第百六十四話 轟
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Side:颯
光流から、黒いヘドロが噴き出している。
……あいつの“苦しみ”が、そのまま溢れたみてぇだった。
さっき柊の拳は沈んだ。
力の問題か――いや、試せばわかる。
「柊、霊力頼んだ!」
『うん!』
「もっかいやんぞ!」
俺は地面を蹴って飛び出した。
黒泥が波打ちながら向かってくる。
「旋霊拳」
拳に蒼白い光が灯った。
「――祓撃!!」
バァンッ!!
拳は貫いた。
――だが。
砕けた端から、
また黒泥が盛り上がる。
「チッ!」
……だめか!
もう一度、後方へ逃げた。
脳内に柊の声が響く。
『颯。もしかしたら――
本体を叩かないといけないのかも』
「あ!?」
本体ってよぉ……!
「光流を殴れってか!?」
『墓地で、菩薩像に取り憑いた霊を祓ったよね!?
あの時も、本体を狙わなきゃダメだった!!』
あん時は菩薩像だったけどよ!
「光流を壊すなんてできねぇだろ!!」
グワッ!!
黒い濁流がまた押し寄せる。
「引き剥がせねぇのかよ!」
俺は河川敷を横に走った。
「前に奏がやってたろ!?」
『やり方がわからない!!』
「んじゃどうすんだよ!?」
『でも――』
黒い波が迫る。
『あの時、
まなちゃんのお母さんの感情に、霊害が反応してた』
「……っ!」
ブワァァッ!
風を起こし、黒い波を押し返した。
「光流の感情だな!?」
『きっと、怒りとか憎しみの、逆にある感情……』
「……あったけぇ感情か!?」
黒い壁の向こう。
光流の背中から、声がした気がした。
――『サミシイ』
『……いや』
柊の声は、震えていた。
『愛情だ』
そんなもん、
いくらでも俺らが教えてやるよ……!
「おい光流!聞こえてんだろ!!」
黒泥が足元へ這い寄ってくる。
「みんな、お前のこと心配してる!」
喉が張り裂けるくらい叫んだ。
「お前が大事なんだよ!!」
頼む。
届いてくれ。
光流の肩が、わずかに揺れた気がした。
それでも――
「剥がれねぇのかよ……っ!」
俺の足元に、黒泥が絡みつく。
『颯!!』
重い。
振り払えねぇ。
「……クッソ!おい柊!」
『わかった!』
身体の奥から、柊の霊力が膨れ上がる。
足に力を込める。
――風、吹け。
「旋霊脚――天廻!!」
ブォンッ!!
渦を巻く蹴りが、
足元の黒泥をまとめて吹き飛ばした。
その時、
「ねぇ!二人とも!!」
光知瑠の声が、雨音を裂いた。
「ウチを光流の近くまで連れてって!!」
黒泥が、青白く脈打つ。
……まずい。
光流の霊力まで、持ってかれてる。
「近くっつってもよ!!」
ドロドロが邪魔で、近づけねぇ。
「ウチにも光流と話させて!!」
「そりゃわかるけど……!」
額に汗が滲んだ。
ブワッ!!
「!!」
青白い泥塊が、
弾丸みたいに飛んできた。
咄嗟に身体を捻る。
ベチャッ!
左肩に黒泥を浴びた、瞬間。
ドクン!
心臓が、締め上げられた。
――『俺なんか、生まれてきちゃいけなかったんだ』
流れ込んでくる、暗くて重い感情。
胸の奥が、空っぽになっていく。
――『俺って、いらない子?』
「んだこれ……!?」
俺は胸に手を当てた。
――『消えたい』
そんなこと思っちゃいねぇのに、
脳に無理やり流れ込んでくる。
身体が芯から冷えて、
上手く動かせない。
『光流くん……!』
――柊も、わかってる。
光流。
お前、こんなに辛かったんだな。
「……っ柊!!
俺の風に、霊力乗せれるか!?」
足を無理やり動かし、光流の方へ向き直った。
『風そのものに、ってこと!?』
「そう!」
『……やれる!!』
――さすが、兄貴。
俺は口角を上げた。
「光知瑠!合図したら走れ!!」
ぶち抜く。
「わかった!!」
「行くぞ!柊!!」
降りしきる大雨の中、雷鳴が唸る。
俺は両手を前にかざした。
最大限の風と、霊力で。
「旋霊嵐」
お前の悲しみごと――
吹き飛ばしてやるよ。
「――轟!!」
ゴオォォォッ!!
突風を放つ。
青白い暴風と黒泥が、
真正面から激突した。
――押せ!
黒い濁流が、
轟音に押し潰されながら後退していく。
「光知瑠!今だ!」
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※次回更新:5月16日12時
第百六十五話 届かない言葉




