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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第二百一話 終わりの花園


 暮羽の身体が、桃色の霊力に包まれる。


「……うっ……」


 暮羽が小さく声を漏らした。

 

「暮羽!!」


 出血の量が多い。

 ――暮羽は、戦わせられない。

 

「やりおったな……」

 

 赤い霊力が揺れる。


「許されると思うなよ」


 低い声が落ちた。


 響がコードを握り締める。


「お前ごときが、わしに敵うと思うなよ」


 ミラの真っ暗な瞳は、響を捉えていた。


「そうね。でも前の私じゃないわ」


 響と奏の目が合う。


「もう、一人じゃないから」


 響の言葉に応えるように、

 奏は撥を振り上げた。


「一人も二人も変わらんわ!」


 グワァッ!!


 蔦の群れが牙を剥く。


「行くよ!奏!!」


 響が駆け出した。

 同時に三味線の音が鳴る。


 ズバッ!ズバッ!!


 全ての蔦は切れない。

 だけど数が減れば避けられる。


 迫り来る蔦の間を、

 響は縫うように走った。


「……っ!」


 蔦が響の頰を掠める。

 血が滲む。

 それでも――足は止めない。


「調子に乗るなよ!!」


 ブワァッ!!


 ミラの足元から生えた蔦が絡まり合い、

 一本の大きな蔦を作った。


 巨大な蔦が響へ向かう。


 カンッ!カァン!!


 奏の音が弾かれる。

 響は目を細めた。


「二人じゃないわよ」


 ――キラリ。


 上空に光が瞬き、

 高速で落ちた。


彗星(コメット)


 ドゴォッ!!


 一際大きな宝石が、ミラへ直撃する。


 ミラの身体がわずかによろめき、

 響を狙う蔦の軌道がずれた。


「残念……三人よ」


 後方――ショベルカーの上。

 桃華は片腕で暮羽を抱きながら、

 もう片方の掌をかざしていた。


 その隙――


 シュルッ!!


 響のコードが、ミラへ巻き付く。


「……ちっ!」


 ミラが舌打ちした。

 

 次の瞬間。


「――響奏!!」


 ベベンッッ!!


 奏の音が響いた。


「響けぇ!!」

 

 響のコードを伝い――

 ミラの、心臓まで。


 音が轟く。


 ミラを纏う赤い光ごと、

 青白い光が飲み込んだ。


「……く……っ」


 ミラは表情を歪ませた。


「……っ」


 奏の額から汗が落ちる。

 ――残りが少ない。


 お願い。

 これで倒れて……!


 ザアァ。


 ぬるい風が雑木林を揺らし、

 ミラの膝が動くのが見えた。


 ――しかし。


 シュッ!!


「……あっ!?」


 伸びた蔦が響を拘束した。


「……ぬるい」


 ミラは、

 もう真っ直ぐ立っていた。


 ギチィ……。


 蔦が締まり、

 響の身体に棘が食い込む。


「響!!」


 奏が叫ぶ。

 また撥を掲げようとするが――


「ああっ!」


 シュルッ!!


 地面から蔦が伸び、奏も捕えられる。


「雑魚はいつでもやれる」


 掌をかざすミラの背後で、

 蔦の群れがゆらめいた。


「だが――」


 シュッ!!


 蔦の群れが一直線に伸びる。


「お主は別じゃ」

 

 狙いは、桃華。


「封印が無理なら、ここで消す」


 速い。

 攻撃が、間に合わない。


 桃華が目を瞑った。


 その時。


「……桃華様……!!」


 絞り出すような声が、

 桃華の耳に届いた。


 ビュンッ!!


 線状の光が飛ぶ。


 それは桃華へ伸びた蔦を切り裂き、

 ミラの頬をかすって雑木林の奥へ消えた。


 飛んだのは――

 暮羽の刀だった。


「……窮鼠猫を噛む、とな」


 ぽたりと、ミラの足元へ血が落ちる。


「……ほう?」


 ミラは頰の血を舐めとった。


「わしが血を流したのは、久しぶりじゃな」


「暮羽!!何してるのよ!!」


 桃華は急いで暮羽に掌を当てる。

 桃色の光が暮羽へ流れ込んだ。


「無茶しすぎよ!」

 

 桃華の腕の中、

 暮羽の力が抜けていく。


「しっかりなさい!!」

 

 ――カツン。


 ヒールの音は、容赦なく響く。

 

 まるで、

 終わりを知らせるかのように。


「花園」


 ブワァッ!!


 地面から無数の蔦が這い出した。

 蔦は絡み合いながら天へ向かって伸びる。

 

 足元を埋め尽くし、

 ショベルカーを取り囲み、

 やがて空まで覆っていく。

 

 見上げれば――


 天井のように絡み合った蔦一面に、

 真紅の薔薇が咲いていた。


 花弁は飛ばない。

 きつい香りだけが内側へ淀んでいく。


 桃華の背筋に寒気が走る。


「吸っちゃダメよ!!」


 奏は咄嗟に鼻を押さえた。


「……この匂い……」


 響の指先から、

 コードが滑り落ちた。


「……え?」


 握れない。

 力が入らない。


「毒じゃ。棘からよりも早く効く」

 

 喉が詰まって、息が吸えない。


「……っ……」


 奏の指の間からも、撥が落ちた。


「……まずいわ」


 桃華の掌から、

 暮羽へ流れる桃色が薄れていく。

 ――足りない。


「回廊は遊び。こっちが本命じゃ」


 薔薇の香りが、

 さらに濃くなった。


「一つ、良いことを教えてやろう」


 響の視界が霞む。


 奏も暮羽も、動けない。

 桃華の霊力も底が見えていた。


 誰一人、立ち上がれない。


 ――勝てないんじゃない。


 もう、戦えない。


 ミラはゆっくりと四人を見渡した。


「力だけなら、

 常夜で一番強いのはわしじゃ」


 ミラが笑った。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:6月13日12時

第二百二話 同じ願い

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