百九十話 Episode:響【約束】
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Side:響
私は、暗闇に閉じ込められていた。
寒い。
音が、何も聞こえない。
逃げ出したいのに、少しも動けない。
……どうして、こうなった?
いや、本当はわかってる。
私が――選択を誤ったからだ。
じゃあ、どうしろっていうの?
――『後継者は、和音に決まった』
……っ。
ベェンッ!!
暗闇の中、奏の三味線が聞こえた。
澄んだ音色。
力強いのに、真っ直ぐで優しい。
――『約束だよ』
幼い日の、記憶が蘇る。
奏。
あんた、強くなったね。
あの約束、
ずっと守ってくれてたんだ。
*
十七年前。
私は、霧島本家に産まれた。
私の母は、先代の次女だった。
長女は早くに結婚して霧島を出ている。
母が養子を取って本家に残ったのは、
“自分の子供を当主にする”という、
望みを捨てられなかったからだろう。
先代の末っ子――
現当主の詠慈様には、結婚の気配すらなかった。
「響。あなたは霧島家の当主になるのよ」
幼い頃から、母にそう言い聞かされて育った。
「はい」
だから、私が選ばれるのだと疑わなかった。
歳を重ねて行くうちに、
霧島家がどんな家なのか、少しずつわかってきた。
七歳の頃だった。
母に連れられて、霧島分家の訓練場に向かっていた。
腰まで伸びた黒髪を揺らしながら歩いた。
……子供の頃は、長い方が好きだったのだ。
「どうして、本家の訓練場を使ってはいけないのですか?」
私の手をとる、母の顔を見上げて尋ねた。
「私がまだ、子どもだからですか?」
「違うのよ、響。
霧島家はね……ちょっとだけ、女には厳しいの」
「……女だから、使えないということですか?」
「そうね。でも大丈夫。
本家の子供は、あなたしかいないんだから」
母はそう言って、私の頭を撫でた。
「ちゃんと、あなたは後継者に選ばれる。
だからそれまで、ここでしっかり訓練するのよ」
その言葉は、
まるで母自身に言い聞かせているみたいだった。
私は、霧島家の当主になる。
誰より強く、
誰より霧島らしく、いなければ。
*
霧島分家。
そこには、私と一つ違いの女の子がいた。
「はじめまして!私は、かなでです!」
屈託のない笑顔。
明るい子だと思った。
「ひびきお姉さんも、いっしょに遊びませんか?」
「……遊ばない。訓練するから」
「えぇ〜!」
奏は、自由そうだった。
私と違って。
私には、訓練する以外の時間なんてなかった。
遊ぶ時間も。
友達も。
シュッ!
お札に霊力を流し、的に向かって放つ。
霧島家の伝統的な練習方法だ。
「すごい!
お姉さん、もうそんなことができるんですか!?」
私が練習する姿を、奏はいつも見に来ていた。
「……奏はできないの?」
「私は、これくらいしかできません」
奏は指先に、ぽうっと青白い光を灯した。
弱々しい光だった。
「……そうなんだ」
歳は一つしか違わないのに、
私と奏の実力には大きな差があった。
だから気づいてしまった。
この子は、私みたいに
“強くなれ”とは言われていないんだ。
なのに、笑ってた。
「奏は、祓い師にならないの?」
「なります!!」
奏の答えに迷いはなかった。
「はらい師になって、たくさんの人を助けます!!」
――痛いくらいに、眩しい。
私は、奏の手を取った。
「じゃあ、もっと練習しないとね」
奏、私ね。
本当は、ずっと不安だったの。
だから。
「私が教えてあげる。一緒に強くなろう」
女だからって、
“無理だ”って顔をされるのが怖かった。
あなたがいれば、
一人じゃなくなれる気がした。
「霧島は、女も強いんだって、みんなに見せつけるの!
それで、人も霊も、二人でたくさん助けよう!」
「はい!!」
「――約束だよ」
私は、奏に小指を差し出した。
奏はすぐに小指を絡めた。
「約束です!!」
でも、その約束は。
初めて本家の訓練場に立った日、
簡単に踏みにじられた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:6月5日21時
第百九十一話 Episode:響【現実】




