第百六十話 Episode:光流【家族】
初めて、俺に守護霊ができた。
「俺は、朝倉光流。君は?」
「……思い出せないのよねェ」
その霊も、やっぱり自分の名前を忘れていた。
「ん〜。じゃあ、麗子はどう?
霊で女性だから、麗しいって字で麗子」
ゆうちゃんの時よりも、ちゃんと考えた。
「あら、良いじゃなァい!
アンタ、センスあるわねェ〜!」
……やっぱり、嬉しいんだ。
外は震えるほど寒いのに、なぜか身体が温かくなった。
降り積もる雪の中、俺たちは並んで家に帰った。
*
「ただいま〜!」
玄関に、乱雑に脱ぎ捨てられたハイヒールが見えた。
姉ちゃん、帰ってきてる。
「おかえり〜!受験どうだった〜?」
リビングからタバコの匂いと、母さんの声がした。
「余裕余裕〜!」
俺がリビングに顔を出すと――
「は!?おい光流!!後ろ!!」
母さんが声を上げた。
まあ、そうなるよね〜。
「あら、綺麗なママ。初めましてェ」
麗子が、照れくさそうに挨拶した。
「初めまして〜……じゃなくて!!
どういうこと!?
ちょっとー!光知瑠ー!!」
「んだよ!うっせぇな!!」
姉ちゃんがイラつきながらリビングに来る。
そして、
「ぎゃ!!びっくりした!!
でっか!!何!?誰!?」
姉ちゃんが母さんにしがみつく。
「まァ、可愛い子〜!
アタシは麗子よォ。よろしくねェ」
「光流お前、女の趣味変わったん!?」
「え、そっち?」
二人は軽くパニック状態だった。
だけど、そのツーショットが懐かしくて、
俺はちょっぴり泣きそうになってた。
ま、泣かないけどさ。
「なんかね、俺のこと守ってくれることになったの。
麗子、今日から家に住むけど、良い?」
「「いやいやいや!!」」
母さんと姉ちゃんの声が重なる。
「話がまるで見えん!説明!!」
姉ちゃんに急かされ、俺は麗子のことを説明した。
リビングの椅子に、四人で座る。
俺の隣に麗子、向かいに母さんと姉ちゃん。
この椅子が、全部埋まったのは八年ぶりだった。
「……なるほどねぇ」
母さんがタバコの煙を吐き出す。
「全く理解できんけど、とりあえずわかった」
「それ、わかってなくない?」
「……まあ、光流が連れてきた子なら、悪い子じゃないでしょ」
母さんの隣で、姉ちゃんも電子タバコを咥えた。
「家事とか手伝ってくれるって、マジ?
それなら、ウチは全然歓迎なんだけど!」
「ぶっちゃけ助かるよね」
姉ちゃんの言葉に、母さんが頷く。
さすが俺の家族、適応が早い。
「麗子ちゃん?だったっけ?
家ちょっと狭いからリビングで寝てもらうことになるけど、大丈夫?」
「全然問題ないわよォ!居候させて貰うんだもの!」
「てか、化粧上手くない!?
ちょっと教えて欲しいかも!」
「もちろんよォ〜!」
母さんが微笑む。
「んじゃ、これからよろしくね。麗子ちゃん」
――こうして、麗子は家族になった。
この日から、
家に笑い声が戻っていった。
姉ちゃんは、家によく帰ってくるようになった。
家事が回ることで母さんも余裕ができて、酔っ払って愚痴ることが減った。
ちょうどマンション下のテナントが空き、母さんは自分の店を出した。
麗子の助言もあってか、店は驚くほど順調だった。
そして俺も、少しずつ、
明け方が怖くなくなっていた。
「ただいま〜!」
家に帰るのが、少しだけ楽しみになった。
俺の家を変えたのは、間違いなく麗子だ。
麗子の娘のこと――いつか来る別れのことは、
まだ、考えないようにしてた。
失う怖さを、
俺はまだ知らなかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月12日21時
百六十一話 Episode:光流【本音】




