第百六十七話 言葉じゃなくても
***
Side:柊
麗子さんは、光流くんと光知瑠さんを抱きしめたまま、闇に飲まれた。
「柊!風出す!」
颯が黒泥を避けながら叫ぶ。
「もっかい霊力乗せてくれ!!」
『うん!』
颯が前方に手をかざした。
その時。
一瞬、
僕たちの横を影が通り抜けた。
……僕たちの、良く知る気配。
だけど、いつもの穏やかさはなかった。
颯が目を見開く。
「あ?」
次の瞬間、
暗闇に、星印が灯った。
ブワッ!!
三人を包んでいた黒泥が、
光流くんの背後に収束する。
闇が開け、三人の姿が見えた。
……麗子さんと光知瑠さんが、
光流くんを抱きしめていた。
何も言わず。
ただ、静かに。
『……そうか』
大切に想う気持ちほど、
言葉なんかなくても伝わるのかもしれない。
胸の奥が、急に熱くなった。
「おい!柊!」
颯が前方を指さして叫ぶ。
指し示す先、
抱きしめられた光流くんの後ろに立っていたのは。
『……っ斎賀先生!』
斎賀先生が、メガネを押し上げた。
「……光を守るって」
ほんのわずか、
先生は遠くを見るみたいに目を細めた。
「あの人と約束しましたから」
その足元で、
「……あ……ああ……」
光流くんの背中から、黒い影が顔を出していた。
霊害が、光流くんの身体から剥がれ落ちていく。
「柊!やんぞ!!」
『ああ!!』
拳に力を込め、颯が飛び出した。
僕は颯に、力を託す。
「旋霊拳――」
光流くん。
どうか、
この風が、
君の心を晴らしてくれますように。
颯の風に、祈りを込めた。
――僕は、君が大切だ。
「疾風!!」
バアァァァンッ!!
光流くんの胸元で、
十字架が青白く輝いた。
***
Side:光流
重苦しい、闇の中。
何度も反芻される。
喘鳴。罵倒する声。
明け方の薄暗い空。
母さんの酔っ払った笑い声。
“生まれてこなきゃ良かった”
それ以外、何も思い浮かばない。
暗くて、冷たい。
――孤独だ。
「――光流」
遠くで、姉ちゃんの声がした気がした。
「大好き」
……嘘じゃん。
そんなの。
「光流」
麗子の声がうっすらと聞こえて、
その後は何も聞こえなくなった。
なのに――
冷え切っていたはずの身体が、
少しずつ、温かくなっていく。
呼吸が、楽になる。
――俺、ここにいて、良いの?
「光流に、いてほしいのよ」
言葉が、すんなり胸に落ちてきた。
……安心する。
この温かさは、
嘘じゃないってわかった。
……そっか。
俺、
愛されてたんだ。
その時。
強くて、優しい風が吹いた。
――大切だよ。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月17日15時
第百六十八話 やっぱり、光だ




