表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
233/240

第二百十話 門前


 ***


 Side:柊


 籠屋市の南に位置する、智多(ちた)市。

 海を見下ろす山の中腹に、霧島本家はあった。


「……随分と時間がかかってしまいましたね」


 腕時計を見ながら、奏さんが呟いた。


 瑞峰学園からは車で一時間ほど。

 だが、先生の運転は今日に限って異様に慎重で――

 気付けば二時間近く経っていた。


 辺りは、すっかり暗くなっている。


「……帰宅ラッシュでしたからね」


「それだけじゃないと思うんだけど〜」


 先生の言葉に、光流くんが苦笑いしていた。


「……ありがとうございました」


 お礼を言って、僕は車から降りた。

 続いて奏さんと光流くんが降りると、


「あっちに車を停めて来ますね」


 先生の車は駐車場へ向かった。


 ――霧島本家。


 黒塗りの塀が、どこまでも続いていた。


「……でか」


 思わず声が漏れる。


 僕はそびえ立つ数奇屋門を見上げた。

 橙色の照明が、やけに眩しい。


 奏さんが僕を見た。

 

「柊くん。

 約束なしで詠慈様に会うのは、難しいかもしれません」

 

「……うん」


 わかってる。

 それでも、お願いして連れて来てもらった。


「すげー!映画みてぇ!」


 光流くんが戸の隙間から中を覗いていた。


「……いてっ!」


 あ。

 今、麗子さん……光流くんの頭を叩いたな。


 光流くんは手で頭を押さえながら、

 もう片方の手で門の内側を指差した。


「ね、奏ちゃん。

 ここって、最近火事あった?」


「火事?」


 光流くんの言葉を繰り返す。

  

 言われてみれば……。

 

 戸の隙間から、

 黒く焼け焦げた木の幹がちらりと見えていた。


「……篝くんですよ」


 ――篝くん?


 奏さんも、門の内側を見ながら話した。


「小須商店街の事件の日です」


「あ……」


 二ヶ月前――六月二十日。

 小須商店街での騒動。

 

 その裏で、

 霧島家が常夜の襲撃を受けた、あの日。


「篝くんが霧島家の援護に来てくれていたんです」


 庭を渡る潮風が、焼け跡を撫でる。

 

 傷跡は消えかけていた。


 けれど。


 完全には消えていない。


 あの日ここで戦った者たちの痕跡だけが、

 静かに残されていた。


 ――篝くん。

 君はいつも、見えないところで戦ってくれている。


「確か、紫苑さんが篝くんに連絡してたんだっけ?」


 光流くんは耳元のピアスをいじりながら尋ねた。


「今更だけど、紫苑さんと篝くんって仲良いの?」


「……良くないですよ」


 奏さんは苦笑した。


「子どもの頃から犬猿の仲です。

 まあ……

 紫苑さんは篝くんが妬ましかったのかもしれませんが」


 あの紫苑さんが。

 篝くんを?

 

 僕の隣で、

 颯が険しい顔をしている……気がした。


 僕たちがそんな話をしていると、


「お待たせしました」


 斎賀先生が歩いて来た。

 

 重々しい顔つき。

 先生だけは霧島家に行くことに乗り気ではなかった。


 名家に、夜分に。

 しかもアポ無しで僕たちを連れて行くのだから、当然なのかもしれないけれど。


 先生はため息を漏らした後、

 インターホンに指を伸ばした。


 高級そうな音が鳴る。


 僕はごくりと唾を飲み込んだ。

 

 呼吸が早くなる。


 本当に会えたら、僕は何を聞くんだろう。


 どうして僕たちを置いて行ったのか。


 どうして僕に封印をかけたのか。


 本当に、

 父親なのか。


『……はい』


 インターホンから、年配の女性の声が聞こえた。


「夜分にすみません。斎賀蓮太郎です。

 詠慈様にお話があって来ました」


 先生の緊張した声に、

 僕も身体に力が入った。


『……蓮太郎様ですね。

 本日、詠慈様とのお約束は無かったと思いますが。

 急ぎのご用件でしょうか』


 先生が僕たちを見る。

 僕は訴えるように、視線を送った。


「まあ……そうですね……」


『詠慈様は外出中でございますので、言伝がありましたら承ります』


「中で、待たせて頂くことはできますか?」


『申し訳ございません。

 現在、本家は少々立て込んでおりまして』


 インターホンの向こう側から、


『響様のお薬は?』


『お休みになられました』


 そんな慌ただしい声が、かすかに聞こえた。


「すみません!霧島奏です!」


 奏さんがインターホンの前に出る。


「響は、帰ってきているのですか!?」


『申し訳ございませんが、お答えいたしかねます。

 見たところ、そちらには霧島家と関係のない方もおられるようですし』

 

「彼らは私の友人です!信頼できます!」


『本日はお引き取りください』


 やっぱり、だめか。

 

 僕は肩を落とした。

 

『詠慈様に、蓮太郎様と奏様がお見えになられたことはお伝えしておきます。では、失礼致します』


 通話は途切れた。


 先生が振り向く。


「今日は、諦めようか」


 ――会えなかった。


 ……少しだけほっとしてしまった。


 みんなの視線が光流くんの斜め上へ向いた。

 麗子さんが、何か話しているのだとわかった。


「……麗子さん。それはいけません。

 それに霧島家の人間は、全員見える人ですから」


 先生がたしなめる。


「最悪、封印されますよ」


 光流くんが斜め上を指差しながら僕を見た。


「麗子が不法侵入しようとしてた」


「……うん。なんとなくわかった」


 力ずくでも、何ともならない。

 

 重い空気が漂った。


 その時――


「お父様!」


 屋敷の反対側。

 幼い声が響いた。


 僕たちが車で登って来た山道から、

 軽快な足音が近づいてくる。


「お客様がお見えになられていますよ!」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月20日12時

第二百十一話 父と子

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ