?」


 ――封印をかけるのは……


「……僕が、いてはいけないから?」


 目線を上げて篝くんを見た。


「君らしい考えだね」


 伏し目がちな彼の瞳が、僕を捉える。


「人は――力を恐れて封じ込めるんだよ」


 力を、恐れる……?


 呼吸が勝手に浅くなった。


「もし、

 君が誰よりも強い力を持っていたらどうする?」


 そんな力が、あれば。

 

 ――颯を。


 いや。

 

「……みんなを守るために使うよ」


 静まり返ったリビングに、

 風呂場からシャワーの音が聞こえた。


「君なら、そう言うと思った」


 篝くんが小さく笑う。


「でもね、こんな子がいたんだ」


「……え?」


「生まれながらに、彼は強い力を持っていた」


 唐突に、篝くんが誰かの話を始めた。


「そのせいで、彼は常に狙われていた。

 彼の周りには利用しようとする者や、

 排除しようとする者が群がって、争いは絶えなかった」


 ――誰の話?


「安心できる時間なんてなかった。

 信じた相手さえ、いつ敵になるかわからなかった」


 父さんの、シャワーの音が止まる。


「それが、力を持つ人間の運命だよ」


「それって……」


「君も知ってるよ」


 篝くんが僕に背を向ける。


「とても強くて、とても孤独な子だ」


 篝くんは振り返らずに続けた。

 

「力があるのは良いこととは限らない」


 ドクン。


 心臓がひとつ、

 大きく跳ねた。


 篝くんの肩が揺れるのが見えて、

 颯が、何か言ったのだと思った。


「……そうだよね」


 篝くんが小さく笑う。


 颯が何を言ったのかはわからないけれど……。


「誰かを守るために使えば、きっと孤独じゃないよ」


 気づけば、そう口にしていた。


 君だってそうじゃないか。


 篝くん。


「やっぱり――

 君が選ぶなら、僕は信じることにしたよ」


 篝くんのその言葉に、

 身体の奥が熱くなるのを感じた。


「詠慈さんが何も言わなかったことにも、

 きっと理由はあると思う」


 篝くんが歩き出す。


「だから柊くん。

 もし答えを見つけても、自分を嫌いにならないで」


 そう言い残して、

 篝くんはリビングを後にした。

 

 残された僕は、その意味を考え続けていた。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月21日15時

第百十四話 焦燥

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