第百六十六話 あなたが光
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Side:麗子
暗黒の中、
光流の声だけが頭に流れ込んでくる。
――『もう、疲れた』
喉元が、締め付けられた。
「……良いのよ、光流」
アタシが全部、受け止めるわ。
――『そんなの嘘でしょ。信じられない』
――『明るく笑ってる俺も、全部ハリボテ』
――『本当の俺なんて、誰も必要としてない』
光流。
きっとアンタのことだから、
そんな風に考えてしまう自分も、嫌になったのよね。
……アタシね。
晴信のおかげで、少しずつ記憶を取り戻してきたの。
生前、どんな人間だったのか。
何故、霊になったのか。
それから――
アンタに出会った、あの雪の日のこと。
*
一年半前。
アタシは、常夜ノ会から逃げ出した。
……正確には、放たれた。
もう、霊害になる寸前だったの。
痛くて、苦しくて。
冷たい暗闇だった。
気づいたら、あのコンビニの裏にうずくまっていた。
もう身体は動かなくって、
輪郭が黒いモヤに溶け出してた。
終わりだと思った。
そしたら、怒りと憎しみが湧いてきたの。
なぜ、アタシがこんな目に遭わなきゃならないの?
アタシが何をしたっていうの?
ただ、娘に会いたかっただけなのに。
もう死んだって言うのに、
まだ、神はアタシを苦しめる。
誰も、助けてくれなかった。
――違うわ。
神も仏も、いなかったのよ。
生まれた時から、
アタシは“普通”じゃなかった。
『気持ち悪い』
『おかしい』
何度、言われたことかしら。
そうやっていつも、
……踏みつけられてきた。
世界は、最初から腐ってた。
ブワァァァッ!!
吹き出した黒い影が、アタシを侵食していった。
――どうせ堕ちるなら。
この世界ごと、呪ってやるわ。
……そう思いかけた時だったの。
「俺の守護霊になってよ!!」
光流が、現れたのは。
弾けるみたいな青白い光が、アタシを包み込んだ。
光流の霊力はすごく温かくて、
まるで、生き返ったみたいに思えたわ。
「……俺、困ってる女性は放っておけないんだよね!」
アンタ、迷わず“女性”って言ったのよ。
本当、出会った時から良い男。
アンタみたいな人間がいるなら、
この世界、まだ捨てたもんじゃないわね。
*
「アタシにとっては、アンタが神様なのよ」
だからお願い。
アタシが……いいえ、
アタシたちが大好きな朝倉光流を、
あなた自身が嫌いにならないで。
願いを込めて。
アタシはただ、光流を抱きしめた。
言葉は、いらない気がしたの。
「光……流……」
アタシの腕の中で、みっちが動いた。
みっちは光流に手を伸ばし、ぎゅっと引き寄せた。
「ウチも一緒に……受け止める」
それ以上、みっちは何も言わなかった。
ただ、静かに――
アタシたちは、
光流を抱きしめ続けた。
光流の瞳に、わずかに光が灯る。
「――俺、ここにいて、良いの?」
「……っ!いてくれなきゃダメなの……!」
嗚咽混じりの、みっちの声。
アタシは、光流の目をしっかりと見て言った。
「光流に、いてほしいのよ」
指先に、力を込めた。
「……あ……ああ……」
霊害が、光流の背中から顔を出す。
光流の中から抜け出ようとしていた。
光流の体温が、わずかに戻る。
「光流!そいつを追い出すの!!」
アタシが叫んだ、その時。
――ピシッ!
光が、星を描くように走った。
「……君を失うわけにはいかない」
大人の声。
軌跡が光を帯び、
光流の身体から霊害が剥がれ落ちる。
――この術を使えるのは……!
「……君は、光ですから」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月17日12時
第百六十七話 言葉じゃなくても




