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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
聞こえない心音

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第百七十九話 水面下


 カラスの鳴き声が聞こえてくる。

 

「おい、柊。スマホ貸せ」


「えっ?」


「狛さんに電話すんだよ!」


「颯くん」


 斎賀先生の低い声が落ちた。


「狛くんのスマホは押収されています。

 かけても繋がりませんよ」


 颯が舌打ちする。


「んじゃ狛さん家行くぞ!」


「……通してもらえるかな?」


「無理でしょうね」


 僕の言葉に、斎賀先生が付け加えた。

 胡座を組む颯の足が、小刻みに揺れる。


 怒りの矛先は、伊吹さんに向いた。


「伊吹!お前何か知ってんだろ!」


「……あ……でも……」


 伊吹さんの顔は青ざめたままだった。

 奏さんが伊吹さんの顔を覗き込む。


「……伊吹さん、

 何か、思い当たることがあるんですよね」

 

 伊吹さんは、唇を開きかけて閉じた。

 麗子さんが伊吹さんの肩に手を置く。


「……伊吹も動揺してんのよ。

 みんな知りたくて焦るのはわかるけど、

 狛が本当のことを言わない限り、わからないわ」


「証拠も出ていませんし、

 事情聴取が落ち着けば、狛くんにも会えると思います」


 颯は苛立ったように足を揺らし続けていた。

 斎賀先生が眉を寄せる。


「会えたとしても、

 本当のことを話してくれるかはわかりませんが」


「……グルル……」


 黒狼が低く唸った。


『……話せない事情もあるんだよ』


 奏さんのスマホの中、

 光流くんの声が響いた。


『狛さん、言わないことで何かを守ってるんだよね?』


 真剣な声だった。

 

『だったら無理に本当のこと言わせなくてもさ……

 狛さんにそうさせてる根っこんとこを、解決した方が良くない?』


「……!」


 光流くんの言葉に、

 伊吹さんは拳を握り締め、立ち上がった。


「……ボク、ちょっと行ってくる。

 行こう、黒狼」


 伊吹さんの視線は、

 東雲家とは反対側の街へ向いていた。


「ヴォンッ!」


「行くってどこへ――」


 僕が言い終わるより早く、

 伊吹さんと黒狼は高架下を飛び出していた。


「何なんだよあいつ!」


 颯が拳で地面を叩いた。

 奏さんが口を開く。


「……先輩方には、三人の時間があります。

 私たちの知らない狛さんが、きっといるのでしょう」


「……」


 僕は唇を噛み締めた。


「ま、今アタシたちができることは、

 ここで特訓しながら信じて待つことだけよ」


 麗子さんが立ち上がった。


「光流が言う“根っこ”……

 狛が黙る理由なんて、常夜絡みでしょォ?」


「いや」


 斎賀先生が言葉を継いだ。


「久世家の方かもしれません」


 その瞬間、

 ぬるい風が僕らの頬を掠めた。


「……先日、霧島家と御影家の会合が行われました。

 両家は常夜と久世家を、このまま放置できないと見なし、迎え撃つ方針です。

 ……もう、止まる気はありません」


 斎賀先生の声が低くなる。


「久世家もろとも、常夜を潰すつもりです」


「……っ!」


 全身が粟立つ。

 無意識に颯を見ていた。

 さっきまで揺すっていた足が、止まっている。


 斎賀先生へ目線を戻す。


「次に霧島家か御影家が手を出された時、

 火蓋は切って落とされるでしょう」


 パシャッと、川魚が跳ねた。


「今はお互い水面下で探り合っています。

 今回の件も、どちらかの思惑が絡んでいるのかもしれませんね」


 ヴヴヴー!!


「わ!!」


 僕のズボンのポケットでスマホが震え、

 思わず声を上げてしまった。


 スマホを取り出し画面を確認する。


「……父さんだ」


「どうぞ」


 斎賀先生は掌を上に向けて差し出した。


「……すみません」


 通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てる。


『あっ、もしもし柊?今どこにいる?』


 僕は口元に手を添えて話した。


「……白天(はくてん)川のとこ。奏さんたちと……」


『じゃあ迎えに行くよ。位置情報送って。

 父さん今日仕事早く終わったからさ、

 篝くんも誘ってご飯食べに行かない?』


「う、うん」


『篝くん、最近ずっと籠ってるみたいだし。

 食べないと元気も出ないからね』


「……うん」


 最近の篝くんは、

 ただ暑さで参っているようには見えなかった。


『じゃ、すぐ着くから待ってて』


 プツッ。


 電話が切れた。


「……すみません。父さんが迎えに来るそうで……」


「そっか。もう六時近いからね。

 今日は一度、解散しましょう。

 各自、勝手に動かないこと。何かあれば必ず連絡してください」


 斎賀先生の言葉で、みんなが重い腰を上げた。


「奏さん、駅まで送っていきます」


 斎賀先生が白衣のポケットから車のキーを取り出した。


 いや――だめだ。


「光流くん、切りますね」


『うん!ありがとね!』


 奏さんが通話終了ボタンに指をかけようとした、

 その時。


 僕は叫んだ。


「……っ斎賀先生!」


 まだ、聞かなきゃいけないことがある。

 

「先生……

 芽衣姉さんと、知り合いだったんですか?」


 奏さんのスマホから、光流くんの声が漏れた。


『……芽衣?』


 斎賀先生の表情が、

 一瞬だけ止まった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月28日21時

第百八十話 箱を壊す者

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