第百六十三話 待ってて
外は嵐になっていた。
光知瑠さんが傘を持ってきてくれたけれど、
風が強くてまともに差せなかった。
「おい!大丈夫か!?」
「うん……何とか……」
何度も傘がひっくり返って、骨が折れた。
「しょぼい傘しかなくてごめんね!!」
雨音に負けないように、光知瑠さんが叫ぶ。
「いえ!大丈夫です!」
僕は傘を閉じた。
雨に濡れることくらい、どうってことない。
それよりも、光流くんの方が大事だ。
「光流の行き先、心当たりあんのかよ!?」
ファミレスを出る前に、みんなへ連絡を入れた。
奏さんは学園へ。
伊吹さんは駅前へ。
桃華さんもこちらへ向かってくれている。
篝くんにも連絡した。
無理はしないで、とだけ伝えて。
でも大人には連絡していない。
光流くんは、今謹慎期間中だったから。
「河川敷に行こう!!」
あそこは、僕たちの想いが詰まった場所だ。
強風に煽られながら走った。
*
ザァー!!
雨が激しく降り注ぐ。
河川敷が見えてきた頃には、
僕も光知瑠さんも、ずぶ濡れになっていた。
服は張り付き、
スニーカーの中まで雨水が入り込んでいた。
でも、気にならなかった。
ただ、あの明るい金髪だけを探してた。
「おい!あれ!!」
先を行く颯が声を上げた。
雨で滲む視界の中――
河川敷の川辺に、ひとつ。
人影が、見えた。
その瞬間、
ゾワッ!!
重苦しい霊力に、
全身が震え上がった。
「……っ!」
息が詰まる。
だけど、暗く濁った霊力の奥で
――ほんのわずか。
慣れ親しんだ気配を感じた。
今にも消えそうなほど儚い。
胸の奥が痛んだ。
ゴオォォォ!!
大雨で増水した川が、もの凄い勢いで流れて行く。
茶色く濁った水が暴れ狂い、獣の咆哮みたいな音が聞こえた。
「……光流くん!」
光流くんは傘も差さず、
今にも足をさらわれそうな場所に立っていた。
「危ねぇぞ!!」
颯が飛び出す。
僕と光知瑠さんも、
滑りそうになりながら堤防を駆け下りた。
「ねぇ!あれ本当に光流だよね!?」
「光流くんです!」
「オーラが違うってか、なんか変じゃん!」
「だから急いでるんじゃないですか!!」
僕は声を張り上げて言った。
どうしようもなく、焦っていた。
光流くんが、
取り憑かれるってわかったから。
霊害は、普通なら人に取り憑かない。
でも、
――心が空っぽになった人間は別。
「……っ!」
唇を噛み締めた。
光流くん。
ずっと、苦しかったんだね。
間に合わなくてごめん。
「助けるから!!」
――待ってて。
光流くんは、虚な目で川の中を見ていた。
その足元で跳ねる濁流が、
今にも光流くんを連れ去ってしまいそうだった。
「光流……!」
光知瑠さんが、光流くんへ歩み寄る。
颯が腕を掴んで止めた。
「危ねぇって!」
「じゃ、どーすんだよ!
光流が流されちまうだろ!!」
光知瑠さんは、目を潤ませて叫んだ。
「……僕が行くよ」
小さく息を吐く。
泥を踏みしめながら、一歩ずつ光流くんへ近づいた。
靴底がぬかるみに沈む。
「柊、気ぃつけろ!」
背後で颯の声がした。
光流くんの背中が、近くなる。
「っ光流くん!!」
音にかき消されないように叫んだ。
だけど、光流くんは振り向かない。
背中から、黒いモヤが滲み出ていた。
あと数歩。
手を伸ばせば――届く。
もう一度、叫んだ。
「光流くん!!」
バチィッ!!
僕の手は、滲み出たモヤに弾かれた。
グワァァァァアッ!!
光流くんの中から、黒いヘドロが勢いよく噴き出す。
このままじゃ、
光流くんが飲まれる。
――やるしかない。
「来い!颯!!」
「おーよ!」
颯が白銀の光に変わり、
一直線に僕の中へ向かった。
「は!?何!?」
光知瑠さんが目を見開く。
ドクン。
心音が二つ、重なった。
「どういうこと!?合体した!?」
「後で説明します!!」
噴き出した黒い塊へ拳を叩き込む。
しかし――
ズ……ズズ……
「!?何だ……!?」
拳が、黒泥の壁に沈み込んでいく。
まずい。
身体まで持っていかれる!
「……っ!」
慌てて腕を引き抜くと、後方へ跳んで距離をとった。
『おい柊!どうなってんだ!?』
「殴ったのに、飲まれた!!」
『代わるか!?』
「……お願い!」
――カチッ。
世界が、入れ替わる。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月15日21時
第百六十四話 轟




