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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百五話 ここにいる


 白い病室に一人きりになる。


 いや、一人じゃない。

 見えないけれど、颯もいる。


「……颯」


 やっぱり、返事は聞こえない。

 代わりに――


 コンコン!


 窓が叩かれた。

 視線を向ける。


「そこに、いるんだよね」


 また、窓が鳴る。


 ――そうだ。


 僕は枕元のスマホへ手を伸ばした。

 今なら……!


 手にした瞬間、スマホの画面に文字が見えた。


 【着信一件 斎賀先生】


「えっ!?」


 慌てて発信ボタンをタップした。

 数回の発信音の後、電話が繋がる。


「柊くん!?無事!?」


「はい。……身体は」


「“身体は”?」


 僕は下唇を噛み締めた。


「……颯が……見えなくなりました」


 言葉にすると、余計に実感してしまう。


「見えない!?何があったの!?」


「白いお面をした男に、何かされて……」


「白い、お面……?」


 電話の向こうで、

 斎賀先生が小さく息を吐いた。


「……そうか」


「何か知ってるんですか!?」


「……あくまで僕の推測ですが」


 先生の声が低くなる。

 

「君たちが出会った男は、霧島家の人間かもしれません」


「……霧島家……?」


 常夜でも、久世家でもない。

 ――何故?


「明日、直接話しましょう。

 見て確かめたいこともありますし。

 僕は明日仕事で夕方まで動けませんから、五時頃迎えに行きます」


 ……夕方?


「河川敷なら、迎えがなくても行けます」


 数秒の沈黙。


「ダメです」


 先生はきっぱりと言い切った。

 

「何かあっても、今の柊くんにはどうにもできないでしょう?」


「そんなことは……!」


 言いかけて、僕は唇を閉じた。

 

 今の僕は多分、

 颯が見えないだけじゃない。


 霊力も使えない。

 共霊もできない。


 そんな僕に、何ができる?


「それに、忘れてませんよね?

 前に居酒屋で光流くんが話したこと」


 ――『颯の本体を狙われたら終わりだからね。

 “どこにでもいる下級霊”に見せかけといた方がいい』


 一瞬、息が止まった。


「とにかく、今は誰かと行動するように。

 二人のためにね」


 僕自身だけじゃない。

 

 僕といることで、

 颯も危険な目に遭うかもしれない。


「……はい」


「しっかり休んで下さい。また明日」


 電話が切れる。

 僕は耳元からスマホを離した。


 病室が静かになる。


 コンコン!


 窓を叩く音。


 そうだ、颯。


 僕は窓の方へスマホを差し出した。


「これ使って!」


 スマホが、

 ふわりと僕の手から離れた。


 画面をタップする音が響く。


 スマホの画面が、僕の方を向いた。


 メモ画面に記された文字を見て、

 僕は固まった。


 【大丈夫】


 【俺、ここにいるから】


 目の前が、滲んでいく。


 ――『いなくなんねぇよ』


 聞こえないのに、

 颯の声が届いた気がした。


「……そうだよね」


 僕は目元を乱暴に拭った。

 

 颯は見えない。


 だけど、

 いなくなったわけじゃない。


 だから。


「必ず、君を取り戻すよ」


 誰にも奪わせない。


 絶対に。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月15日21時

第二百六話 封印

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