表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
226/239

第二百三話 終幕の花火


 ***


 臨海公園の奥。

 ミラが作った花園の内側。

 

 不気味に咲き乱れる真紅の薔薇に囲まれて、

 響と桃華は戦意を喪失していた。


 奏は蔦に絡め取られたまま――気絶している。


「……はぁ……はぁ……」

 

 荒く息を吐く桃華の腕の中、

 暮羽もまた、意識を失っていた。


「終わりじゃな」


 ミラが腕を組んで顎を上げた。


 その時。


 ……パリンッ。


 微かに聞こえた――結界が破れる音。

 

 花園の中では、誰も動いていない。


 ミラは眉間に皺を寄せた。


「……誰じゃ」


 ズバァッ!!


 青白い光が瞬き、

 花園に穴が開いた。


 その空洞から、

 鈴の音が響く。


 現れたのは、

 白い着物を纏った半面の男。


「ここまで、よく耐えたね」


 懐かしくて、優しい声。


「……っ詠慈様!!」


 響は声を絞り出して叫んだ。


「あとは僕に任せて」


 ミラの目が細くなる。


「なんじゃ。詠慈か。

 でかくなったもんじゃな」


「貴女はお変わりないですね。琴子様」


 詠慈は小さく息を吐いた。


「僕だけが歳を取ったようだ」


 指の間にお札を挟み、

 詠慈が右手を伸ばす。


「常に霊を縛りつけたままだなんて、

 随分と傲慢な生き方をしていらっしゃる」


「それは褒め言葉か?」


 ミラの足元から蔦が伸びた。


「さあ、どうでしょうね」


 空気が張り詰める。

 薔薇の花弁が、はらりと落ちた。


「死にたがりめ」


 ミラが掌を詠慈へかざした、次の瞬間。


 ……ウウウー!!


 遠くでパトカーのサイレンが鳴った。


「……やれやれ」


 ミラは舌打ちすると、目を細めて詠慈を見た。

 

「霊力だけは外へ漏れぬようにしておいたというのに、

 台無しじゃ」


「霊力隠しの結界ですか。さすがですね」


「お主が結界を壊したせいで、犬も猫も寄って来よるわ」


 サイレンの音が近づいてくる。


「まあ良い。どうせ――」


 ズズ……。


 蔦が地面へと戻る。


「所詮、お主らはこの程度じゃ」


 ミラは桃華たちを見下ろすと、

 ハッ、と嘲笑った。

 

「桃色を恐れておったが、杞憂じゃったな」


 花園がゆっくりと動き、

 天井が解けて夜空が顔を出した。

 

「……懸命なご判断です」


「勘違いするなよ、詠慈」


 ミラは踵を返した。


「お主ひとり、どうとでもなる」


 カツン……カツン……。


 ヒールの音が遠ざかっていく。


「今はその時ではないだけじゃ」


 詠慈は答えなかった。

 ただ、指の間のお札だけが静かに揺れた。


 詠慈はお札を胸元に納めると、

 代わりに小刀を取り出した。


 ミラが暗闇へ去っていく背後、

 詠慈は響へ歩み寄る。


「……貴女こそ、ご覚悟を」


 去っていくミラの背へ告げる。


 詠慈は小刀に霊力を灯し、

 響を拘束する蔦を切り裂いた。


 解放された響の身体を支えながら、

 ミラの背中を真っ直ぐに捉える。


「霧島の罪は、霧島が贖います」


 ドンッッ!!


 最後の大輪が夜空に咲く。


 その後、

 花火の音は聞こえなくなった。


 ***


 同時刻。籠屋市内。

 もう使われなくなった町工場。


 木の梯子に、伊吹は腰掛けていた。


「……」


 膝を抱え、

 港から聞こえてくる花火の音に耳を傾ける。


 ……ガタッ。


 工場の入口、

 鉄製の引き戸が動いた。


「……!」


 伊吹が顔を上げて見ると――。


「……また、来てたんですか」


「狠ちゃん」


「何度来たって同じですよ」


 狛の弟――狠は、

 動きを止めた工作機械へ歩み寄った。


「お話しできることはありません」


 伊吹に背を向け、

 機械の近くでしゃがみ込む。


「……無理に話させるつもりはないよ」


 伊吹の声は、

 いつもと違う静かさだった。


「ただ――

 ボクは、隠す方の辛さもわかるから」


 ――狠ちゃん。

 

 ボクが救いたいのは、

 狛くんだけじゃないんだよ。


 カチャン……。


 狠の手元から、

 金属が擦れる音がした。


 伊吹は椅子から立ち上がった。

 無理やり笑顔を作って見せる。

 

「今日はさ!花火に誘いに来たんだ!」


 狠は振り返らずに言った。


「……興味ないですよ」


「そっか。残念だな……」


 沈黙が流れた。


「じゃあ、ボクは行くね」

 

 狠は何も言わなかった。


「……でもさ」


 出口へと歩き出した、

 伊吹の足が止まる。


「九月四日――

 柊くんたちの学園祭は、一緒に行こうね」


 ――夏が終われば、

 何かが変わる気がしていた。


「前から、約束してたでしょ?」


 伊吹は、開けっ放しの引き戸を通り抜けた。


 カチャン。


 背後で、

 工具の音が一度だけ止まった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月14日12時

第二百四話 空白

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ