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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
交錯する心音

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第百七十四話 夏は、まだ終わらない


 ***


 奏は、斎賀先生と廊下で向き合っていた。

 A組から光流の誕生日を祝う声が聞こえてくる。


「奏さん」


 先生が指で眼鏡を押し上げた。


「今夜、霧島家と御影家の会合があります」


「……何となく、聞きました」


 奏は呟くように答えた。


「今後の三流派について、話し合うそうです」


「……久世家の件、ですね」


 先生は否定しなかった。


「篝くんの屋敷が襲われたことで、

 久世家と常夜の繋がりは周知されましたから」


 奏は俯いた。


「……」


「響さんの処分についても、話題に上がると思います」


 奏が、ゆっくり視線を上げる。


「響は……破門されるのでしょうか?」


「……これは、噂ですけどね」


 窓の外から、野球部の声が聞こえてくる。


「霧島家当主……詠慈様は、響さんの破門について、

 “もう少し様子を見たい”と言っているようです」


 奏が顔を上げた。


「つまり、まだ響を見捨てていない……!?」


「あくまで、噂ですよ」


 先生の声は冷静だった。


「ですが、次があれば……破門は免れないでしょう」


「……ここで止めれば、まだ間に合うと?」


「さあ、どうでしょうね」


 それだけ言って、先生は奏に背を向けた。

 

「話は、それだけです」


「斎賀先生!」


 奏の呼び声で、先生は進みかけた足を止める。


「……昨日、光流くんのところに行っていたのですね」


「あれだけ強い霊力が動けば、気づいて当然です」


 先生が、廊下を歩き出す。


「近くにいたんですか?」


 ――気づくにしても、距離の限界がある。


「……たまたま、ね」


 違う。

 この人はきっと――

 彼を監視してる。


「何を、隠しているんですか?」


 奏の問いに、先生は答えなかった。


 斎賀先生の背中が遠くなる。


 それでも、

 斎賀先生の肩がわずかに揺れたことを、

 奏は見逃さなかった。


 ***


 Side:柊


「じゃあね〜!光流!」


『ばいばーい!』


 光流くんとのビデオ通話が切れ、

 教室が落ち着きを取り戻す。


 ガラガラ……。


 入り口の扉が開き、奏さんが戻ってきた。


「奏さん」


 僕は奏さんに歩み寄った。

 颯が浮遊しながらついてくる。


「先生、何だって?」


 奏さんが小さく息を吐いた。


「……今夜、御影家と霧島家の会合があると」


「何を話し合うってんだよ」


「おそらく久世家との関係についてです」


 ――『僕に手を出したこと、御影と霧島が許すはずがない』


 あの夜の篝くんの言葉。


 僕は唾を飲み込んだ。


「霧島は、自ら争いをしかける家ではありません。

 次に久世と常夜が攻めてきた時が、きっと……」


 ――戦争の、始まりだ。


「でもよ。こっちに紫苑がいる限り、

 向こうも下手に手出しはできねぇんだろ?」


「ええ。颯くん、よくわかっていますね」


 ――『彼がどちらにつくかで、戦いの流れは変わる』


 篝くんもそう言っていた。

 戦いの鍵は、紫苑さんが握っている。


「あの人の力は本物です。

 三流派の均衡を、一人で壊せるくらいには」


 だけど、

 僕は、あの日見た火傷の跡を忘れてない。


「敵は、紫苑さんの動きを見ているはずです」


 紫苑さんが傷を負っていることを、

 常夜はどこまで掴んでいるのだろうか。


 ――知られてはいけない。


 それに、

 久世家には紫苑さんを動かせる人もいる。

 

 久世紫乃。

 あの人も、また。


「……紫苑さん」


 紫苑さんは強い。

 だけど、その力は常に狙われてきたのかもしれない。


 ――『天才が傷負ってるなんてバレたら、踏みに来るやつがいるでしょ〜⭐︎?こわいこわい⭐︎』


 あの笑顔の下に、傷を負っているような気がした。

 ……光流くんのように。


「おい柊、大丈夫か?」


「えっ?」


「すげぇ顔してたぞ」


 颯が指で目元を吊り上げて言った。


「こんな顔」


「……そうかな?」


 その時、


 ヴヴ!ヴヴヴ!!


 ブレザーのポケットの中でスマホが震えた。

 画面を確認すると、【Hikaru Asakura.】の文字。


【柊、学校いるでしょ!?】


【ビデオ通話してる時に、ちょっと見えた〜!】


 颯が僕のスマホを覗き込む。


「光流か?」


「……うん」


 光流くんは、僕の返信を待たずに連投してきた。


【麗子、帰ってきたよ!】


【ハルちゃんとは時々会うつもりだって。

 記憶は全部、戻ってないらしい】


「そうなんだ……」


 生前に関係する人物に会っても、

 全ての記憶がいきなり戻るわけではないのか。


【だからまだ一緒に戦える!

 斎賀先生から連絡来た!

 謹慎中でも、祓い師関係なら動いていいって!】


「……あ」


 僕は奏さんの方を向いた。


「斎賀先生、昨日のことは何か言ってた?」


「“たまたま近くにいた”、と」


「あー?嘘くせぇな〜」


 僕も颯と同意見だった。


「柊くん、颯くん。

 斎賀先生は、光流くんに何か特別な思い入れがあるような気がします」


「特別な……?」


 奏さんは、僕をじっと見つめた。


「光流くんだけじゃ……ないのかもしれませんが」


 蝉の鳴き声だけが、やけに大きく聞こえた。


 ヴヴヴ!


 手元でスマホが震え、僕はびくっと肩を揺らした。

 

 画面を覗くとホーム画面に戻っていて、

 DMの通知より先に今日の日付が目に止まる。


【7月26日(月)】


 母さんの命日まで、あと十日。


 ――その日。

 紫苑さんと狛さんも、退院する。


【Hikaru Asakura.】

【てか15日の花火大会は、俺行けないってこと!?】


 ――夏は、まだ終わらない。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月24日12時

第百七十五話 白い彼岸花

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