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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第百八十二話 口実


 ***


 常夜ノ会本部。

 今日も、暗闇の中に蝋燭の灯りが揺れる。


「……それで?」


『久世の天才は、こちら側に傾くかと』


 暗い部屋に、“あの方”の低い声と、

 通話相手の声だけが響く。


「そんなことで動くとは思えんがな」


『“意思は示す”と、言っているそうですよ』


「……まあ良い。結果を見て、動こう」


『承知いたしました』


 電話が切れると同時に、

 ハイヒールの音が部屋に近づいた。


 “あの方”が部屋の扉に目を向ける。


 ガチャ!


「手柄を立てるどころか、特級霊害まで無駄にしよって」


 ミラ――その足元に、蔦に拘束された喝采。

 まるで荷物を引きずるかのように喝采を連れてきた。


「おい、こやつはどう始末するのじゃ?」


 ミラがハイヒールで喝采を踏みつける。


「……くっ……」


 喝采はミラを睨みつけた。


「研究所に幽閉しておけ。時が来れば使う」


「運ぶのも面倒じゃな。

 ……響はどうなったのじゃ?」


 ミラは、ハイヒールの先をぐりぐりと捩じ込みながら言った。

 喝采が表情を歪める。


「もうすぐ完成する」


「兵器としては十分じゃが、

 雑用に使えんのはやっかいじゃのう」


 ミラは肩をすくめた。


「意識を残したままにはできんのか?」


「……兵器が裏切ったら困るだろう」


「はっ?裏切る?」


 ミラが鼻で笑う。


「響が戻るとでも言うのか?

 あの頭でっかちな家に?」


「まだ破門されたわけではない」


「無理じゃ」


 ミラは“あの方”の声に被せて言った。


「霧島はそういう家じゃ」


 暗闇に、その言葉が深く落ちる。


 ミラは“あの方”に背を向けた。


「……そうじゃ。お主。

 本当は御影篝が死のうが、生きようが、

 どうでも良かったのじゃろう」


「……何が言いたい」


 ミラは首だけ振り向いて、“あの方”を見た。


「欲しかったのは、三流派が噛み合う口実じゃ」


 ミラの瞳が暗く濁る。


「“次はない”などと灰堂を脅しておいて……

 とんだ虚言癖じゃな。

 ハナから使い潰すつもりだったのじゃろう?」


「灰堂は俺が救った。生かすも殺すも俺が決める」


「思い上がりも甚だしいな」


 足元で喝采が苦しそうに息を吐いた。

 ミラが遅れ毛を指で流す。


「口の聞き方を考えろよ、ミラ」


 “あの方”の声は怒りを孕んでいた。

 

 ミラが喝采を拘束する蔦を引っ張る。


「弁えるのはお主の方じゃぞ、小僧」


 ギチ……と蔦が音を立てて締まり、

 喝采の息がわずかに漏れた。


「忘れるな。

 わしはお主より何十年と生きておるのじゃ」


 ミラは出口へ首を戻した。


「響が完成したらすぐよこせ。

 わしは先に邪魔者を処分する」


 ヒールの音が遠ざかり、ミラは暗闇に消えた。


「……だから老人は嫌いだ」


 暗闇の中で、

 “あの方”は静かに笑った。


「時代はもう動いているというのに」

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月30日12時

第百八十三話 港の空

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