第百八十五話 灯の下の再会
埠頭へ続く臨海公園。
人の数は、駅前よりさらに増えていた。
潮風に混ざって、ソースの匂いが流れてくる。
「うわ、すげぇ匂い」
「腹減った〜!屋台制覇しよーぜ!」
光流くんが跳ねるように僕たちの前を歩く。
「……こんな普通に楽しんでて良いのかな」
「それくらい良いだろ」
戸惑う僕に、颯がそっけなく返した。
「うぇーい!何からいく!?」
「……あ」
――『美味しいね』
ふと、焼きそばの屋台が目に止まり、
篝くんの笑顔が脳裏に浮かんだ。
「篝くんも、来れたら良かったね」
「暑さと人混みでぶっ倒れるんじゃねぇの?」
……それもそうか。
僕は眉を寄せた。
ふわっと、甘く香ばしい匂いが僕たちの鼻を掠めた。
桃華さんが奏さんに尋ねる。
「この甘ったるい匂いは何?」
「ベビーカステラでしょうか」
「何よそれ?」
「焼き菓子ですよ。買いに行きますか?」
「柊!」
光流くんが僕の腕を掴んだ。
「射的あるよ!やろー!!」
「お!Switch2あんじゃん!」
颯も乗り気だ。
光流くんに腕を引かれながら奏さんを見ると、
奏さんは掌を上に向けて差し出した。
「良いですよ。あとで合流しましょう」
「……うん」
「奏!早く行くわよ!」
桃華さんが奏さんを急かした。
……少しくらい、離れても大丈夫だろう。
「また、あとで!」
人だかりの騒々しさの中、僕は奏さんに向かって叫んだ。
奏さんが僕に応えるように小さく手を振る。
陽はようやく傾き、
祭りの灯りが少しずつ目立ち始めていた。
*
パンッ!
射的の軽い銃声が鳴り響く。
見事、コルクがSwitch2の箱の真ん中に当たった。
「いぇーい!Switch2ゲット〜!」
光流くんが目の横でピースサインする。
折り畳み椅子に腰掛けた店主が鼻で笑った。
「姉ちゃん。残念だけど倒れなきゃハズレだよ」
「は!?真ん中当たったけど!?」
光流くんが景品を指差して叫んだ。
こういうのって、確か……。
「ダメダメ」
店主の言葉に、光流くんと颯が視線を合わせた。
「おい、颯」
「おう」
颯が素早く景品の裏側に回った。
「やっぱな!重しガンガンつけてやがる!!
おい!セコいことすんなジジイ!」
颯が店主の後ろで怒鳴る。
店主は何事もなかったように鼻をほじった。
「光流くん、もうやめよ」
僕は光流くんの肩に手を置いた。
しかし、
「甘いな柊。目には目を、だよ」
光流くんは悪い顔をしていた。
手元のコルクに青白い光が灯る。
「いやいや!!」
流石にインチキでは!?
僕が止めようとした、その時――
「熱くなりすぎ」
光流くんの銃に、白い手が添えられた。
「えっ?」
「霊能力者って、いつもこんなことしてるの?」
薄いピンクの、朝顔柄の浴衣。
ハーフアップにされた水色の髪。
光流くんが声を上げた。
「ハルちゃん!?」
「声でかい……」
ハルさんが片耳を手で押さえる。
「晴信くん。お祭り、来てたんだ」
「その名前で呼ぶのやめてくれるかな?」
「あ……ごめん。ハルさん」
「何だそれ。本名だろ」
颯が呆れたように言った。
その隣で、光流くんが笑う。
「よく俺だってわかったね〜!」
「骨格が明らかに男だもん」
「ハルちゃーん!知り会いー!?」
甲高い声がハルちゃんを呼んだ。
通りの向こうを向くと、女の子の集団……
その中にひとつ、見覚えのある顔が見えた。
確かメイドカフェで会った、あの子。
「あ!みゅあちゃーん!久しぶり!」
光流くんが女の子に手を振る。
そうだ。みゅあさん。
「え?誰?」
返ってきたのは、
あの時みたいな猫撫で声じゃなかった。
……使い分けてるんだ。
ハルちゃんが集団に向かって叫ぶ。
「先行ってて〜!」
「ハルちゃん、
店辞めてもバイトの子たちと仲良いんだね〜」
光流くんが片手で銃を構えながら尋ねた。
「あれ、同じ専門の子たち。みゅあもそう」
パンッ、パンッ。
光流くんが残りの弾を適当に打つ。
その一つが当たって、小さなクマのぬいぐるみが倒れた。
さっきのSwitch2と違って、あっさりと。
「美容専門だし。私の格好も、別に珍しがれない」
「そうなんだ」
気だるげに、店主が当たりのハンドベルを鳴らした。
「今日パパは?いないの?」
「麗子は来てないね〜」
光流くんは店主からぬいぐるみを受け取ると、
ハルさんへ差し出した。
「あげる♡」
「……ありがと」
ハルさんの手へぬいぐるみが渡ると、
光流くんは意地悪く口の端を上げた。
「貰ったね?」
「え?」
「ちょっとお話しようよ」
光流くんの目が、笑っていない。
僕は颯と顔を見合わせた。
……きっと、知りたがってる。
景品のクマの黒い瞳が、光流くんを映していた。
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※次回更新:5月31日15時
第百八十六話 楽しそうな顔




