第百八十二話 口実
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常夜ノ会本部。
今日も、暗闇の中に蝋燭の灯りが揺れる。
「……それで?」
『久世の天才は、こちら側に傾くかと』
暗い部屋に、“あの方”の低い声と、
通話相手の声だけが響く。
「そんなことで動くとは思えんがな」
『“意思は示す”と、言っているそうですよ』
「……まあ良い。結果を見て、動こう」
『承知いたしました』
電話が切れると同時に、
ハイヒールの音が部屋に近づいた。
“あの方”が部屋の扉に目を向ける。
ガチャ!
「手柄を立てるどころか、特級霊害まで無駄にしよって」
ミラ――その足元に、蔦に拘束された喝采。
まるで荷物を引きずるかのように喝采を連れてきた。
「おい、こやつはどう始末するのじゃ?」
ミラがハイヒールで喝采を踏みつける。
「……くっ……」
喝采はミラを睨みつけた。
「研究所に幽閉しておけ。時が来れば使う」
「運ぶのも面倒じゃな。
……響はどうなったのじゃ?」
ミラは、ハイヒールの先をぐりぐりと捩じ込みながら言った。
喝采が表情を歪める。
「もうすぐ完成する」
「兵器としては十分じゃが、
雑用に使えんのはやっかいじゃのう」
ミラは肩をすくめた。
「意識を残したままにはできんのか?」
「……兵器が裏切ったら困るだろう」
「はっ?裏切る?」
ミラが鼻で笑う。
「響が戻るとでも言うのか?
あの頭でっかちな家に?」
「まだ破門されたわけではない」
「無理じゃ」
ミラは“あの方”の声に被せて言った。
「霧島はそういう家じゃ」
暗闇に、その言葉が深く落ちる。
ミラは“あの方”に背を向けた。
「……そうじゃ。お主。
本当は御影篝が死のうが、生きようが、
どうでも良かったのじゃろう」
「……何が言いたい」
ミラは首だけ振り向いて、“あの方”を見た。
「欲しかったのは、三流派が噛み合う口実じゃ」
ミラの瞳が暗く濁る。
「“次はない”などと灰堂を脅しておいて……
とんだ虚言癖じゃな。
ハナから使い潰すつもりだったのじゃろう?」
「灰堂は俺が救った。生かすも殺すも俺が決める」
「思い上がりも甚だしいな」
足元で喝采が苦しそうに息を吐いた。
ミラが遅れ毛を指で流す。
「口の聞き方を考えろよ、ミラ」
“あの方”の声は怒りを孕んでいた。
ミラが喝采を拘束する蔦を引っ張る。
「弁えるのはお主の方じゃぞ、小僧」
ギチ……と蔦が音を立てて締まり、
喝采の息がわずかに漏れた。
「忘れるな。
わしはお主より何十年と生きておるのじゃ」
ミラは出口へ首を戻した。
「響が完成したらすぐよこせ。
わしは先に邪魔者を処分する」
ヒールの音が遠ざかり、ミラは暗闇に消えた。
「……だから老人は嫌いだ」
暗闇の中で、
“あの方”は静かに笑った。
「時代はもう動いているというのに」
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※次回更新:5月30日12時
第百八十三話 港の空




