第百五十五話 鍵は二つ
病室の扉が勢いよく開いた。
「来てあげたわよ。久世紫苑」
病院に似つかわしくないフリルのワンピース。
厚底のヒールをカンカン鳴らしながら入ってきたのは、
「感謝なさい」
桃華だった。
「呼び捨てやめてくれる⭐︎?」
「今のって久世紫乃?」
桃華はドカッとベッド脇の椅子に腰掛けた。
「死ぬほど硬い椅子ね。桃華の身体が壊れるわ」
「壊れちゃえばいいのに⭐︎」
「で?今のが久世紫乃?化け物じゃない」
会話が、成立していなかった。
「暮羽は?通訳いないと会話になんないんだけど⭐︎」
「あら、今は日本語よ?
Tu préfères en français, peut-être ?」
――フランス語の方がお好み?
桃華がわざとらしく微笑む。
「Non. Ça change rien⭐︎」
――いや、どっちでも同じ⭐︎
「Oh là là……何であんた話せるのよ」
「……桃華様」
扉の隙間から、心配そうな暮羽の声が聞こえた。
「んで⭐︎?
僕がお願いしたこと、やってくれたんでしょ⭐︎?」
「仕方なくね。よく聞きなさいよ」
桃華が鼻を鳴らす。
「研究所の件。
御影篝に桃華を助けに行かせたのは――白瀬透よ」
「……なるほど〜⭐︎」
「驚かないの!?あの兄弟の父親よ!?」
「あの兄弟の父親だからでしょ⭐︎
篝と組んで守ってたって話じゃん⭐︎?」
「どうやって一般人が御影篝と繋がったのよ!?」
紫苑の顔から、笑みが消えた。
「……御影……共霊……まさか」
点と点が繋がる。
「C’est quoi, ça ?」
――何なのよ?
桃華が片眉を上げた。
紫苑がにやりと口元を緩める。
「サラブレッドは他にもいたってことか」
――この戦争。
鍵になるのは、僕だけじゃない。
「っていうか、これ内緒にしなさいよ。
お父様に誰にも言うなって口止めされてるんだから」
「こんな面白いこと、金積まれても言わないね⭐︎」
紫苑の悪い顔に、桃華の肌が粟立つ。
「……協力するとは言ったけど、
三流派絡みはもう関わらないわよ」
桃華は両腕をさすった。
「この間の御影篝の件だって、桃華が助けてあげたんだから。
恩返しなら十分済んだはずでしょ」
「あー。解毒がどうとかいうやつ⭐︎?」
「あんたほんと、どこから情報得てるのよ」
桃華が椅子から立ち上がる。
「……誰が一番強いだとか、そんなに大事なことなのかしらね?」
肩に落ちる髪を払った。
「勝手に潰し合ってなさい。桃華は付き合わないわ」
吐き捨てるように言って、踵を返した。
扉の向こうに、桃色の気配が消えて行く。
「だいたい予想はできたけど〜⭐︎」
――僕の仮説が正しければ、
あいつの力は、あんなもんじゃない。
「……何に縛られているのか」
盤上の駒が、また一つ動いた。
窓の外は、昼なのに真っ暗だった。
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※次回更新:5月7日21時
第百五十六話 Episode:光流【崩壊】
“良い子”になってしまった少年の話。




