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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
交錯する心音

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第百七十三話 良い子じゃなくても


 あの嵐の日から一晩が過ぎ、

 翌日、僕は学園に来ていた。


 二年A組。


「聞いた?

 F組のやつら、深夜に酒飲んで補導されたらしいよ」


「聞いた聞いた。光流もいたんでしょ?」


「酔っ払って喧嘩したらしい。ヤバすぎ」


 文化祭の準備を進める教室で、

 そんな会話が飛び交う。


 僕は、ダンボールに絵の具を塗っていた。


「……」

 

 絵筆を握る手に力が入る。


「好き勝手言われてんな〜」


 僕の隣で、颯が目を細めた。


「お前、なんか言ってやれよ」


「……うん」


 僕が立ち上がった、その時。


「でもさ、動画上がってるよ?」


 女子生徒の一人が、スマホを見せた。


 流行りの曲に合わせて画面の中で動く――

 三人の姿。


「家族で踊ってんじゃん」


「全然反省してねぇな!」


 光流くんの顔だけ、

 雑なサングラススタンプで隠されて見えた。


「光流、顔出してねぇよ。一応謹慎守ってんじゃね?」


「逆に不謹慎だろ〜。炎上案件じゃん」


 みんなが口々に話す。

 僕もスマホを取り出してSNSを開いた。


 女子生徒が声を上げる。


「ちょ!コメント欄見て!」


【こいつ一昨日酒飲んで人殴ってるよ】


【こわw】


【ヤンキーじゃん】


【謹慎中にダンス動画とか】


【いや酒飲んでないって】


【光流そんなことするタイプじゃなくね?】


【相手が煽ったらしい】


【リア友だけど普通に良いやつ】


【てか顔良すぎん?】


【姉ちゃん美人】


【遺伝子つよ】


【スタンプ雑すぎw】


【隠す気なくて草】


【後ろの店どこ?】


 ……炎上していた。

 

 だけど、

 

 誹謗中傷以上に、

 光流くんを援護する声が多かった。


 颯が僕のスマホを覗き込む。


「火消しがすげぇな」


「……うん」


 コメント欄を見て、

 教室の生徒たちの様子も変わっていた。


「ま、光流が理由なく人殴るわけないよな」


「謹慎中で会えないの寂し〜!」

 

「てか見て!誕生日設定されてる!!

 光流の誕生日、七月七日なの!?」


 ……もしかして。


 僕は慌てて、光流くんのプロフィールをタップした。


「え?」


【Hikaru Asakura. Birthday 07/07】


「もう隠してねぇじゃん」


 颯の声は、嬉しそうだった。

 僕もつられて、頬が緩む。


 教室がざわつく。


「余裕で過ぎてんじゃん!

 ちょっとー!みんなー!!

 光流の誕生日、七夕なの知ってたー!?」


「え!?誕生日までパリピかよ!!」


「ねぇ!光流に電話しよーよ!!」


 ……光流くん。


 喧嘩したって、

 炎上したって、


 “良い子”じゃなくたって。

 

 君が、

 思ってるよりずっと――


 愛されてる。


「光流くん、助かって良かったです」


 背後から見知った声がして、僕は振り返った。


「……奏さん」


「昨日は、間に合わなくてすみませんでした」


 奏さんが頭を下げる。


「ううん!斎賀先生が来てくれたし!

 奏さんが呼んでくれたんでしょ?」


「え?斎賀先生がですか?」


 奏さんの表情が曇る。

 胸がざわついた。


「違うの?」


「昨日、私は学校に行きましたけど、

 斎賀先生はいませんでしたよ」


 じゃあ、

 斎賀先生はどうして――?


 嫌な汗が背中を伝った。


 颯が頭を掻く。


「聞いてみりゃ良いんじゃねーの?

 今日は学校に来てんだろ?」


「奏さん」


 低い声が颯の言葉を遮った。

 

 僕たちは揃って教室の入り口を見る。


 ――斎賀先生。


「ちょっと、来てくれますか?」


「おいメガネ!昨日――」


「光流〜!!」


 颯の声が、また掻き消される。

 生徒たちが教室の窓際に集まった。


「謹慎おつかれー!」


『うぇーい!笑いごとじゃないんだけどー!』


「その十字架だせぇぞー!!」


『いーの!気に入ってんだよ!』


 奏さんは僕を見た。


「……ちょっと、行ってきますね」


「うん」


「後で教えろよ」


 奏さんが廊下へと出ていく。

 

 みんなが光流くんとビデオ通話をする声が教室に響く。


 昨日の斎賀先生。

 

 ……何で、

 何も言わずに去ったのだろう。


 ――気になる。


 だけど今は、

 この笑い声を壊したくなかった。


「光流!誕生日おめでと〜!!」


『ありがとー!!』


 光流くんの明るい声を聞いて、

 僕は息を吐いた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月23日12時

第百七十四話 夏は、まだ終わらない


明日は一話更新になります。

日曜日は二話更新します!

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