第二百十三話 君が選ぶなら
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Side:柊
午後九時四十分。
斎賀先生の車で、自宅へ帰った。
先生の帰りの運転は、行きよりも少しだけ早かった。
道が空いていたから……だけではない気がした。
「ただいま」
靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
迎えてくれたのは父さんではなく、
「柊くん。おかえり」
篝くんだった。
ダイニングチェアに腰掛けた彼が微笑む。
「……父さんは?」
「今、お風呂に入ってるよ」
良かった。
“遅い”って、怒られると思ったから。
それだけじゃない。
僕が、本当の父親かもしれない人に会ったこと。
父さんが知ったら、どんな気持ちになるのか。
想像すると、
顔を合わせるのが怖くなった。
「こんな時間までどこへ行ってたの?」
篝くんは、自分のことは話さない。
なのに僕のことは知りたがる。
全部把握しておきたいみたいに。
「えっと……」
だけど、
僕が嘘をつく理由もない。
「……霧島本家に」
「そう」
篝くんは驚かなかった。
「答えは、見つかった?」
「……っ」
何で、そんな質問。
僕は下唇を噛んだ。
「わからなかったよ」
僕の答えに、
篝くんが、ほっと息を吐いたように見えた。
篝くんが空中に手をかざし、
颯に霊力を付与してくれる。
本当は何か知っているくせに。
だけど篝くんは何も言わない。
代わりに颯へ霊力を流すその姿が、
何かを誤魔化しているように見えて、僕はお礼を言えなかった。
「……柊くん」
篝くんが椅子から立ち上がった。
「昨日、僕に聞いたよね。
“どうして封印がかけられているのか”って」
一歩ずつ、
僕の方へと近づいてくる。
「君は、どうしてだと思う?」
――封印をかけるのは……
「……僕が、いてはいけないから?」
目線を上げて篝くんを見た。
「君らしい考えだね」
伏し目がちな彼の瞳が、僕を捉える。
「人は――力を恐れて封じ込めるんだよ」
力を、恐れる……?
呼吸が勝手に浅くなった。
「もし、
君が誰よりも強い力を持っていたらどうする?」
そんな力が、あれば。
――颯を。
いや。
「……みんなを守るために使うよ」
静まり返ったリビングに、
風呂場からシャワーの音が聞こえた。
「君なら、そう言うと思った」
篝くんが小さく笑う。
「でもね、こんな子がいたんだ」
「……え?」
「生まれながらに、彼は強い力を持っていた」
唐突に、篝くんが誰かの話を始めた。
「そのせいで、彼は常に狙われていた。
彼の周りには利用しようとする者や、
排除しようとする者が群がって、争いは絶えなかった」
――誰の話?
「安心できる時間なんてなかった。
信じた相手さえ、いつ敵になるかわからなかった」
父さんの、シャワーの音が止まる。
「それが、力を持つ人間の運命だよ」
「それって……」
「君も知ってるよ」
篝くんが僕に背を向ける。
「とても強くて、とても孤独な子だ」
篝くんは振り返らずに続けた。
「力があるのは良いこととは限らない」
ドクン。
心臓がひとつ、
大きく跳ねた。
篝くんの肩が揺れるのが見えて、
颯が、何か言ったのだと思った。
「……そうだよね」
篝くんが小さく笑う。
颯が何を言ったのかはわからないけれど……。
「誰かを守るために使えば、きっと孤独じゃないよ」
気づけば、そう口にしていた。
君だってそうじゃないか。
篝くん。
「やっぱり――
君が選ぶなら、僕は信じることにしたよ」
篝くんのその言葉に、
身体の奥が熱くなるのを感じた。
「詠慈さんが何も言わなかったことにも、
きっと理由はあると思う」
篝くんが歩き出す。
「だから柊くん。
もし答えを見つけても、自分を嫌いにならないで」
そう言い残して、
篝くんはリビングを後にした。
残された僕は、その意味を考え続けていた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:6月21日15時
第百十四話 焦燥




