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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
交錯する心音

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第百七十話 帰れなかった男


 茶色く濁った川面が、ぶくぶくと泡立つ。


「……光流」


 麗子さんが、光流くんの前へ戻った。

 

 ……麗子さん、輪郭が薄い。

 さっきの喝采の攻撃で、削られているんだ。


 光流くんは麗子さんの背に手を当て、

 静かに霊力を流した。


「……光流もそろそろ限界だよな」


 颯が体勢を構えた。


 ザバァァァン!!


 水面が割れ、赤い霊力が姿を現す。


「……はぁ……はぁ……」


 喝采。

 呼吸が、乱れている。

 

 削れてる証拠だ……!


「……主演気取りですか」


 現れた喝采は、

 白塗りのメイクが剥がれ落ちていた。


「――っ!?」


 目元が、

 

 光流くんに……似てる?


「……あっ」


 光知瑠さんが小さく声を漏らす。


 光流くんの眉が、ぴくりと動いた。


 その時。

 

「――(すばる)!!」


 しゃがれた女性の声が、

 河川敷に響いた。


 直ぐに振り返ると、

 堤防の上に黒いリムジンが見えた。

 

 その横に並ぶ、三つの人影。

 

 一人は、

 光流くんたちのお母さんだった。


「昴!てめぇ今までどこ行ってたんだよ!!」


 喝采に向かって叫んでいる。


 ……もしかして。


 僕は、確かめるように喝采を見た。


「……また……

 身体が、動きませんね……」


 喝采が呟く。


 誰も、動けなかった。

 喝采も、

 光流くんも、光知瑠さんも。


 光流くんのお母さんが堤防を駆け降りてきた。


「変なカッコしてても、あたしにはわかるんだよ!

 何年一緒にいたと思ってんだ!」


「ママ!」


 麗子さんが、お母さんの前に立ちはだかる。


「どういうことなの!?」


 お母さんが喝采を指差した。


「そいつ――朝倉昴!」


 太陽が雲に隠れ、

 河川敷に暗い影が落ちる。


「光流と光知瑠の父親だよ!!」


 河川敷から、

 音が消えた気がした。


 ……喝采が?

 あの男が?


 頭が、上手く追いつかない。


「……っ……」


 光流くんの喉が、小さく震えた。

 

 何かを言おうとして、

 結局、口を閉じる。


 喝采――いや、

 朝倉昴は、ただ黙って立っていた。


 ゆっくり、その唇が動く。


「……何も……覚えていませんね……」


「嘘つけてめぇ!

 忘れたなんて許さねぇぞ!!」


 麗子さんが、

 前に出ようとするお母さんの肩を掴んで止めた。


「……パパ!!」


 絞り出したみたいな声で、

 光知瑠さんが叫んだ。


「何で……こんなことしてんだよ……!」


 その声に、喝采の赤い霊力が乱れる。

 ……反応している。


「何でウチらを置いて――」


 シュルシュルッ!!


 光知瑠さんの言葉は、

 地面から伸びた蔦に遮られた。


 足元から生えた蔦が一斉に、僕たちを絡み取る。


 あの日、

 篝くんの屋敷で見たものと同じだ。


『……ミラ……!』

 

 禍々しい気配は、

 橋の上だった。


「……愚かな男よ」


 颯が橋を見上げる。


「また、てめぇかよ…!」


 ミラの手元から蔦が伸び、喝采の身体に巻き付いた。

 そのまま、橋の上へ吊り上げられていく。


「勝手なことをした上に、狙う相手を間違うておる。

 ……もっと邪魔な人間がようけおると言うのに」


「おい!連れてくな!!」


 光流くんのお母さんが叫んだ。

 

「騒がしい女は嫌いじゃ」


 ……ギチ……!


 蔦が、光流くんのお母さんを締め上げる。


「う……っ!」


「そやつは、もうお前たちの知る男ではない」


 ミラの声が冷たく落ちた。


 お母さんの顔が青ざめる。


 まずい!


 そう思った時だった。


 ズバッ!!


 堤防の上から、影が滑るように動き、

 お母さんに絡みついた蔦を切り裂いた。


 黒いポニーテールが揺れる。


「……大丈夫ですか?」


 ――暮羽さん。

 ということは……


「これ、何の茶番よ」


 堤防の上。

 最後の一人は、桃華さんだった。


 ミラが桃華さんを見た。

 その瞳が、獲物を見つけたみたいに細められる。


「……どうせ狙うなら、あやつじゃろう」


 桃華さんが一歩下がった。

 

「……っ暮羽!」


「は」


 暮羽さんの刀が青白く光る。


 ミラは舌打ちした。


「……やれやれ。

 荷物を持ったままでは、ろくに戦えんわ」


 蔦に拘束されたまま、喝采が橋の上へ引き上げられていく。


 追わないと。


 そう思うのに、足が動かなかった。


「安心せえ。すぐに消してやる」


 ミラの唇が、

 ゆっくりと吊り上がった。


「燦宮桃華。

 お前だけは、放っておけん」


 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月20日21時

第百七十一話 帰る場所

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