第二百話 私の意思で
「霊奏」
ベベベンッ!!
三味線の音が暗闇を裂いた。
青白い音の刃が、ミラへ向かって飛ぶ。
「……何じゃ?」
蔦がミラを守るように動いた。
カンッ!カンッ!!
蔦に弾かれる。
しかし――
ベンッ!
ベベンッ!!
音の追撃。
「……ちっ」
ミラが手元の蔦に意識を向けた、その隙。
ズバッ!!
黒いコードが、暮羽の背に刺さった蔦を切り裂いた。
「……暮羽!!」
倒れ込む暮羽を、
桃華が支えるように抱きしめる。
音の刃を弾くと、ミラは眉を寄せた。
「――まさか」
立ち入り禁止のフェンスの向こうから、
二つの影が姿を現す。
響――その隣に、奏。
二人は、
しっかりと手を取り合っていた。
「霧島の罪は、私たちが終わらせる」
響の声が、低く落ちた。
「……お主」
ミラは目を細めて響を見た。
「何故、共霊が解けておる?」
「私の身体は、私のものだからよ」
響と奏の手が、離れる。
響はショベルカーへ向かって歩き出した。
「一体何の真似じゃ?寝返ったとでも言うのか?」
「ええ。私は霧島に戻るわ」
ミラは鼻で笑った。
「馬鹿げたことを!戻れるわけなかろう!」
「戻れます」
答えたのは、奏だった。
「響は、あなたとは違いますから」
その真っ直ぐな声に、
ミラの指先が、ぴくりと動いた。
「霧島琴子……以前、私に聞いたわよね?
“何のために強くなるのか”って」
響がショベルカーに足をかける。
その上で、桃華と暮羽はぐったりとしていた。
「思い出したの。
私が強くなるのは、守るためだったって」
――壊すためなんかじゃなかった。
「はっ!霧島にいては強くなれんぞ!
じきに久世に潰される!」
「強いわ」
響はショベルカーの上に飛び乗った。
「霧島の女は強い。
奏が、私に教えてくれたの」
――久世にも、誰にも潰されない。
霧島の未来は、明るいのよ。
「……それに」
響はミラを見た。
「あんたも、霧島の女でしょ?」
響の人差し指が伸びる。
――桃華の背中へ。
「常夜にいる間、散々あんたにこき使われたからね」
ミラの瞳が見開かれた。
「まさか……!」
響の指先が、紋様を描く。
「おかげで、ずっと近くで見ていられたのよ。
封印術も、その解き方も」
ミラの顔つきが変わった。
「おい……やめろ」
「あんたが言った“特別”って、
使い潰す駒としてって意味だったのよね」
戒も、白寧も。
利用できなくなった途端に捨てられた。
「次は私だったんでしょ?」
それが、
あんたの言う“強さ”なら、私はいらない。
「やめんか!!」
ブワァッ!!
蔦が何本も飛び出す。
しかし、
「霊奏」
ベェンッ!!
奏の音がそれを叩き落とした。
「……霊力、乱れてますよ」
「小娘が!!」
響の指が離れる。
次の瞬間――
紋様が光を帯びて浮かび上がった。
「霧島琴子。
私を強くしてくれて、ありがとう」
バチィッッ!!
霊力が弾け、
桃華の力が解放された。
ブワァァァッ!!
桃色の霊力が溢れ出す。
白む視界の中、
桃華がゆっくりと立ち上がった。
桃色の髪が風に靡く。
「どこの誰だか知らないけれど……
お礼は後で言うわ。
まずはあの女を止めましょう」
ショベルカーの下では、
「響!!」
奏が笑っていた。
その笑顔を見て、響はふっと息を吐く。
選ばれたい。
強くなりたい。
守りたい。
全部欲しい。
「……私は貪欲なの」
響は奏に微笑み返した。
一人で届かないなら、
誰かと一緒に手を伸ばせば良い。
選ぶのは、もう私だ。
これからは、私の意思で。
港の空では、
花火がラストスパートに入っていた。
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※次回更新:6月12日21時
第二百一話 終わりの花園




