第百九十七話 失う予感
***
高く積み上がったコンテナの裏。
暮羽は鞘に手を添えたまま、立ち尽くしていた。
コンテナの向こう。
光の粒が降り注ぐ中、
奏と響が抱き合っている。
暮羽は小さく笑った。
「……どうやら、私が出る幕はなかったようですね」
――響は戻った。
奏の思いが、響を救ったのだ。
「……約束、ですか」
暮羽は空を見上げた。
港の空を、花火が美しく彩る。
――『あなたは、私と一緒に来なさい』
幼い日の記憶が、思い出された。
胸の中が温かさで満たされていく。
しかし――
ビリッッ!!
ほんの一瞬、
禍々しい霊気が背筋を撫でた。
おかしい。
霊害は、二人が祓ったはずなのに。
霊力を感じたのは――臨海公園の奥。
コンテナヤードの真逆だ。
「……まさか」
――響をおとりに、奏様と私を釣った……!?
だとすれば……!
暮羽は走った。
「桃華様!!」
***
Side:柊
ドンッ!
ドンッッ!!
花火はもう、始まっていた。
「……おかしいな」
僕はスマホを睨みながら歩いていた。
「柊!」
光流くんに手を引かれた。
前から来た子供たちが、笑いながら僕の横を走り抜けていく。
「歩きスマホ危ないよ〜?」
「ごめん……。
でも、既読にならないんだ」
「奏か?」
「電話も出ないし……」
「花火見てんじゃねーの?」
颯は軽々しく言うけれど、
嫌な予感がおさまらない。
……さっき、三味線の音も聞こえた気がした。
「別れたの、この辺りだったよね?」
光流くんが前方を指す。
「……うん」
やっぱり、ここにもいない。
奏さんも、桃華さんと暮羽さんも。
「桃華も暮羽も繋がんねーの?」
「……番号知らない」
颯が眉を寄せる。
「はぁ〜?光流も?」
「桃華ちゃんに番号聞くって発想がなかったわ!」
光流くんはそう言って肩をすくめた。
「……あれ?」
地面に転がったベビーカステラが見えた。
人に踏まれて、ぐしゃぐしゃになっている。
「あー!もったいな〜!」
光流くんが駆け寄って袋を拾い上げた。
「……これってさ」
僕たちは顔を見合わせた。
「奏ちゃんたちが買いに行った店のじゃない?」
誰かが落としただけかもしれない。
だけど――。
ビリッッ!!
凄まじい霊圧に、肌が粟立った。
左右を見渡す。
――もう、消えた。
「……柊、今……」
光流くんの表情が変わっていた。
「うん。……隠れた」
人が多すぎて、
僕の力じゃ霊力を探れない。
一体、どこへ……!?
「探そう!」
「俺は埠頭の方行くわ!」
「わかった!何かわかったら連絡して!行こう、颯!」
僕は臨海公園の奥へ向かった。
――間に合ってくれ。
人々が空を見上げる中、
僕は真っ直ぐ前だけを見て走った。
この夜――
僕はまた、大切な人を失いかけることになる。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:6月9日21時
第百九十八話 譲れないもの




