第百五十九話 Episode:光流【救済】
中三の夏休み。
俺は、あの変人教師に目をつけられた。
……いや、既に知られていたのかもしれない。
「今日は光るモンスターを作りましょう〜!」
高校の体験入学。
白衣を纏ったメガネの若い教師が、集まった中学生たちにハイテンションで話している。
「……」
――あの人多分、こっち側だな。
今なら、見ればわかる。
ぱち、と目が合うと、教師が俺に微笑んだ。
“わかってるよ”とでも、言うように。
体験授業の後、教師に声をかけられた。
「君、この学園に来ませんか?」
「……え?」
「いやぁ〜!コミュ力、器用さ、頭の回転!
体験授業、見事でした!ぜひ欲しい人材です!」
教師が笑顔で俺の手を取る。
「……君には、もっと色々教えたくてね」
「……!」
ぞくりと背筋が冷えた。
――この人、何か知ってる。
胡散臭かった。
……でも、知りたかった。
「光流、マジで瑞峰にすんの?」
「うん!」
先生の笑顔が、ずっと頭に残っていた。
だから俺は、瑞峰を選んだ。
「何でぇ!?もったいなー!」
「だって光るスライムおもろかったし〜!」
ここで進路変えてたら、何か違ってたのかもしれない。
それからまた半年経って、
俺は瑞峰を受験した。
受験当日。
籠屋市は雪が滅多に降らない地域なのに、
その日は雪が降っていた。
「おつかれーい!じゃあなー!」
友達は、母親や父親の迎えで帰っていく。
雪もそうだけど、子供の受験が心配だったのだろう。
「うおー!さみぃー!」
俺は、一人で歩いていた。
【受験、終わったっす!】
家族じゃなくて、芽衣さんにDMしていた。
既読はつかない。
数回前のDMから、ずっと未読のままだ。
それでも懲りずに連投できるのは、
相手が芽衣さんだからだった。
「何か買って帰ろうかな〜」
真っ直ぐ家に帰る気になれなかった。
何か、温かいものが欲しくて。
帰り道を少しずれて、コンビニに寄った。
「あったけー!」
ココアを両手で握り締めながら店を出た。
その瞬間。
ゾワァッ……!!
――いる。
しかも、でかい。
……コンビニの裏か!?
迷わず、裏に走った。
そこにいたのは――
「あ……ああ……」
でかすぎる!
霊害か?
……いや、違う。霊だ!
だけど霊害に、なりかけている。
「ちょっと、しっかりして!霊害になっちゃうよ!」
俺は咄嗟に、そいつへ霊力を流した。
シュウゥゥ……。
青白い霊力は、すぐに黒いモヤにかき消された。
……間に合わないか!?
「あ……あ……憎い……」
そいつは、怒りと憎しみと、
――寂しさでいっぱいだった。
……俺も、こんな感覚知ってる。
喘鳴。
罵倒する姉ちゃんの声。
明け方の薄暗い空。
酔っ払った母さんの笑い。
胸の奥が、
真っ黒に沈んでいく感じ。
ゆうちゃん。
あの時、ゆうちゃんもそうだったんだ。
俺が突き放したから。
……俺しか、いなかったのに。
――また、俺のせいだった?
手が震えた。
――『代わりにたくさん救ってあげな』
……芽衣さん。
そうだよな。
下唇を噛んだ。
俺は両手をかざし、
ありったけの霊力を目の前の霊に送り込んだ。
黒い巨体が、青白く光る。
ぼんやりと、輪郭を取り戻し始めていた。
女性だ。
「あ……何……温かい……?」
霊の声が聞こえた。
まだ、残ってる。
「ねえ!君のこと助けたいんだけど!」
俺の霊力が底つく前に。
「どうしたら良い!?」
「……娘に……」
「何!?」
「……娘に……会いたい……」
ドクン!
心臓が大きく跳ねた。
「わかった!会わせる!!
だから霊害になっちゃダメだ!」
今度こそ、救いたい。
これ以上、
自分のことも、嫌いになりたくない。
――そうだ。
「俺の守護霊になってよ!!」
そうすれば、霊害にならないんだっけ!?
「……守護……霊……?」
「娘に会わせる!代わりに俺のこと守って!!」
――『そういう時って、突然来るものなんだよ』
きっと、今だ。
「……俺、困ってる女性は放っておけないんだよね!」
パァァァァァ!
霊力の糸が、俺と霊を結んだ。
黒い影が薄れて、霊の輪郭がはっきりしてくる。
霊が、むくりと立ち上がった。
金髪のポニーテールが、風に揺れて、
――芽衣さんの姿と重なった。
全然似てないのに。
「……ありがとう。アンタ、良い男ねェ」
「って、でかっ!!」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:5月11日21時
第百六十話 Episode:光流【家族】




