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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
交錯する心音

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第百六十四話 轟


 ***


 Side:颯


 光流から、黒いヘドロが噴き出している。

 ……あいつの“苦しみ”が、そのまま溢れたみてぇだった。


 さっき柊の拳は沈んだ。

 力の問題か――いや、試せばわかる。


「柊、霊力頼んだ!」


『うん!』


「もっかいやんぞ!」


 俺は地面を蹴って飛び出した。


 黒泥が波打ちながら向かってくる。


「旋霊拳」


 拳に蒼白い光が灯った。


「――祓撃!!」


 バァンッ!!


 拳は貫いた。


 ――だが。


 砕けた端から、

 また黒泥が盛り上がる。

 

「チッ!」


 ……だめか!


 もう一度、後方へ逃げた。


 脳内に柊の声が響く。


『颯。もしかしたら――

 本体を叩かないといけないのかも』


「あ!?」


 本体ってよぉ……!


「光流を殴れってか!?」

 

『墓地で、菩薩像に取り憑いた霊を祓ったよね!?

 あの時も、本体を狙わなきゃダメだった!!』


 あん時は菩薩像だったけどよ!


「光流を壊すなんてできねぇだろ!!」


 グワッ!!


 黒い濁流がまた押し寄せる。


「引き剥がせねぇのかよ!」


 俺は河川敷を横に走った。


「前に奏がやってたろ!?」


『やり方がわからない!!』


「んじゃどうすんだよ!?」


『でも――』


 黒い波が迫る。


『あの時、

 まなちゃんのお母さんの感情に、霊害が反応してた』


「……っ!」


 ブワァァッ!


 風を起こし、黒い波を押し返した。


「光流の感情だな!?」


『きっと、怒りとか憎しみの、逆にある感情……』


「……あったけぇ感情か!?」


 黒い壁の向こう。


 光流の背中から、声がした気がした。


 ――『サミシイ』


『……いや』


 柊の声は、震えていた。


『愛情だ』


 そんなもん、

 いくらでも俺らが教えてやるよ……!


「おい光流!聞こえてんだろ!!」


 黒泥が足元へ這い寄ってくる。

 

「みんな、お前のこと心配してる!」


 喉が張り裂けるくらい叫んだ。


「お前が大事なんだよ!!」


 頼む。

 届いてくれ。


 光流の肩が、わずかに揺れた気がした。


 それでも――


「剥がれねぇのかよ……っ!」


 俺の足元に、黒泥が絡みつく。


『颯!!』

 

 重い。

 振り払えねぇ。


「……クッソ!おい柊!」


『わかった!』


 身体の奥から、柊の霊力が膨れ上がる。

 

 足に力を込める。


 ――風、吹け。


「旋霊脚――天廻!!」


 ブォンッ!!


 渦を巻く蹴りが、

 足元の黒泥をまとめて吹き飛ばした。


 その時、


「ねぇ!二人とも!!」


 光知瑠の声が、雨音を裂いた。


「ウチを光流の近くまで連れてって!!」


 黒泥が、青白く脈打つ。


 ……まずい。

 光流の霊力まで、持ってかれてる。


「近くっつってもよ!!」


 ドロドロが邪魔で、近づけねぇ。


「ウチにも光流と話させて!!」

 

「そりゃわかるけど……!」


 額に汗が滲んだ。


 ブワッ!!


「!!」


 青白い泥塊が、

 弾丸みたいに飛んできた。

 

 咄嗟に身体を捻る。


 ベチャッ!


 左肩に黒泥を浴びた、瞬間。


 ドクン!

 

 心臓が、締め上げられた。


 ――『俺なんか、生まれてきちゃいけなかったんだ』


 流れ込んでくる、暗くて重い感情。

 胸の奥が、空っぽになっていく。


 ――『俺って、いらない子?』


「んだこれ……!?」


 俺は胸に手を当てた。


 ――『消えたい』


 そんなこと思っちゃいねぇのに、

 脳に無理やり流れ込んでくる。


 身体が芯から冷えて、

 上手く動かせない。


『光流くん……!』


 ――柊も、わかってる。


 光流。

 

 お前、こんなに辛かったんだな。


「……っ柊!!

 俺の風に、霊力乗せれるか!?」


 足を無理やり動かし、光流の方へ向き直った。


『風そのものに、ってこと!?』


「そう!」


『……やれる!!』


 ――さすが、兄貴。


 俺は口角を上げた。


「光知瑠!合図したら走れ!!」


 ぶち抜く。


「わかった!!」


「行くぞ!柊!!」


 降りしきる大雨の中、雷鳴が唸る。

 

 俺は両手を前にかざした。


 最大限の風と、霊力で。


旋霊嵐(せんれいらん)


 お前の悲しみごと――

 

 吹き飛ばしてやるよ。


「――(とどろき)!!」

 

 ゴオォォォッ!!


 突風を放つ。


 青白い暴風と黒泥が、

 真正面から激突した。


 ――押せ!


 黒い濁流が、

 轟音に押し潰されながら後退していく。


「光知瑠!今だ!」

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:5月16日12時

第百六十五話 届かない言葉

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