第百六十一話 Episode:光流【本音】
*
「……帰れって!」
叫んだ瞬間、自分でもわかった。
俺はもう、限界だった。
*
一年前。
俺は瑞峰学園に入学した。
実は、
柊の存在に、すぐ気づいてた。
変な霊力持ちだったから。
強いのに、何かに押さえつけられてる感じ。
しかも不安定。
それだけじゃない。
理由はわからないけど、つい目で追ってしまう。
誰かに似た、懐かしさがあった。
だけど、柊はこっちの世界に関わりたくない人間だって見てわかった。
「力の扱い知らないんじゃ、ただの見える子だもんね」
入学式の次の日。
あの教師に声をかけられた。
「理科教師の斎賀です。
霧島家の出身……って言えば、話早いよね?」
斎賀先生は胡散臭かったけど、警察と知り合いだった。
信用して良いのかもって、ちょっとだけ思えてきた。
東雲警部に繋がって、俺は見習い祓い師になった。
……そこで思い知った。
この世界、化け物みたいな奴らが普通にいる。
紫苑さんに、狛さん。
一歳違うだけなのに、格が違った。
――ここでも、いらない子になりたくない。
ふと、ネガティブな考えが頭を過った。
でも。
「アタシたちも、もっと鍛えなきゃねェ〜!
光流!トレーニングして帰りましょ!」
俺はもう一人じゃなかったから、保てた。
強くなりたい。
そうすればいつかまた、
芽衣さんにも会える気がしてた。
*
前よりも充実した、穏やかな日々がしばらく続いた。
「光流くん!お願いがあるんです!!」
高二になって数日後、
斎賀先生が焦燥し切った声で電話してきた。
事故に遭って颯が半霊になったこと、
柊と颯が守護契約を結んでいること。
何でそこまで先生が知ってんの?
って、正直思ったけど。
……それでも、
協力しない理由にはならなかった。
本当は、ずっと話してみたかったし。
「僕は、白瀬柊です」
柊は、優しくて、真っ直ぐで、純粋で。
見てると、目が痛くなるくらい眩しかった。
だから時々、
柊の存在は俺の神経をヒリつかせた。
多分、俺の方の問題なんだけどね。
しかも、柊の成長はめざましかった。
こいつは多分、紫苑さんや篝くんと同じだ。
――最初から、選ばれてる側。
俺とは、生まれた時から違う。
柊みたいにはなれない。
そうなろうと努力しても、届かなかった。
周りは強い奴らばっかりだ。
敵も、仲間も。
置いていかれる。
また、
俺だけ何もないままになる。
黒い感情が、俺の中で渦を巻き始めた。
そんな時だった。
ハルちゃんから連絡が来たのは。
そろそろ、
こっちとも向き合わなきゃいけない。
――だけど。
今、麗子を失ったらどうなんの?
姉ちゃんと母さん喧嘩してるし、
また、家族が壊れるかもしんないよ?
そもそも、
麗子なしの俺って、いらなくない?
そういうの、全部かき消すみたいに、
俺は無理やり、ハルちゃんに会いに行った。
だってさ。
会いに行かなかったら、俺卑怯じゃん。
――『娘に会わせる!代わりに俺のこと守って!!』
あの約束、守らないわけにいかないでしょ?
俺の願い通り、
麗子はハルちゃんのところに行った。
俺だけじゃない。
みんなが、麗子が実の子供に会えるのを願ってた。
だから、これで良かった。
なのに。
――『もう貴方を必要としてる人、いないでしょう?』
喝采の言葉が、何度も頭の中で響いた。
どうしようもなく、イラついた。
……イラついてたんじゃない。
ただ、傷ついてたんだ。
何で、俺は特別になれないの?
何で俺には――
何にもないの?
いつもみたいに、もう笑顔で隠せなかった。
「……っ帰れって!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
ごめんな、柊。
あんな顔、させたかったわけじゃない。
ただ、
お前みたいになりたかっただけなんだ。
俺のせいで、みんな苦しむ。
俺なんか、
やっぱり生まれてこなきゃ良かったんだ。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月13日21時
第百六十二話 言葉にならないもの




