表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
206/239

第百八十三話 港の空


 ***


 Side:柊


 一週間が過ぎ、夏休みは折り返しに入った。


 東雲警部から連絡はない。

 もちろん、狛さんからも。


 黒狼だけが、毎日河川敷に来ていた。

 僕たちはいつも通りに訓練を続けている。


 変わったことと言えば。


「伊吹、また遅刻かよ」


「……最近、ずっとそうだよね」


 あの日から、

 伊吹さんが河川敷に来る時間が遅くなった。


 理由ははっきり言われていないけれど、

 多分、狛さんのことで何か動いているんだと思う。


 それから、紫苑さん。

 あの日以来、顔を見ていない。


「グルル……」


 黒狼が低く唸っていた。


「つか奏もいねぇじゃん」


「今日は、家の集まりがあるんだって」


 ――八月十三日。

 世間はお盆休みに入っている。


 僕たちも午前中に、お墓参りを済ませて来た。

 篝くんも昨日から実家に帰っている。


 名家はどこも、お盆を大切にしているのだろう。


「アタシも今日は早く帰るわよォ」


 麗子さんは耳の穴に入れた小指を動かしながら言った。


「今日からHikariは浴衣イベントで忙しいのよォ」


「はぁ〜?」


 颯が不満そうに眉を寄せる。

 麗子さんが、フッと息を吹いた。


「大人はこういう時に飲みに出るもんなの」


 光流くんの家は、名家とはまた違うみたいだ。


 ヴヴヴー!!


「……わ」


 ズボンのポケットでスマホが震えた。

 取り出して画面を見ると、斎賀先生だった。


 ……芽衣姉さんについて、

 あれ以上、先生から何も話はなかった。

 僕たちにも、光流くんにも。


 何かある、はずなのに。


 通話ボタンをタップする指に、力が入った。


「……もしもし?」


『柊くん?今大丈夫?』


「はい」


『三岳警部補から依頼がありました』


「……依頼」


 ちらりと颯に目をやる。

 颯に顎で指示され、僕はスピーカーボタンを押した。


『明後日……

 十五日の港花火大会の見回りをお願いしたいそうです』


「見回り、ですか?」


『ええ。最近、港区で霊害が湧いてるそうで。

 低級ばかりみたいですけれど。

 花火大会は人も多く集まるから、と』


 港花火大会。

 埠頭で行われる、籠屋市で最も大きな夏祭りだ。


 小さい頃、何度か家族四人で行った覚えがある。


『何も起きなければ、

 お祭りを楽しんでくれて良い、とのことです』


「はあ」


 母さんが亡くなってからは、一度も行ってない。

 黙って聞いていた颯が、そこで口を開いた。


「依頼なら、光流も来れるのかよ?」


『会場は人が多いですからね……。

 誰かに見られてはまずいですし』


「光流、お祭り好きなのに残念ねェ」


「……あ」


 颯と、目が合った。


 光流くんだと、

 バレなければ良いんだよな?


『どうしました?』


「いえ!何でもないです」


『柊くん、今何か良からぬことを考えましたね?』


「あ……っと……」


 スマホの向こうで、先生がため息を漏らした。


『今回の件、おそらく常夜との関わりはないそうです。

 盆時期は元々、霊害が発生しやすいですからね。

 リラックスして臨んでもらって良いかと思います』


 先生の声が、少しだけ柔らかくなる。


『高二の夏休みは、一度きりですから』


「……はい」


 “みんなで楽しんでおいで”。

 そう、言われたような気がした。


『だけど、光流くんに幻影を使わせるのは禁止ですよ。

 あれは霊力持ちしか騙せませんからね』


「は、はい!」


 まるっきり、見透かされてた。


『それから、狛くんのこと。

 勝手に動いたりしてませんよね?』


「……」


 ……多分、伊吹さんは何かしてる。


 颯に目配せすると、

 颯が舌を鳴らして合図した。


「……動いてません」


『なら良いんです。

 何かあったら、こちらから連絡しますから』


「わかりました」


『じゃ、明後日はよろしくお願いしますね。

 奏さんと桃華さんたちにも僕から連絡しておきます』


 その言葉を最後に、通話は途切れた。


 初めて友達と行く花火大会。


 きっと、楽しいんだろう。

 

 だけど――

 息抜きになるとは到底思えなかった。


 大きな入道雲が、

 ゆっくりと西の空を覆っていく。

 

 その向こうにある港の空は、

 ここからは見えなかった。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月30日15時

第百八十四話 祭りの始まり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ