第百七十六話 開けてはいけない箱
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同日。清祓医療院。
午後四時二十八分。
紫苑はスマホを肩と耳で挟みながら、
ボストンバッグへ荷物を放り込んでいた。
「うん……そうなんだ。
……さあ⭐︎?分家の人間のことなんか知らないよ」
白い病室に紫苑の声だけが響く。
「凡才教師の過去にも興味ないし⭐︎
それより、お前はどこまで知ってんの?」
『……』
電話の相手は、何も答えなかった。
「言いたくないって⭐︎?」
紫苑が口角を上げる。
「僕さ〜、燦宮桃華から面白いこと聞いたんだよね」
窓の外で、ひぐらしが鳴いた。
「別に⭐︎?誰にも言ってないけど⭐︎?」
『……何を企んでるの?』
電話の相手が、静かに問う。
「人聞き悪ーい⭐︎お前こそ何考えてんの?」
一瞬、
荷物を詰める紫苑の手が止まった。
「今、柊の家にいるんだってね?」
『……』
紫苑が薄く笑う。
「お前って昔から僕のこと嫌いだよね〜⭐︎」
『……ふふ。小さい頃は、散々君に遊ばれたからね』
「子どもだったんだから仕方なくなーい⭐︎?」
また、手を動かす。
「で、僕がどうするか知りたいんでしょ⭐︎?」
『……教えてくれるの?』
「え〜⭐︎どうしよっかな〜⭐︎」
紫苑は鞄のチャックを閉めようと、
片手で荷物を押し潰した。
「ま、僕を止めたいならさ。
先に箱を開けることだね」
『……災いが飛び出すって知ってるのに?』
「それでも、
最後に希望は残るんでしょ?」
カーテンの隙間から、夏の陽が差し込んだ。
『……なるほど。
君の考えは、だいたいわかったよ』
「わかった気になられるのウザいけど〜⭐︎
ま、そういうことだから」
紫苑は膨らんだ鞄のチャックを無理矢理閉めると、
通話終了ボタンをタップした。
「……さて、と」
鞄を肩にかける。
「そろそろ凡才たち、僕不足で泣いてる頃だよね〜⭐︎」
紫苑はスマホを確認した。
【16:31】
――約束の時間を過ぎてる。
紫苑は目を細めた。
「……狛が時間守らないとか、あり得ないんだけど」
同時刻。
狛の病室で何が起きていたのか、
紫苑はまだ、予想できていなかった。
病室の下では、
パトカーの赤い警光灯だけが、
音もなく回り続けていた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月25日21時
第百七十七話 夜はまだ遠い
次回から第五章が始まります。
この夏に隠されていたものが、
少しずつ明らかになっていきます。
引き続き、見守っていただけると嬉しいです。




