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350話 - 髭伯爵

 変な集団がダンジョン内に入ってきた。

 無視して帰っても良かったんだけど後学の為に10分程様子を見ていた。

 冒険者に話しを聞きながらこっちに歩いてくるんだよなぁ。


 僕はダンジョン内なら色々融通が利くんだ。

 そもそもダンジョン管理の機能で監視カメラがポケダンについている。

 僕個人的に、なら監視カメラと同じことは神眼で出来るんだよねぇ。


「神の使徒と名乗る魔物を見ていないか」


「え、えっと……。今あっちの方で冒険者の教育を……」


 そして神眼伝いに耳を澄ましてみると僕の場所を聞いてるみたい。

 きっと僕目当てだよね……。

 そろそろ夕方だから帰ろうかと思ったのになぁ……。


「頭を下げろ貴様ッ!平民如きが無礼だぞ!」


「ひいっ……。す、すみません……」


 平民如きってことは貴族じゃん……。

 もう嫌な予感しかしないよ……。

 まぁウルフェンさんもいるし、厄介ごとがあるなら家族が居ない今日纏めてやっておこっと……。


 しばらく待っていると僕の前に現れた。

 それにしても15人も……?

 僕の事討伐に来たのかなぁ……。


 あ、僕の前で整列して立ち止まった。

 なんか左端のやつが前に出てきたぞ……?


「こちらはスペルブ・マロワーズ伯爵様だ」


『…………』


 やっぱりか……。

 そう言えば目ざとい商人とかは既に情報を掴んでいるとかベルが言ってた。

 だから商人さんが来ることは覚悟してたんだ。


 でもまさかの貴族だよ……。

 この前おっさんの嫌な貴族の話聞いたところだって……。

 しかも伯爵だって?

 上位貴族とか絶対ややこしいぞ……。


 知らない貴族に絡まれるのはクルード以来だな。

 一旦無視して様子見っと……


「貴族様が護衛連れで何の用だ?ここはダンジョンだぞ」


 うわぁ……。

 ウルフェンさん貴族相手に話しかけちゃったよ……。


 僕を厄介ごとから守ろうとしてるんだろうなぁ。

 さっきもがめつい冒険者から庇おうとしてくれたし。

 ってかむしろ僕が来たら厄介ごと増やしてないかなぁ……。


「貴様とは話していない!伯爵様に直訴するなッ!」


 直訴するなって……。

 貴族に平民が直接口聞いちゃダメとかあるんだっけか……。

 じゃ話しかけてくんなよ……。


「貴族事情をダンジョンに持ち込むなって言ってんだ。国の法律だぞ」


 あ、それは僕も覚えてる。

 地位を振りかざした貴族のせいで冒険者が多数死んじゃったって言ってた。

 だから冒険者になる貴族の地位はあってないようなものって言われてるんだよね。

 むしろ高ランクの冒険者は貴族扱いらしいしね。


「わかっているでおじゃる。兵共ッ!下がるでおじゃる!余が直接話をするでおじゃる!この為にわざわざ冒険者登録をしたのだ……」


「ハッ」スタスタ……。


「美しいでおじゃる……ぶふっ」


 うぅ……今鳥肌立った……。

 僕の方見て美しいって言った!?


 しかも、おじゃるッ!

 おじゃるって本当に言う人いるんだなぁ……。


 それに鼻息荒いやつだな……。

 顔が脂ぎってるぞ……。

 成金貴族感がすごいなぁ。


 ってどちらかと言えば王様の一人称な気がするけどね。

 マロワーズさんだし麻呂とかの方がよかったんじゃないの?


(ウルフェンさん!僕のことは良いから折見てギルマス呼んできてくれない?多分僕じゃ最後まで対処できないと思う)


(わかった!じゃ、うまく引き伸ばしてくれ!)


 上手く引き伸ばす、ね。

 キャシーに実際に見てもらった方がいいよね。

 了解。


 スタスタスタ……。


「そちがフェンリルのクロ殿でおじゃるな?」


『そ、そうだが……』


「余がスペルブ・マロワーズ伯爵でおじゃる!」


 さっき名前は聞いたっての……。

 でっぷりした体にくるんとした大層な髭を蓄えてまぁ……。

 こいつの事は髭男爵と心の中で呼ぶことにしよっと。

 あ、いや伯爵か。


『そうか……。で、我に何用だ?』


「まずは余の自己紹介からするでおじゃる!余は由緒正しい伯爵家の……」


『…………』


 会話出来ねぇッ!

 別にお前の自語りに興味ないってのッ!


 1人でつらつらと能弁たれてるけど全然耳に入ってこないし何言ってるかわかんない。

 とりあえずこいつの周りのやつは私兵だとか自分は凄い地位を持っている国の重鎮だとかなんだとか色々……。


 とりあえず全部我が家自慢でしょ?

 まぁ、今頃ウルフェンさんが猛ダッシュしてるだろうし引き延ばしてくれた方が良いよ。

 勝手に喋っといてくれ。


「で、あるからして、余のお爺様は人間との競り合いで武功を……」


『…………』


 あれから15分程……。

 貴族自慢長すぎるだろ……。

 ずっと黙って聞いてるのに1人で話してるよ……。


 そろそろウルフェンさんなら1階層くらいまでは行けたかなぁ。

 さすがに疲れて来たしもう充分だよね……。 


「更に余の父は……」


『もういい。貴様、話が長すぎるぞ』


「そうでおじゃるか?取引相手に余の事を伝えようと思ったでおじゃるが……。そちがそう言うならわかったでおじゃる」


 あら?意外と素直なんだな。

 そして取引、ね。


 なにか売買しに来たって事かなぁ。

 最近作ってたポーションかなぁ?

 対価を払えるなら構わないけど僕が売ってるの秘密じゃなかったっけ……。


「貴様だとッ!?魔物風情が伯爵様に無礼なッ!」


『…………』ぷいっ。


 うるさ。

 それにしても、やっぱ貴様って無礼だよなぁ。

 いい案は……あ!

 汝、とかどう!?

 いい感じに偉そうだし無礼でもないよね!?

 これからはそうしよっと!


 でも、貴様って呼んで噛みついてくる人は結構偉そうな人が多いんだよ。

 意外と悪人の振り分けに使えるしケースバイケースかなぁ……。


 ってかなんだよこの構図……。

 伯爵は僕相手にのんびり話してるのに私兵がものすごく敵対してくるんだけど……。


「聞いているのか貴様ッ!こちらに直れッ」チャキッ。


 自分も貴様って言ってるじゃん……。

 ブーメランだって。


 敢えて聞いてないんだよ。

 興味ないんだよ……。

 今更人に剣で脅されても僕の命を脅かしようがないじゃん……。

 だから黙って聞いてるのに……。


 でも私兵みたいなやつが剣を抜いちゃった。

 手にかけてるくらいなら無視してたのになぁ。


 じゃ、デュエルスタンバイ?

 とりあえず一旦ベルの真似っと……。


『魔物風情に貴族もなにも関係ないであろう?』


「言わせておけば……」カタカタカタ。


『貴様らは我に用があるのではないのか?それを早く言えと言っている。話が進まん。時間は有限なのだ。これ以上話を引き延ばすようであれば我は帰らせてもらおう』


「マロワーズ様ッ!この魔物を叩き切る許可をッ!」


 叩き切るねぇ……。

 ベルでさえ毛1本も切れなかったのにお前がどうするんだよ……。

 まぁいっか。

 何度か切らせた後でやり返せば正当防衛でしょ。


 で?この伯爵はどう応じるかが見物だな。

 手出しされるならさすがに出し返すよ?


『そのようだが?それに応じる事が用件と言う事でよいか?』


「違うでおじゃるッ!おい貴様ッ!剣を納めるのだ!」


「ぐぬぬ……。し、失礼しました……」


 お、ちゃんと謝れるタイプか。

 クルードよりはマシかもね。

 それならまぁいいか。


「……クロ殿、失礼したでおじゃる。余の話を聞いて欲しいでおじゃる……」


『ふむ……。では謝罪に免じて此度だけ許そう。貴様、次に剣を抜こうものなら二度と剣を握れぬ体にしてやるぞ』


「……ちっ」


 今、兵士に舌打ちされたんですけど……。

 全然反省してないじゃん……。

 超睨みつけて来てるよ……。


 髭伯爵が言ったから仕方なくって感じですかね。

 いいや、もう。

 気にしないでおこっと。


「では話を戻すのでおじゃる!ちなみにそちは神の使徒でごじゃろう?」


『それが取引と何の関係があるのだ?』


「我が伯爵家はディオ様の敬虔な信者でおじゃる!」


 ディオ……ディオ……。

 あぁ、偽創造神様の名前だったっけ……。

 伯爵の上に教会絡みとか終わってんじゃん……。


『だから何だ?』


「む、知らぬのか?そちはディオ様の使徒でごじゃろう?」


『神違いだ。我とその者は関係ない』


 やっぱそうなるのか……。

 この勘違いは出来るだけ早く解かないとダメだなぁ……。


「そうでおじゃるか……。そちの信仰する神の存在は知らぬでおじゃるが……。でも、ディオ様は創造神様でおじゃる。要するにその神もディオ様の配下、という事になるでおじゃるな?結果、そちも創造神様の使徒でごじゃる!」


『ディオと言う神等知らんと言っているのだ……。我の仕えている神とその神に関係などない』


「むむ……。そうでおじゃるか……。ふむ……。少し時間を貰いたいでおじゃる!」


『……またか。まぁ……少しならよい』


 時間は取って貰える程キャシーが来る時間稼ぎになるでしょ。

 早く来てくれ……。


 それから髭伯爵は僕から少し距離を取った。

 そして私兵とヒソヒソ相談しだした……。


(ディオ様を知らない程の下っ端ですかね?)


(ディオ様は全ての神の頂点におわす方でおじゃる!創造神様を知らないと言う事はないでおじゃる!やはり嘘の可能性もあるでおじゃるな……?)


(確かに。では絶対そうですよ。こんな魔物如きが……)


(余はそのような事はどうでもいいでおじゃる!穏便に会話を試みたでおじゃるがそれなら……)


 ブツブツ……。


 全部聞こえてるからな?

 誰が偽創造神の下っ端の下っ端だよ……。

 せっかくクルードよりはマシだと思ったのに評価下方修正だ。


 角が立っても良くないから偽創造神を強烈に否定することはやめてるんだって。

 だから知らないって言ったのにこうなるんだなぁ……。

 色々僕なりに丸く収まる様に考えてるんだよ?


 いや、そんなことより早く用件を終わらせてよ……。


『もういいか?再度問う。我に何用だ。いい加減用件を言え』


「取引がしたいのでおじゃる!」


 だよね。

 さっきちらっと言ってたし。

 でも気分的に僕のこと馬鹿にしてそうだから乗り気じゃないなぁ。

 まぁ今後の参考に話を聞くくらいの価値はあるか……。


『話を聞くだけ聞いてやるが……。何を所望しているのだ?回復薬か?』


「そちの毛が欲しいでおじゃる!」


『……………………………………毛、だと?』


 はっ!!

 あまりの内容に5秒ほど息するの忘れた。

 一瞬目が点になった気がするよ……。


 まぁ、その可能性は商人さんが僕のこと狙ってるって聞いてから考えなくはなかったんだ。

 まだ想像の範疇だな。


 毛なら切ればなんとかなるよ?

 欲しいって言われても、不思議じゃないかも知れない。

 僕だってハチに抜け毛分けて欲しいって言ったもん。


 でもこいつに僕の毛を差し出すのはナシだ。

 クラムがぬいぐるみを作るのにちょうどいいから僕の抜け毛を集めてるんだ。

 ダンジョンから出たら消えるからダンジョン専用だけどね。


 そもそも知らない人に毛を分けるとか嫌だしな。

 まぁ、そもそも持って出られないと思うよ。

 でもそんなのを言う必要はないかな。


「間違えたでおじゃる!毛皮が欲しいでおじゃる!」


 悪化した、だと……?

 毛皮って僕の皮剥ぐつもり、だよね……?

 冗談、だよね……?


 あぁ、そろそろポーカーフェイスも限界だなぁ。

 怒ってるんじゃなくて呆れて途方に暮れた表情になっちゃいそうだ……。


 キリッとするんだ僕っ!

 ……ふぅ。


『それは戯れのつもりか?笑えん冗談だ』


「冗談じゃないでおじゃる!所望した物を答えたでだけでおじゃる!」


 冗談じゃないなら尚更だっての。

 取引内容が殺害予告で草生え散らかすよ。

 せめて命を所望する!とか言われたかったもんだな……。


 僕は貴族様に言わせれば物品扱いなんだなぁ。

 所詮、魔物と人間だってことだね。


 これも僕が甘いから招いた結果なんだろう。

 自業自得だな。


 あ、無意識に天を仰いでしまった……。

 助けてソフィア様……。


 ・

 ・

 ・


 ふぅ……。

 こいつと話すの疲れるなぁ。

 帰りたい……。


 冒険者ギルドや王様の為にも、揉め事を起こさないように色々耐えてるんだ。

 だから早く来てくれキャシー……。

 そろそろ話しを引き延ばすのも限界だよ……。


 僕かなり穏便だよね……?

 みんなが居なくて良かったよ……。


 そしてこんな事言われて何を話せばいいんだろうか……。

 僕の毛皮の取引理由でも聞けばいいのかな……?


『はぁ……。一応聞くが、何の為に我の毛皮を所望しておるのだ?』


「ウルフの毛は高値で取引されているのでおじゃる!大きく美しい神の使徒を名乗る狼がダンジョンにいると聞いて直接見てみたかったでおじゃる!だからわざわざ冒険者資格を取ってまで余が直接来たでおじゃる!」


『収集目的、と言う事か?』


「そのように思って貰って間違いないでおじゃる!」


 コレクション品って感じね……。

 地球でも毛皮の服とかあるし理解は出来るよ。

 僕は魔物だしそういう目線にもなる人も居るんだろう。


 それはもう仕方ない。

 いちいち腹も立たない。

 だからと言ってコレクションの為に僕が犠牲になろうとは思わないけどね。


『取引とは具体的にどうすればいいのだ?』


「話が分かる御仁で困ったでおじゃる……。少々剥ぎ取ることは可能でおじゃるか?」


 殺すとか言わないんだ?

 いや、話が出来て困ったって言ってるから話が分からなければ僕の事殺すつもりだったってことだな。


 だから後ろの私兵はさっさと僕の事叩き切ろうとしてるって事ね。

 それで僕が話す度に兵が剣に手を添えるのか……。


 一応髭伯爵の言う事聞いて抜かないんだけど後ろから僕のこと脅そうとしてんのか?

 剣に手を添えても同じことだからな?


『出来るわけないだろう』


「では尾を貰えないでおじゃるか!?」


『…………無理だ。だが、我を殺して剥ぎ取る、とは言わないのだな?そこだけは褒めてやろう。何故だ?』


「そちの命に興味はないでおじゃる……」


『では、何故私兵を連れて来た?』


「ダンジョンの護衛目的でおじゃる!余はスライムとも戦えんでおじゃる!」


 ……まぁ半分建前で半分本音だろうな。

 僕が話せたから”今は”命に興味ないって話だよね。

 髭伯爵に関してはそこまで毒気がある感じではないんだよ。


『そうか。要望は把握したが却下だ。諦めろ。汝の希望に答えることは不可能だ』


「それは嫌でおじゃるっ!なんとかならないでおじゃるか……」


『そもそも我は汝から差し出すものを聞いているのだ。話しが進まなくて仕方ないぞ。我の命を所望した対価に何を差し出す、と聞いている』


「だから余は命など所望していないでおじゃる……。金なら言い値で払うのだ!」


『貴様は我の皮を剥げと言っているのだ。我の命を所望していると言っても過言ではないだろう?』


「そうではないでおじゃる……。そちが神の使徒ならその程度治せるでおじゃろう?」


 そういう事ッ!?

 念話漏れそうだったよ……。

 僕なら治せるから皮剥げって言ってんの!?


 治せるだろうけど絶対そんなことしないっての!

 皮膚復活しても毛根死んだらどうすんだよ!

 万に1つでもハゲたくないだろッ!


『だからと言って毛皮を剥げという要望には応えられん』


「では余はどうすればいいでおじゃるか……」


『交渉決裂だ。諦めろ』


「嫌でおじゃる!」


『今なら汝の態度に免じて我の命を狙ったことは許す。今すぐ兵を下げ我の元から去るのであれば見逃してやろう』


「違うと言っているでおじゃる……。何とかする方法はないでおじゃるか……?」


 しつこいって……。

 もう帰ってよ……。

 キャシーとウルフェンさんが来るのを待つのもそろそろ限界だって……。


 無駄足になってごめんってキャシーにメールで謝ろう……。

 諦めて帰ってくれるなら髭伯爵に敵対しな……


「マロワーズ様。お下がりください」ザッ。


「何をするでおじゃるか……?」


 ん?兵士が前に出て来たぞ……?

 さっき態度が悪かったやつだな……。


「魔物に話し等無駄です!茶番はもういい!私が叩き切ってやるッ!」チャキッ。


 あーあ。

 兵士もこの話に限界か……。

 茶番ねぇ……その通りだよ?


 また剣抜いちゃったか……。

 もう仕方ないな。

 僕の方が限界だっての。


 ”魔力剣(マジックソード)


 ズバンッ。

 ボトッ……。


「え……」ブシュウウッ……。


『貴様の要望通り、茶番は終いにしてやろう』


「……うで……が………腕が……ない………」


『貴様、話の最中も逐一剣に手を掛けおって……。我の事を舐めているのだな?』


「ぎゃあああああああああああああ」


 ベルは自分を犠牲にして僕の脅威を見せる為に僕と戦ったんだ。

 自分が死にかけてまで、だ。

 だからここで僕が手出ししないのはベルの覚悟に失礼だ。


 それに舐められるなって散々言われてるからね。

 さすがに限度越えでしょ。


『我は口だけで人に手出しはしない、と風の噂でも聞いたのであろう?』


「腕が……腕がああああああああああッ」


『五月蠅い。問いに答えろ。……他の兵士共でもいい。図星だろう?』”威圧”。


 ひっ……。

 そ、そんなことは……。


『そうではない、と。では貴様らの独断で我を手に掛けようとしたという事で相違ないか?』


「い、いや……。ち、違います……。酒場でクロ様は温厚だと……商人から……」カタカタカタ……。


 やっぱそうだよなぁ……。

 舐められると厄介って事が耳に沁みてわかったよ……。

 えっと、鑑定っと。

 ヘンドリックね。


『では貴様らが訂正して置くことだな。……だが、貴様、ヘンドリックだな?』


「な、なんで私の名前を……」


『我は神の使徒だと言っているだろう。貴様は信じて居なかったようだが興味もない。だが此度の事は少々目に余る。貴様には次に剣を抜けば二度と剣を握れぬ体にする、と忠告してやった。覚えているか?』


「…………」カタカタカタ……。


『剣を握る腕が無ければ2度と剣は握れないであろう?これは報いだと思え』


「た、たす、けて……」


『助けて?茶番は終いだと貴様が言ったのであろう?話に乗ってやったのだがな』


 僕は今、魔物と人の狭間でどっちつかずなんだ。

 だから魔物と人を同列として扱う事に決めている。


 僕ら家族には外の魔物相手にも狩る前に1度軽く忠告するルールがある。

 そして逃げていくなら食料とは言え手出ししないんだ。

 うちの家族とエデンでのルールなんだよね。


 人を切ることについてもとうの昔に割り切っている。

 ……まぁ切らないことに越したことはないよ?

 すごく嫌な気持ちにはなるし……。


 ただ、こいつは仕方ないよね。

 この世界で剣を抜いたら自業自得でしょ?

 始めて会った時からこいつに関してはずっと殺気が出てたもん。

 まぁ、魔物なんて殺してさっさと帰りたい、ってところだろうけどね。


 剣を抜けば二度と剣を握れぬ体にするって言った。

 敵対しないなら見逃す、とも言ったよ。

 何度も忠告したんだ。


 敵対してるやつに容赦はしない。

 これはこの世界に来て、魔物として生きていくって決めてから最初に誓ったことだ。


 はぁ……初めての人殺し、か。

 気分悪いなぁ……。


 ただ、さほどでもないのはきっと僕の心が魔物に引っ張られてるからなんだろうな。

 そして僕の地球の常識が僕に抵抗心を産み出している、と。


 その心はこの世界の人ですら常識じゃないんだ。

 僕だから、こんなに許したんだからね。

 茶番はもう終わりだよ。


「ゆ、許してくれ……。じ、冗談、だ……」


『この世界の兵士は戯言で人を殺すのか?』


「そのようなことはしないッ!伯爵から命令でもなければ……」


『では貴様は我が人でないから殺して当然だと思ったという事で相違ないか?』


「そ、それは……」


 まぁそんなこと歯牙にもかけてないんだけどね。

 イライラも全くしてないし興味が無いって言うのに近いかな。


 ただ、いい加減僕は甘すぎる。

 こんな事をずっと続けていたらこのループは止まらない。

 僕が敵対されているって事は家族にも被害が及ぶんだ。


 僕が許せる範囲は超えちゃったんだよ。

 よいしょっと……。

 魔力手で10m程空中に持ち上げてやるか。


 ガシッ!


「助けてくれえええええええッ!殺されるううううううッ!!」


『他の命は殺すが自分は殺されない等、理にかなわぬだろう』


「もう逆らわないッ!なんでもするッ!お願いだッ!!」


『貴様の理屈であれば我は貴様を殺して当然なのだろう?我は神の使徒である前に魔物なのだろう?我は貴様を1度も否定していない。全て貴様の話を飲んでいるだけだ。その結果だと思え』


「いやだあああああああああッ」


 これで僕が温情なんかかけないってことはわかっただろう。

 この貴族一派もこれに恐れてここから離れてくれれば……。


「クロ殿……私兵がすまなかったでおじゃる……。もういいでおじゃるか?」


 髭伯爵……お前空気空気読めよ……。

 今お前が入ってくるところじゃないだろ……。


 ……そして謝られた。

 まぁこいつとしては僕に手を出すつもりはなかったって話だもんな。


 責任者が謝ってるし揉めたくもないし……。

 出来れば人殺しなんてしたくないしなぁ……。

 反省してるならこれくらいでいいか。


 ドサッ。


「た、たすけてくれ……。うで、を……治して……」


 兵を空から降ろした瞬間、周りの兵が手当を始めた。

 半数は腰を抜かして呆然としてるけどね。

 まぁ、これでやっと帰ってくれるよ……。


「すまぬでおじゃる……。詫び金を払うでおじゃる……」


『要らん。反省したならいい。だが、兵の教育がなっていないな。教育しておくのだ。そして、これを教訓に我の元から去れ』


「ん?今、殺していいでおじゃる。時間が勿体ないでおじゃる」


「ま、マロワーズ様……」


『聞き違いか?貴様の私兵だろう?』


「言う事を聞かん兵など要らぬでおじゃる。余はそちを殺せなど命令していないのでおじゃる……。私は取引に邪魔が入ったことに対して謝ったのであって詫び金も払うのだ!だから取引を……」


 あ、わかった……。

 こいつ腐ってるんだ。

 自分以外は物だと思ってるタイプだ……。


 ・

 ・

 ・


 こいつ……。


 兵士を殺していいから助けて欲しいっていう感じですらなかった。

 死ぬのが当たり前、時間の無駄って言ってのけてたもん。

 欲しいものは全て手に入る環境で育ってきたんだろうな。


 このタイプに対して対処の仕方がわからん……。

 地球でこんなサイコパスと会ったことないもん……。

 僕に敵対はしてないしどうしよう…………。


「気を損ねてしまったでおじゃるか?詫びに白金貨20枚程渡せば許してもらえるでおじゃるか?」


『……金など要らんと言っている。目障りだから去れ。我は貴様のような貴族が1番嫌いだ』


「どうすれば毛皮を譲ってもらえるでおじゃるか!?」


『去れと言っているのがわからないのかッ!他の兵共々痛めつけられたいかッ!茶番は終わりだと言っただろう!』


「ぐぬぬ……」


『貴様に我の毛皮を手に入れる術はないともうわかったであろう。……もういい。貴様が去らぬのなら我が去る』


 もう話を聞くのを止めよ……。

 こいつは絶対に自分の欲しい者が手に入るまで諦めないタイプだ。

 話すだけ無駄だよ……。


 もう僕には対処できる範囲を超えてるって……。

 後でキャシーの謝罪メールついでに今後の対処を考えよう。


 またやってくるかもしれないし。

 もう殺した方が早いのかなぁ……。


 トコトコトコ……。


 一応神眼で動向みてるよ。

 何されるかわかったもんじゃないもん。


 しばらく踵を返してゆっくり歩き出してみた……。

 特に後ろから襲って来ようとは考えてないみたいだね。


 髭伯爵に僕を殺す気が無いって言うのは本当だな。

 よし、じゃ、本格的に帰るか。


 スタスタスタ……。


 お、怒りながら帰るのか?

 今日の所はこれでいいか。

 今度このパターンの対処をベルか王様に聞かないと……


「そちのせいでおじゃるッ!」ゲシッ!!


「ギャアアアアアッ!!」


『な……』ギョッ。


 うっそだろ……。

 髭男爵が手当されてる僕に突っかかってきた兵士を蹴り飛ばしたぞ……。

 しかも傷口狙った……。


 あ、振り向いちゃった。

 いや、でもさすがにそれは……。


「余は毛皮さえもらえればよかったでおじゃるッ!何とか出来る方法があったでおじゃるッ!それが……。そちのせいで取引が台無しでおじゃるっ!」ゲシゲシッ!


「ぐはッ!す、すみませ、ん……。許して……」


「許すわけないでおじゃる!クロ殿に始末して貰えてちょうど良いと思ったから見ていたでおじゃる!他の兵士も何を見ておるのじゃッ!見ている暇があったら誰かこいつを殺すでおじゃ……」ゲシゲシゲシッ……


 ズバッ……。

 ボトッ。


「ぎゃあああああああああああああああああああッ。足が、足があぁあぁあぁぁぁ……」


『五月蠅い。消音(ミュート)


 もう声も聴きたくない。

 頭がヘンになりそうだ……。


 結局こうなるのか……。

 出来るだけ穏便に事を済まそうと思ったのになぁ……。

 ほんと、何もうまく行かないよ……。


『目障りだと言ったはずだ。貴様とて例外ではない』


 音は聞こえないけどジタバタしながら何か言ってるな。

 えっと……余は悪くない、何もしていない……とかか?

 読唇術とか出来ないけど多分そんな感じだ。


 その通り、お前は僕に何もしてなかったんだよ。

 だからずっと見逃そうとしてただろ……。

 もう見てるのも嫌になっただけだ。

 話も聞かないことにしよう。


『……兵士共に継ぐ。今すぐその屑と共に消え去れ。1()だけ待つ。間に合わなければ皆殺しだ。1、2……』


「わ、わかりましたッ!今直ぐにッ!」


「ちょっと待つのよおおおおおおおッ!」


 キャシー遅すぎるよ……。

 もう僕泣きそうだったんだけど……。

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