349話 - 指導員始めました
対龍訓練3か月目。
あれからおっさんはちょくちょく息抜きにエデンにやってくる。
この前はスチュワードさんとクラマと一緒に釣りしてたらしい。
満喫してるようで何よりだよ。
ついこの前の事だ。
ポートルの開拓に着手したから僕の家族に手伝って欲しいって言ってきたんだよね。
わざわざ僕の家まで来て酒飲んで晩御飯食べていったけどね。
『僕等の手は借りたくなかったんじゃなかったの?』
「それはツレとして甘える事をしたくねぇってことだ。お前らのパーティーに冒険者として指名依頼出すのは普通じゃねぇのか?金払うんだしよ?」
『お金は要らないけど……まぁ確かに?皆がいいならいいんじゃない?』
「私達がポートルに出向いてお手伝いをする、と言う事ですか?」
「それなら公に手伝えていいかもしれんの?エステルも自分の家族が世話になる場所の手伝いはしたいじゃろ?」
「そうですね!では喜んで!」
『ポートル行くの~?クラムもおさかな串たべたい~!』
「……ねぇね、それおいしい?」
『じゅうじんさんの国でいちばんおいしかった~!』
「クラマはポートル来たことなかったな?魚串うんめぇぞ!魔の森と別の魚も貝もたくさんある!最近交易が進んだから他にも沢山あるぞ!飯は獣人国で1番だ!だから来てくれ!な!」
子供を勧誘するなよおっさん……。
必死か。言われなくても行くって……。
「……行きたい。……いいよ」
ほらね。
クラマはタンパク質大好物だもんなぁ。
『だって?僕も賛成。じゃ、みんなの面倒よろしく頼むよ?』
「任せろ!やったぜ!兄者の次な!」
王様の村開拓の次はポートルの港開拓が僕の家族の仕事らしい。
まぁ僕としても安心だね。
マルスさんは仕事から手が離せなくてまだエデンには来ていないらしい。
そのうち僕の所に挨拶に来るって言ってた。
可哀想に……。
それはさておき……。
僕自身の仕事がなくなった……。
久々に仕事っぽい仕事だと思った薬草作り。
張り切りすぎて薬師ギルドの仕事がなくなるって言われたの……。
本気でやるなとベルに怒られた……。
仕事頑張っただけなのになぁ……。
と、言う事で今日は久々のダンジョン3階層だ!
もちろん今日はフェンリルサイズだよ。
なんで急にって思う?
だって、仕事無くなったんだもん……。
みんなが冒険に行ってる最中なにか他にできることがないか考えたんだ。
僕の仕事と言えるものは訓練と魔石作りと……
あ、僕そう言えばダンジョンマスターだった、って思い出した。
ちゃんとポケダンは見てるよ?
でも今やポケダンは訓練の時の魔物の出し入れとクラムの晩御飯中のテレビ扱いだ。
休憩所作っただけで特にやってる事ないんだもん……。
仕事の殆どは経過観察だもん……。
強いて言えば危なそうなところから魔物の量を減らしたり増やしたりする微調整くらい?
被害を減らす為の間接的なお手伝いくらいならやってもいいよね。
僕が気付ける場所なんてほんの少しだけだよ。
それすら本当は良くないんだけど気が気じゃないから許してほしい……。
そんなこんなで普段の週末は皆の様子を神眼で見たり、ダンジョンの経過観察をしながら家で薬草作ってた。
でも薬草作りはしばらくお預け……。
で、だ。
みんなは今日からしばらく王様の依頼を受けるみたいなんだ。
前に言ってた土地開発依頼がやっと入ったみたいだね?
公共事業だから心配もいらないし、その次はポートルの開拓でしょ?
僕の家族は超安全だ!
すなわち僕がめっちゃ暇じゃん!
気分的にヒモまっしぐらじゃん!
……ってな訳だ。
もちろん出かける前にウルフェンさんが要るのは確認済み。
誰も居ない所に僕1人で行くのは不安だもんね。
「あ!クロ様よ!おはようございます!」
『う、うむ。気を付けるのだぞ……』
浅い階層はちょっと久しぶりだな。
20階層を過ぎたあたりからちらほら話しかけられる事は相変わらずだなぁ。
偉そうな言葉遣いに慣れないよ……。
好きでやってるんじゃないよ!
行く前にベルやキャシーに僕が注意することを事前に相談したんだ……。
「過度に施しをするな。それでは冒険者が育たん。キャシーもそうだぞ。もう少し部下に仕事を任せろ。私はそのうち辞めるつもりなのだ」
「とばっちりだわ……。はぁ……。ただ、クロムちゃん程じゃないわよ?あまり舐められないようにした方がいいんじゃないかしら?ちょっと優しすぎるとは思うのよねぇ」
『そんなこと言われても……。加減がわかんないんだって……』
1番は舐められないように気をつけろ。
2番は無償で過度な施しをしないように注意しろ、とのことだった。
僕が直接冒険者を見ることは問題ないんだけど僕はちょっと舐められがちっぽいからね。
「わからないならとりあえず偉そうにしておけ。可能な限り尊大にな」
「そうね。それが手っ取り早そうだわ?神っぽく話せばいいんじゃない?」
『えぇ……。解放されたと思ったのに……』
だから偉そうな言葉遣いは辞められないんだ。
もういいかなって思ったのになぁ……。
ってか尊大に神っぽくってなんだよ……。
凡人にわかるわけないでしょ……。
「くっ……。マズった……」
8階層まで冒険者を見ながら歩いていると、冒険者が怪我をしていることに気付いた。
結構流血してるなぁ……。
ちょっとこの辺り、息が上がってきている冒険者が増えてるのかな?
確かこの辺りが平均到達階層なんだっけ?
そういえば前より少しだけ人が増えている気がするね。
冒険者基準で言えばこの辺から少し階層が広くなってきて辛くなるところなんだろうな。
この階層にも休憩所を作った方がよさそうだ。
実際現場に来ないと見えない部分もあるなぁ。
さて、一応怪我してるし冒険者に声を掛けるか……。
緊張するなぁ……。コホン。
『あ、あぁ~。……そこの冒険者。大丈夫か』
「ひっ!グレートウルフッ……」
『我はフェンリルだが……』
「クロ様よ!このダンジョンの管理を任されてる神の使徒様よ!知らないの!?」
「知ってる……。ま、まさか噂の……。俺等の目の前に……」
まぁフェンリルなんて見たことないよなぁ。
グレートウルフって確か無属性のシルバーの上位互換だっけ?
まぁいいや。
『我のことはいいのだ。怪我を見せてみろ。回復薬は足りているのか?』
「いえ……。もう使い切ってしまったんです……」
『そうか。”治癒”』きらきら……。
過度な施し!だからね?
”治癒”は過度じゃないよね?
頑張ってる人にちょっとだけサービスだよ。
スーパーの試食コーナーみたいなもんだって!
余り回復魔法は使わないほうがいいとは聞いてるんだけど多少ならね。
僕と会えたら幸運だとでも思って貰えばいいんじゃない?
さすがに見過ごすのは嫌だもん。
絶対こうなるからこの辺の塩梅も先にちゃんと聞いてるよ。
敬われる行動なら少しなら良いって言われたんだ。
それが当たり前にならないように注意しろって念を押されたけどね。
「う、嘘だろ……。怪我が一瞬で……。これが光魔法か……」
「本当に神の使徒様なんだわ……」
腕無くなった、とかじゃなければね。
切り傷の類は今なら殆ど一瞬でくっつくよ。
無い物を復活させたりはできないって感じだね。
まぁ取れた腕をくっつける、なら出来るかもねぇ。
『光魔法ではない。神聖魔法だ。だがこれが当たり前だと思うな。今日は運が良かったな』
「も、もちろんです!」
「神聖魔法って聖女様が使う魔法か……?そんな大層な魔法を俺に……」カタカタ……。
出た、ちょいちょい聞く聖女様。
きっと教会の中心人物だから碌なやつじゃないんだろうね。
『聖女など知らん。俗世の教会と我に関係などない』
「そ、そうでしたか……。失礼しました……」
『構わん。気に留める程ではない』
教会との関係はしっかり否定して置こう。
ベルの件で学んだんだ。
神の使徒って言っちゃうと教会絡みだと思われるからね。
それにしてもこれでもやりすぎたのかなぁ……。
一応ヒールっていったんだけど別にヒールでもないし……。
名前なんて適当だもん……。
「あの……お、お代、お布施はいくら払えばいいでしょうか……」
『布施?必要ない。……励むのは良いが無理はせんようにな。命あっての物種だ。ではな……』すたすた……。
「か、かっこいい……」
いや、かっこいいとかじゃなくて……。
あんま長々と話すとボロが出るんだよ僕……。
「お待ちくださいっ!で、ですが、それでは神に対して不敬に……」
不敬……?
僕にお返しできないと不敬になるの?
そんな大げさな……あ、そうだ。
『では、我が教会絡みだと思っている輩に我と教会に関係はないと広めて貰えると助か……。あ、いや。知らしめるのだ!……はぁ。それが対価だ』
「はいッ!必ず!」
『うむ。では達者でな』
いい感じに出来たかなぁ……。
疲れるなぁ……。
偉そうにしないといけないんだけどさすがに嫌味にはなりたくないんだよね……。
塩梅が難しいなぁ……。
「俺、今後はあの人を信仰することにするぞ!」
「私もっ!」
いや、僕を信仰するのは辞めてもろて……。
ソフィア様にしてください……。
それから、怪我を回復したりしながらゆっくり3階層まで歩いて来た。
ちゃんと余裕がなさそうな冒険者や頑張ってる人に限定したよ?
とりあえず、前みたいに騒ぎになることは無かったし攻撃されることもなかった。
ある程度僕の噂は回ってるんだろうと思う。
ざわざわしてたけどそれはもう気にしないことにしよう……。
あ、居た居た。
『ウルフェン。息災か』
「お!クロの旦那!久々じゃねぇか!!」
(ねぇねぇ。ちょっと時間ある?最近の進捗を聞きたいんだけど……)ヒソヒソ。
「もちろんだが……。なんでヒソヒソ喋ってんだ?」
(いや、みんなの前では偉そうにしてた方が色々とね……)
まぁ念話をウルフェンさんにだけ飛ばしてるだけどね。
雰囲気的に声ちっちゃくなっちゃうよね。
「あっはっは!なるほどな!ちょっと待っててくれ!仕事を引き継いでくる!」
・
・
・
『そうなるか……』
「まぁ悪い事じゃないんだけどな……」
ダンジョンの少し離れた所に僕が簡易ハウスを建てた。
少しお茶タイム、僕も休憩だ。
ウルフェンさんに最近の進捗を聞かないとね。
今は3階層に休憩所をつくっただけだ。
その効果を直接聞きたかったんだ。
ウルウェンさん曰く、休憩所のおかげで手慣れてきた冒険者が増えた。
階層を進めた人も多い。
でも逆にこの階層が快適で留まる人も増えたそうだ。
全部全部うまくは行かないなぁ……。
うーむ……。
でもこれに関しては僕も何とも言えないかも。
僕も空中階層で家作って訓練してたりしたしね。
安全に快適に訓練できるならその方が良いもん。
『休憩所を独占してるような人は居ない?』
「いねぇいねぇ。この前クロの旦那がド派手にすんげー天罰与えたろ?すんげー噂になってっから。休憩は1日1回。怪我人以外は最大半刻ってことで回してるぞ。俺等が当番を回して監視してるさ」
ド派手……。
抑えたんだけどなぁ。
極光混ぜると基本派手になりがちだよなぁ……。
いつの間にか結局、神雷って創造属性が生えてたしなぁ。
光系統は僕とシナジーがありすぎるんだよ……。
クラマに教えてもらった黒雷は生えないし。
使えるのに変なの。ま、いいや。
『すんげーすんげー効いたんだね……。まぁそれならいいよ。監視助かる。ありがと』
この世界の半刻は1時間半くらいね。
昼食や疲れを抜くにはいい塩梅だな。
休憩所を増やそうか考えてたんだけど今のところそれは必要なさそうだね。
結構広く作ったもんね。
「いや、こっちとしても怪我人がここに集まってくるから手間が減ったくらいなんだ。助かってるぞ」
『それならよかった。んー。じゃ、休憩所を1階層程下げようか?どう?それなら進捗上がるかな?』
「いや、安全地帯までの距離的には3階層がベストだ。それにこのままで大丈夫だろ。時間の問題だな」
『時間の問題?』
「ダンジョンに入るやつは稼ぎたいから入るだろ?」
『そりゃそうだろうね』
「クロの旦那には関係ねぇかもしれねぇが屑魔石、細かく言えば10等級の供給が増えてきて値段が少しずつ下がって来てるんだよ。だからそのうち稼げなくなって嫌でも先に進むしかなくなると思うぞ?」
あ、そっか。
3階層でギリギリ10等級の魔石が出ることがあるんだ。
10等級は屑魔石か砕けちゃってるもの。
でもキチンとした魔石ならいい値段になるんだよね。
銀貨1枚未満らしいけど稼ぎにはちゃんとなるよね。
でもこの階層で出るのは精々10等級まで。
しかも確率が低いときた。
11階層からは9等級がでる。
10階層のボスはたまに8等級も落とすみたいだけどね。
弱い冒険者程3階層で留まりたくはなるよ。
でも、その値段が落ちるならそりゃ先に進まないとダメになる、と。
それなら時間の問題だな。
自然の成り行きを待つって言うのも大事だね。
あとは思った通り8階層くらいにもう1つ休憩所があると助かるって事だった。
その下の階層は進捗を見て少しずつにするって事にした。
またクラムとこっそり建てにこよっと。
『了解。こんな感じでちらほら進捗聞きに来るよ』
「おう!旦那の力になれてよかったぜ!冒険者の事は俺に聞いてくれ!」
『助かるよ。じゃ、早速もう1つ聞いていい?』
「あぁ、まだ他にもあんなら相談に乗るぜ?」
『じゃ、今日僕は何すればいいと思う?』
「…………。いや、冒険者の事ならわかるが使徒様の行動を俺に聞かれてもよ……」
『…………だよね』
「使徒らしく見守っとくとかでいいんじゃねぇか?」
『…………そだね』
……使徒らしくって何だろうか。
神っぽくとか尊大にとかにもう1つミッションが増えたな……。
・
・
・
「やべぇ!後ろだッ!」
”結界”。
「キャッ……」ガンッ!
「……え?攻撃が止まった……?」
『我だ。余裕が無さすぎる。視野を広く持て』
「は、はいッ!」
はぁ……。
我ながら偉そうに……。
やだなぁ……。
結局僕は3階層に留まってみんなの様子を見てる事にした。
通りすがった人にギョッとされるけど横にウルフェンさんが居てくれる。
特に問題はないね。
そもそも僕が現れたらウルフェンさんが一緒に居てくれる手筈になってたみたいだ。
キャシーの指示だって。
ありがとキャシー……助かるよ……。
それにしてもまだ3階層だから危なっかしい人も多くいるなぁ。
1階層の方も見に行った方が良いのかなとは思うんだけど……。
さすがに過保護だよね。
自分達で頑張ってもらおう。
ってか敵全部スライムだもん。
自力で倒せないレベルでダンジョンには入らない方が良い。
外でゴブリン退治を頑張ってくれ。
ちなみにゴブリンも出せるんだよ?
でも獣人国のダンジョンの浅い階層は獣系で統一してるみたいだしね。
オークは5階層以降に居るんだけどあれは豚路線なのかなぁ。
一応邪人系だって聞いたけどその辺適当なんだろな……っと。
”結界”。
「うわっ」ガンッ。
『貴様、剣に振り回されているぞ。大剣を持つには早いと思うがな?』
貴様……が1番偉そうかなぁやっぱ……。
お前って呼ぶのすらキャラじゃないのに貴様……。
あとは、お主、とか?
偉そうではないよなぁ……。
そち……う~ん……。
「言ったでしょ!普通の剣にしなさいよ!クロ様もそう言っているわ!」
「スライムや外のゴブリン相手だと大丈夫だったんだけどな……」
うん、とりあえず違和感はないみたいだ。
色々キャラ設定固めて行こっと……。
……なんで僕は偉そうなキャラ設定について真剣に考えてるんだろうか。
あ、1人称と2人称はそのままで深く考えずにベルの真似しよっかな……?
そうしよっと。
『ダンジョン内は力より速度重視の装備の方がいい。この階層からはウルフやキラーラビットもいる。大剣を振り回しても当たらん。もう少し力に余裕が出てきてからにするのだ』
「わ、わかりましたっ!ありがとうございますッ!」
懐かしいなぁ。
エステルとの訓練を思い出すよ。
クラマは最初から強かったしなぁ。
あの子もきっと大剣を使ってた冒険者に憧れてたんだろうなぁ。
この人達もきっと外の冒険者ランクで言えばD級とかなんだろうけど。
あ、いや、DD級って言うんだっけ?
外と中では少し違うっぽいんだよね。
ダンジョンの中は戦闘力はそこそこあるけど冒険経験のない人が集まりやすいんだよね。
(クロの旦那は訓練に慣れてるんだな?)
(うちの子と散々訓練したからだよ。似たような子もいるしね)
(子育てか!子供すっげぇ好きなんだ!旦那の子供も見てみてぇなぁ!かわいいだろうなぁ……)
見てるんですよ何回も。
そして残念ながら子供の方じゃないです……。
うちの嫁です……。
魔法剣を使えるようになってから剣でめちゃくちゃしてたからね……。
「あ、クロの旦那!あっちのやつが怪我してるぞ!」
(あぁ。あいつは無視していいよ。わざとだから)
(どういうこった?)
一応この階層の戦っている冒険者は神眼で全体的に監視するようにしていた。
で、危なっかしい冒険者の場所へ歩いて行っている。
あの冒険者は最初ウルフと戦って足に怪我をしたんだ。
ただ、なかなか自力があるのかそれでもウルフに競り勝った。
そこまではよかったんだよ……。
様子見して動き辛そうだったら治してあげようかと思ったんだ。
でもあいつ……。
鞄から出そうとしたポーションをちらっとこっちを見て閉まったの。
今までちらほら冒険者を治している僕のことを見てたんだろうね。
そこから僕はあいつの事を無視していた。
すると、僕が気付いていないと思ったらしい。
僕が移動すると付いてくる。
それに上手いこと弱い魔物を選んで戦ってかすり傷をわざといっぱい受けてたんだよね……。
(……って感じ)
(そうだったのか……。冒険者がすまねぇな……)
あれ系のやつに注意しろって話だよね。
絶対現れるよなぁ……。
(いや、ウルフェンさんは関係な……)
あ、来た……。
そろそろ我慢の限界か……。
はぁ……。
「く、クロ様……。ちょっと怪我しちまいやして……。へへ……。治してくれねぇですかい?」
「おい、お前……」
(あ、ウルフェンさん、こっちでやるからちょっと見てて)
(あ、あぁ……)
『鞄の中の回復薬で治せばいいだろう?』
「あ、いや……これは……。な、仲間にやるつもりで……へへ……」
何で知ってるんだ!?
って顔してるね。
見てたもん。
ってか付いて来てたらさすがに気付くぞ……。
『仕方ない。金貨1枚だ。人の世界での治癒魔法の使用なら妥当な金額だろう?』
「そんなッ!他のやつをタダで治しているところを見てたんですぜっ!?」
『我は努力を対価に貰っているのだ。貴様の傷の大半はわざと受けた傷だろう?何故わざと受けた傷を我が治さんとならんのだ』
「そ、そんなこと……」
『ほう?我は神の使徒、要するに神の代行だ。最後に問う。貴様は神に嘘をつく、と言う事で良いのだな?』ずいっ。
「あ……い、いや……それは……」
うう……。
鳥肌が立つよ……。
自称神の代行とか寒すぎるって!!
いや、まぁ自称ではないんだけども……。
ってか神っぽくとか使徒っぽくって指示だもん!
これでいいんだよね……?
『他の者にも忠告しておく!努力をしたものには我の気分で施しをやらんでもない!だがな?我を施しを当然扱いするなら階層から姿を消す!次に会う時は我の敵だ!我は人の味方ではない!努々忘れるなっ!』
ひ、ひぇ……。
わ、わかりましたっ!
がんばりますッ!
とりあえずこの階層全体的に念話で語りかけておいた。
きっとまた勝手に噂になるんでしょ?
これは自己防衛だね。
あとこんな感じの冒険者がこれ以上増えないように保険だ。
当然扱いされるような活動はダメって注意されたしね。
まぁこんな馬鹿でかい狼が頭に直接語りかけてきたら怖いよな。
頑張ってるみんなには本当に申し訳ない……。
「えっと……。あっしは……」
まだ居たのかよ……。
どっか行けよ……。
お前のせいで皆巻き添えなんだぞ……。
『貴様はさっさと我の目の前から消え失せろ。それとも……』グルル……。
声出すの嫌なんだから早くどこかに行ってくれ……。
アンの声を脅しに使いたくないんだよ……。
「す、すいやせんでした~ッ」ピューッ……。
(はぁ……。疲れた……。やっとおわったよ……)
(旦那もなかなかやるなぁ?)
(キャラだって……。僕も僕で舐められないようにしないとダメなの……。こんな感じでよかったと思う?ちょっとやりすぎ?)
(問題ねぇ。ああ言った冒険者が調子に乗らねぇようにするのは大切だ。だが……)
(だが……?)
(クロの旦那の素の性格を知ってるから気の毒になってくるぜ……)
(…………)
それをキャシーとベルに言ってくれ……。
はぁ……。
そこから5時間程経った。
直ぐに噂は広まったらしく卑しい冒険者は僕のそばからは居なくなった。
いい感じに予防線が張れたみたいだね。
それを見届けてからポーション代を払えるなら僕が治してあげなくもない、とも言った。
怪我の度合いにもよるけど金銭か同じ価値の物と引き換えだ。
要するにただの治療院役だね。
ダンジョンに長く留まれるようになるだけから僕としても冒険者さんとしてもメリットがあるでしょ?
ちゃんと対価を取るならベルもキャシーも大丈夫って。
でも金額はウルフェンさんに判断して貰えってさ。
ちゃんと言う事聞いとこっと……。
最初から言うつもりだったんだよ……。
あいつのせいで言うタイミング逃したじゃん……。
でもそのおかげで僕を頼るかどうかを慎重に判断するようになったみたいだ。
僕の所に気軽に来る人は居なくなった。
5時間で10人くらいしか治してないし、ちゃんと判断してるみたいだね。
もうちょい気軽でもいいけど、まぁ、いい塩梅かな?
結果オーライだと思おっと……。
ん……?
入り口を見張ってたらなんか階層に冒険者っぽくないやつが護衛連れて入ってきたんだけど……。




